第20回 新米ジィジはかく戦えり記
思春期の再現みたいな父娘の相克
彼は戦中生まれで、「男は厨房に入らず」どころか母親は乳母日傘育ちの社交好き、女中が家事全般をしていた家で成人しています。だから新婚時代も新米パパ時代も、自分が「家事・育児を手伝う」という発想は限りなくゼロに近い。今回のちびっこ天使の出現は物珍しくてしかたないらしく、ウロウロと白熊のごとくに母子の周囲を巡って観察するだけなのですが、大きくなったとか、目が一重だとか、どうでもいい感想を述べてはひとり悦にいっております。
この男、アタクシが二人目を妊娠・出産したときは仕事(とプラスアルファ)の多忙を理由に、自宅に「泊まる」のがひと月に2回、「着替えをしがてら顔を見に来る」のが8回ぐらいの「非常勤パパ」でしたから、ご近所は「妾宅」と誤解。幼い娘は「お父さんは時々くるの?」とたずねられ、「来るけどすぐに帰っちゃう」と答えたとか。父の日に「顔を忘れた」とのっぺらぼうを描いて幼稚園から緊急呼び出しを受けたときも、根性よく「幻の父」を貫き通したツワモノでした。
出会いの回数が少ないのですから、見るたびにわが子は大きくなっており、気がつかないうちに風疹もおたふく風邪も終わっていて、その後の思春期や受験期がいつあってどんなだったかも今はオボロ…。
元他人のアタクシは「外科医の夫は病院に熨し(のし)付けてあげちゃった人。シングル・マザーで3人の子を育てたと思えばいい」と悟りを開いたけれど、血族の娘はそうはいきません。30代になっても相克はひきずっていて、今回の里帰り中も「くしゃみしないで、病原菌を持ち込まないで、手を洗って、うがいして、着替えして、汚ない! 音をたてないで、大声でしゃべらないで、うっるさーい!」と思春期の父娘関係を再現。総毛を逆立てて子猫を守る母猫の形相で、孫に触らせません。
娘の目を盗んでやっと数分抱っこして「ジィジでしゅよ。未来の金づるでしゅよ」などとささやく図には、かつてのモーレツ人間の悲哀が漂います。
「未完のパパ」と「不完全燃焼の子育て」のツケ
思えば団塊の世代から上は「パパ受難期」でした。女房の陣痛が強まったという連絡がきても「お前が産むわけじゃなかろう」と上司に早退願いを一蹴されたり、海外の単身赴任中で(航空運賃が高いか、あるいは交代要員がいなくて)一時帰国できず、わが子との初対面が3歳だったなんていうヒトはざらにいます。アタクシが育児書の編さんをしていたとき、某小児科の御大の先生が「病気の子のウンチはみても、自分の子のオムツを取り替えたことがない」と告白したこともあります。自他ともにパパ業より仕事人間が優先された時代でした。
10年ほど前に単行本の執筆のためのインタビューで30人の団塊の世代の男たちに「最もやったという実感のあった仕事は?」と聞いたことがあります。全員が「子育て」と答えたのにはのけぞっちまいましたね。一度も風呂に入れたこともない連中が何をほざくかと言えば、「なぁに、仕事なんぞ所詮、組織(会社・官庁)がやったことのほんの一部。達成感があるのは自分によく似た顔立ちの子どもの養育費・教育費を稼ぎだしたことだと思う」とケロリとしています。
あんたら男が「天下国家」を振りかざして仕事に没頭している間、私たち女は「邪魔をしないよう」ひっそりと子育てをし、泣く泣く自分の仕事や夢をあきらめてきたのだ。不完全燃焼の子育てをやったくせになんたる言い草かと愕然としました。以来、アタクシ、新米ママたちに「遠慮は無用、片っ端からパパに子育てを手伝わせ、おおいに煩わせて、思い出作りに貢献してやんなさい」とけしかけておりますのよン。
その「未完のパパ」が新米ジィジになって、育児の手伝いはからきしできない、留守番させても猫といい勝負、「俺のメシはどうなっている?」などと何かと赤ん坊と張り合って自己アピールしているのを見ると、言いたい放題の娘ならずとも多少イライラとしちゃうのだ。
でも「孫は来てよし、帰って良しと言うだろ?」とさかんにカマをかけてライバルの早期一掃を期待している様子。今回「激突を見通して、最初から自宅を娘夫婦に明け渡してオフィス泊まりの日々。自分専属だと思っていた妻を孫にとられる」といった環境の激変は夫にとっても未経験の戦いだったのだなぁと、気の毒に思えてくる今日このごろであります。
次回は8月14日(金)、更新予定です。
10年ほど前に単行本の執筆のためのインタビューで30人の団塊の世代の男たちに「最もやったという実感のあった仕事は?」と聞いたことがあります。全員が「子育て」と答えたのにはのけぞっちまいましたね。一度も風呂に入れたこともない連中が何をほざくかと言えば、「なぁに、仕事なんぞ所詮、組織(会社・官庁)がやったことのほんの一部。達成感があるのは自分によく似た顔立ちの子どもの養育費・教育費を稼ぎだしたことだと思う」とケロリとしています。
あんたら男が「天下国家」を振りかざして仕事に没頭している間、私たち女は「邪魔をしないよう」ひっそりと子育てをし、泣く泣く自分の仕事や夢をあきらめてきたのだ。不完全燃焼の子育てをやったくせになんたる言い草かと愕然としました。以来、アタクシ、新米ママたちに「遠慮は無用、片っ端からパパに子育てを手伝わせ、おおいに煩わせて、思い出作りに貢献してやんなさい」とけしかけておりますのよン。
その「未完のパパ」が新米ジィジになって、育児の手伝いはからきしできない、留守番させても猫といい勝負、「俺のメシはどうなっている?」などと何かと赤ん坊と張り合って自己アピールしているのを見ると、言いたい放題の娘ならずとも多少イライラとしちゃうのだ。
でも「孫は来てよし、帰って良しと言うだろ?」とさかんにカマをかけてライバルの早期一掃を期待している様子。今回「激突を見通して、最初から自宅を娘夫婦に明け渡してオフィス泊まりの日々。自分専属だと思っていた妻を孫にとられる」といった環境の激変は夫にとっても未経験の戦いだったのだなぁと、気の毒に思えてくる今日このごろであります。
次回は8月14日(金)、更新予定です。
(2009年7月24日)
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