第60回 千年に一度の歴史に出会う
白い直線が東京湾にやってきた
2011年3月11日の午後、東京湾岸沿いの30階の仕事場にたどりついてヤレヤレとソファに身を投げ出した瞬間です。ユサユサと激しい縦揺れに続いてドワーンと振られたような大きな横揺れ。最新式の免震構造のビルだから揺れやすいとはいえ、いつもと様子が違う。関東人は大震災のDNAが働きます。ケータイをひっつかむや、トイレに飛び込みました。
ユッサユッサともまれること数分、ガチャン、ドカンと家中に壊れる音。「まいったなぁ。原稿しあげてないし、明日は講演でケガしていられない。掃除してるヒマはないし・・・」ああ、なんたる貧乏性よ!命がヤバイというのに、アタマの中は仕事のスケジュールでいっぱいです。揺れがおさまって戻ってみれば書斎の床一面に倒れた書棚の中身が散乱して山をなし、キッチンではグラス類が割れ、4,5本の洋酒の瓶が吹っ飛んで粉々。深く深くため息をつきました。
ユッサユッサともまれること数分、ガチャン、ドカンと家中に壊れる音。「まいったなぁ。原稿しあげてないし、明日は講演でケガしていられない。掃除してるヒマはないし・・・」ああ、なんたる貧乏性よ!命がヤバイというのに、アタマの中は仕事のスケジュールでいっぱいです。揺れがおさまって戻ってみれば書斎の床一面に倒れた書棚の中身が散乱して山をなし、キッチンではグラス類が割れ、4,5本の洋酒の瓶が吹っ飛んで粉々。深く深くため息をつきました。
ふと窓の外を見ると境川の川底が見えています。水が海へ引いていく、ということは・・・。すぐに東京湾に白い一直線がゆっくりゆっくり近づいてくる。「津波だ!」と体がふるえました。後で聞けば1m50cmくらいのライト級だったようですが、川を逆流してくる水を眺めながら、これが現実だとなかなか受け入れられない。実に強烈な地震体験でした。
売れっ子作家の西原理恵子は出版社の倒産で二千万円の印税がパーになったと聞くや、「細かいことはどうでもよくなった」と書いていましたが、まさに同感。それまであっちにクヨクヨ、こっちに苦悩ととっ散らかしていた「細かいこと」は一掃され、「かの地のヒトたちの不幸を思えば」アタクシの小さな不幸なんかどうでもよくなりました。
「困ったときはお互いさま」は禅の心か?
阪神大震災のときも海外メディアは「なぜこのような大混乱でも、組織的な集団暴動や略奪がおきずに、自律自制できるのか」を論じたといいます。当時私もニューヨークの友人にあれこれ聞かれた末に、「つまり日本人の心根は禅なんだ」と永平寺の坊さんのような解釈をされて面食らったものですが、今回の論調はそれ以上のようですね。
災害地でひとりがれきを探す女性の映像を見て、「危ないじゃないか、強盗や犯罪の心配はないのか?」と尋ねたアメリカ人の知人がいましたが、そばを通りかかる男なら100人中100人が「大丈夫か?手伝うか?」と気遣うはずで、この非常時に犯罪なんて発想だにしない。そんな「まっとうな」共通認識がテレパシーのように日本人の間に通いあうのだと、海外から評されて再確認したところです。
ミニ被災地体験でわかったこと
さて、30階で地震にあったアタクシは、エレベーター故障のまま一昼夜籠城、翌日地上に降りてみれば「液状化現象」のてんこ盛り。つまり被害のメインは地盤沈下で、(マンション等の大型建物そのものに異変はないのですが)地面の下はボコボコで、水道、ガスの管があちこちで切断したのです。おかげで一週間は「水汲み女」の安寿姫をやりました。
大人だけの生活なら、なんとかなるのですが、1歳9か月のいたずら盛りの孫が加わったら5分おきに「水」が必要で、バスタブ一杯の水はあっという間に無くなり、男どもを仕事場近くのホテルに追い出してもまだ追いつかぬ。まさか東京都に車で5分の浦安で噴出した砂と格闘し、水に枯渇する「砂漠の遭難者」になるとは思いもしませんでした。
大人だけの生活なら、なんとかなるのですが、1歳9か月のいたずら盛りの孫が加わったら5分おきに「水」が必要で、バスタブ一杯の水はあっという間に無くなり、男どもを仕事場近くのホテルに追い出してもまだ追いつかぬ。まさか東京都に車で5分の浦安で噴出した砂と格闘し、水に枯渇する「砂漠の遭難者」になるとは思いもしませんでした。
でも収穫もありましたよ。一つは定年退職後の熟年世代が防災隊の主役で大活躍したこと。壮年者のいない時間帯に、マンション事務所にいち早く防災本部を結成。おそるべき組織力と団結力であっという間に被害全容を把握するや、ローラー作戦で高齢者、弱者の救済にあたるし、物資購入や作業人の手配をすませてしまいました。過去の栄光の「企業戦士」はダテではなかったんですねぇ。日本の復興のためにも団塊の世代は再登場すべきだと思いました。
もう一つ、コンビニとケータイとゲームの彼方にいるとばかり思っていた団地内の、中高生が「若者、出てこい!」のオジサンらの呼び出しに応えて力仕事の奉仕をしてくれたこと。いい子たちでした。
東北の被災地でも何もかも無くした中高生らが無気力になることもなく、自主的に避難所運営の活動をしているとの報告。この国はまだまだ捨てたものじゃありません。
次回は、4月8日更新予定です。
もう一つ、コンビニとケータイとゲームの彼方にいるとばかり思っていた団地内の、中高生が「若者、出てこい!」のオジサンらの呼び出しに応えて力仕事の奉仕をしてくれたこと。いい子たちでした。
東北の被災地でも何もかも無くした中高生らが無気力になることもなく、自主的に避難所運営の活動をしているとの報告。この国はまだまだ捨てたものじゃありません。
次回は、4月8日更新予定です。
(2011年3月25日)
- お知らせ
-
宮本まき子先生の書籍
「自分も幸せになる「姑道」十カ条」
ご注文の際は、直接出版元にお問い合わせください。
※書店でのお取り扱いはありません
ご連絡先 : PHP研究所 通販普及課 マナビカ係 075-681-8818
「PHP子育てNet」
ホームページからもご購入できます。 -
宮本まき子先生へのお問い合わせはホームページから
http://homepage3.nifty.com/makiko-miyamoto/