第57回 熟年が知る本当の「おもてなし」
式場は選べても天気は選べない
数年前のこと、甥っ子の結婚式の日に関東直撃の台風が上陸したことがあります。文字通り、「花も嵐も踏み越えて」「雨が降ろうが槍が降ろうが」愛を結実させるべく挙式は決行!となったのですが、「由緒正しき神社で三々九度のあと、評判の一軒家のレストランで青空の下、楽しくガーデンパーティ」の夢と企画は大幅に狂います。
「ここからは下馬、車の乗り入れ禁止」でひなびた神社の入り口でタクシーを降ろされ、長い階段をエッチラオッチラ。その間、下から吹き上げる突風で傘はひんまがり、裾から吹き込む雨で全身びしょ濡れです。しかも古式豊かな建物の風通しはすばらしくよく、風速20メートルが式場を吹き通るたびに、濡れた体がガタガタと震えました。
「ここからは下馬、車の乗り入れ禁止」でひなびた神社の入り口でタクシーを降ろされ、長い階段をエッチラオッチラ。その間、下から吹き上げる突風で傘はひんまがり、裾から吹き込む雨で全身びしょ濡れです。しかも古式豊かな建物の風通しはすばらしくよく、風速20メートルが式場を吹き通るたびに、濡れた体がガタガタと震えました。
式後は台風上陸速報の中、石階段を濡れながら降り、貸切バスでレストランに移動したのですが、住宅地のため「大型バスは乗り入れ禁止」とかで200メートル手前で降ろされ、傘もさせない風雨にまたまたビショビショ。到着したレストランでは「おしぼり以外のタオルはありません」と言われ、ハンカチをしぼり、トイレのペーパータオルを空にして対応します。加えて「当店のウリの総ガラス張りのサンテラス」とやらから雨漏りが始まり、全てのテーブルを部屋側に寄せたため隣の卓の人たちと肩が触れそうになりました。「湿気とり」のためにエアコンの冷気が強まりブルブル。止めてくれと頼んでも「当店の規則ですので」と完全無視(翌日、一家そろって風邪で熱を出し、枕を並べました)。
少なからぬ費用と膨大な準備時間をかけたであろう新郎新婦には申し訳ないのですが、我が家のだれもがその日の料理、花嫁衣裳、スピーチ、余興を覚えていません。ただ寒かった、早く終わってと思った記憶だけ。この日以来、二人の子どもには「結婚式場は選べても天気は選べない。招待客をおもてなしするつもりなら、車で乗り付けられて、濡れずに出入りできる冷暖房完備の建物を選ぶこと」と厳命したものです。
通路で食べさせるのが「もてなし」か?
乾燥注意報がピークに達したこの冬の、よりによって一日だけ都心部に降雪予報が出た日に、友人の娘が結婚式を挙げました。出産当日に見舞った子の花嫁衣裳というのも感慨深いものです。しかも披露宴会場はパリに本店がある三ツ星のフレンチレストラン。そこの最高級のディナー・コースと厳選したワインとあれば、食いしんぼうの我がファミリーがおおいに期待したのも当然でしょう。一瞬脳裏を横切る数年前の苦行に、「大雪にならないで」と祈る思いでおりました。
近くのチャペルの挙式に列席し、みぞれの中を戻ってやれやれと披露宴会場に入ってみたら、一間もの広さに開け放たれたテラス側のガラス戸の出入り口から2メートルと離れていないところが私たちのテーブル。数分前から座っていた息子が外気温1度の風に吹かれて顔面蒼白になっていました。案内人はすました顔で「皆様がお揃いになりましたら閉めます。あとは新郎新婦の入退場と、料理を運ぶときと皿を下げる時、お客様がお手洗いをお使いになるときも開け閉めいたしますが……(つまり通路じゃんか!)」「ひざ掛けと1台だけですが、電気ストーブもご用意しましたのでこれでなんとか……」。
すると、「宴会の際の食卓の配置はマニュアルで決まっておりますし、皆様には席順表が配られておりますから変更はできません」「もう新郎新婦が入場しますので動かせません」「ひざ掛けを増やせば大丈夫です」と慇懃無礼な答え。若手の係りの人たちに次々頼んでも埒があきません。
年配支配人の危機管理能力が店の評判を救う
やがて家人が「明日も来週も大事な仕事が山積みだから、こんなところで風邪をひいていられない。私は帰りますからコートを出してください」と真顔でフロントにやってきました。続けて息子も歯の根が合わない様子で「10分と座っていられなかった。僕も帰りたい。荷物とコートを」と引き換え券をポン。何しろ数年前のトラウマがしみついております。私と娘はこれも真顔で「席を全部空にするわけにはいかないから、風よけにダウンコートを着て座ります。コートを渡してくださいな」ここにきて、やっとフロントの若い女性がことの重大さに気づいた様子。
(「敷居の高い三ツ星レストランの豪華ディナーを、庶民ごときが棒に振るはずはない」そんな驕りがあったのではないでしょうか。)
フロント係りの連絡で年配の支配人が飛んできてこちらの訴えを聞くや、「何とかいたします。もうしばらくお待ちを」と会場に駆け込んでいきました。すぐさま衆人注視の中、皿や花を載せた丸テーブルをかついて一番奥のバーカウンター前まで移動。「柱の陰で申し訳ありませんが……」と平謝りで私たち一家を誘導します。いえいえ、柱だろうが戸棚だろうがかまいません。氷点下に近い風にさらされた後の、全身を包む暖房のぬくもりは本当に嬉しい「おもてなし」でしたもの。
(「敷居の高い三ツ星レストランの豪華ディナーを、庶民ごときが棒に振るはずはない」そんな驕りがあったのではないでしょうか。)
フロント係りの連絡で年配の支配人が飛んできてこちらの訴えを聞くや、「何とかいたします。もうしばらくお待ちを」と会場に駆け込んでいきました。すぐさま衆人注視の中、皿や花を載せた丸テーブルをかついて一番奥のバーカウンター前まで移動。「柱の陰で申し訳ありませんが……」と平謝りで私たち一家を誘導します。いえいえ、柱だろうが戸棚だろうがかまいません。氷点下に近い風にさらされた後の、全身を包む暖房のぬくもりは本当に嬉しい「おもてなし」でしたもの。
人材研修が専門の娘いわく、「あの支配人の年の功、瞬発的な危機管理能力の勝利。とっさの時点でマニュアルにこだわらず、主催者の顔をつぶさぬように従業員の都合より招待客の要望を優先した姿勢と信条が、落ちかかった店の評価を救った」のだそうな。
どこかの国の首相に聴かせたい話ですねぇ。
ところで、三ツ星をいただく店の料理人の名誉のために付け加えるなら、お料理はすべて評判どおり、採点どおりの素晴らしいお味でした。きれいな花嫁姿とともに生涯、思い出に残りそうです。
次回は、2月25日更新予定です。
どこかの国の首相に聴かせたい話ですねぇ。
ところで、三ツ星をいただく店の料理人の名誉のために付け加えるなら、お料理はすべて評判どおり、採点どおりの素晴らしいお味でした。きれいな花嫁姿とともに生涯、思い出に残りそうです。
次回は、2月25日更新予定です。
(2011年2月15日)
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