第39回 昔話は肉声で語るからおもしろい
団塊の世代はおとぎ話を語れる最後の日本人かも
団塊の世代の幼少期にはテレビがありませんでした。ラジオも一家に一台で、ニュースと落語と連続ドラマを聞いたくらい。8時になれば「さぁ、寝た寝た」と布団に追いやられた子どもにとって、夜はとてつもなく長いものでした。夏は青い麻の蚊帳の中でうちわの風を送られながら、冬はブリキの湯たんぽで足先を温めながら、かい巻き布団にもぐりこんで、「ねぇ、何かお話して」と祖父母や親たちにおねだりしたものです。
私が大好きだった「桃太郎」は、話し手によって時代、場所、出演者が変幻自在、猿と犬がきびだんごをもらう辺りまでは何とかついていけても、「雉(きじ)」が現れるともうダメ……。そもそも語り手自身の「雉なる鳥」のイメージがかなりアヤシイ。
「孔雀の尾っぽがほとんど抜けたヤツ」とか「鶏に長い尾っぽがついている」、「頭が小さくて首がひょろ長くて…」とか、説明を聞くうちに眠くなってきて、鬼が島へ到着するあたりでコトンと眠ってしまうわけです。もちろん後日、絵本で結末を確認したのですが、私のモモタローは永遠に船に乗りこむところで終わっております。
だから私が話すと、「大きな桃がどんぶらこっこ、ぎっこっこ」のところが異様に長く、「モモをスパーンと割ると、カワイイ赤ちゃんが生まれました。その赤ちゃんは○○ちゃんに似て大きくて…」とどんどん脱線していき(この脱線癖は大学の講義でも同様)、うちの子どもはいつも「雉」の出番まで行きつかないうちにダウンしておりました。
ちなみにわが娘は「大きいもの」と「小さいもの」を並べると必ず(お婿さんまで)大きいほうを選ぶタイプ。あれは寝物語りの「舌切りスズメ」の影響でっしゃろね。いいお爺さんがお土産に小さいツヅラを選んでザックザックの宝物、欲張り婆さんの選んだ大きなツヅラの中身は「化け物」だった。だから「人間は謙虚さが大事」という教訓話なのですが、娘はいつも小さなツヅラの辺りで眠ってしまったので、肝心なところを聞いていません。正月の福袋でも必ず大きくて重いほうをゲットするから、ジャガイモと体重計とお皿の詰め合わせばかりで、時計もネックレスも入ってないワという悲哀を繰り返しております。
眠りに入るときの必需品は「マンネリの安心感」
人には「就眠儀式」、「これをすれば眠れる」というおまじないみたいな癖があります。大人だとラベンダーのアロマを焚く、ぬるいお風呂に30分入る、波の音のCDを聴く、ナイトキャップを一杯やる……。子どもの場合は「毎晩、同じことをする」こと。桃太郎の寝物語を365日繰り返しても、そのマンネリさが心を安定させると言われます。
一説によると、乳幼児にとって意識を失う入眠は「死」に準じるほどの恐怖感だけど、「アレをやったら必ず目覚めてる」と確信できると、「命がけ」で就眠儀式にこだわるのだそうですね。だから親が毎晩コロコロと気分や態度を変えていたり、寝る場所が違っていたり、面倒だからとテレビをつけっぱなしにするだけだと、不安で眠れません。いま、幼稚園児の20%ぐらいが睡眠不足といわれるのは、家族と一緒に宵っ張りしている以外に、就眠儀式をしてもらえなくて「安心して眠りにつけない」環境が原因の一つではないでしょうか。
以前、「生きる力」に関してインタビューをしたときに、ある青年が「中学生の頃、つらくて悲しい気分になっても、家に戻ればお腹いっぱい食べられて、お風呂に入って、気持ちのいい布団に横たわると明日はきっといいことがあると思えて眠りにつけた。親がくれた生きる力とは普通に暮らせる安心感だったような気がします」。そう! 「メシ→フロ→ネル」のルーティンを短絡的に否定しちゃいかんのですよ。
一説によると、乳幼児にとって意識を失う入眠は「死」に準じるほどの恐怖感だけど、「アレをやったら必ず目覚めてる」と確信できると、「命がけ」で就眠儀式にこだわるのだそうですね。だから親が毎晩コロコロと気分や態度を変えていたり、寝る場所が違っていたり、面倒だからとテレビをつけっぱなしにするだけだと、不安で眠れません。いま、幼稚園児の20%ぐらいが睡眠不足といわれるのは、家族と一緒に宵っ張りしている以外に、就眠儀式をしてもらえなくて「安心して眠りにつけない」環境が原因の一つではないでしょうか。
以前、「生きる力」に関してインタビューをしたときに、ある青年が「中学生の頃、つらくて悲しい気分になっても、家に戻ればお腹いっぱい食べられて、お風呂に入って、気持ちのいい布団に横たわると明日はきっといいことがあると思えて眠りにつけた。親がくれた生きる力とは普通に暮らせる安心感だったような気がします」。そう! 「メシ→フロ→ネル」のルーティンを短絡的に否定しちゃいかんのですよ。
若者は変化を、年長者はマンネリを貫くべし
お祭り騒ぎの「バブル期」を経験した団塊の世代なら気づいているでしょうが、今日は銀座の中華、明日は六本木のイタリアンとグルメを追い求めるよりも毎日の炊きたてご飯のほうが飽きずに、舌も心もほっとさせてくれます。
つまり、これでもかあれでもかと手を変え品を変えて暮らすことは、必ずしもヒトの幸福感につながらないんですね。若者が変化を求めるのは生理的にも当然のことだけど、年長者は頑固なほど「マンネリ」にこだわってブレない暮らし方をしてみせたらよろしい。それもまた人生ではアリなのだと若者たちにわからせておけば、変化や激動に飲み込まれて絶望して自殺に走りたくなる衝動を少しは止められるかもしれません。
「昔話の筋はきちんと、絵本は正確に文字のとおりに読んでよね」と娘や嫁に叱られても気にしないこと。どうせ今時の若い世代には親の介護なんぞする気はないのだから、卑屈になることはありません。
孫たちに自作独演の「昔話」を語りながら「親をブスりと刺して家に火をつけたけしからん息子は、閻魔さまにコテンパンにやっつけられましたとさ」とでも付け加えておいたらいかがざんしょ。
次回は、5月28日(金)掲載予定です。
つまり、これでもかあれでもかと手を変え品を変えて暮らすことは、必ずしもヒトの幸福感につながらないんですね。若者が変化を求めるのは生理的にも当然のことだけど、年長者は頑固なほど「マンネリ」にこだわってブレない暮らし方をしてみせたらよろしい。それもまた人生ではアリなのだと若者たちにわからせておけば、変化や激動に飲み込まれて絶望して自殺に走りたくなる衝動を少しは止められるかもしれません。
「昔話の筋はきちんと、絵本は正確に文字のとおりに読んでよね」と娘や嫁に叱られても気にしないこと。どうせ今時の若い世代には親の介護なんぞする気はないのだから、卑屈になることはありません。
孫たちに自作独演の「昔話」を語りながら「親をブスりと刺して家に火をつけたけしからん息子は、閻魔さまにコテンパンにやっつけられましたとさ」とでも付け加えておいたらいかがざんしょ。
次回は、5月28日(金)掲載予定です。
(2010年5月14日)
- お知らせ
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宮本まき子先生の新刊本が、12月16日、PHP研究所より出版されました。
「自分も幸せになる「姑道」十カ条」
ご注文の際は、直接出版元にお問い合わせください。
※書店でのお取り扱いはありません
ご連絡先 : PHP研究所 通販普及課 マナビカ係 075-681-8818
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