第40回　歴女が夢見る「百聞は一見にしかず」

　長い冬だなぁと思っていたら突然初夏が来たような日々です。雪国の人たちが暖かな春を迎えるときのホッとした、嬉しく晴れ晴れとした気分を、今年は全国的に味うことができたかもしれませんね。
　普天間移転問題がこじれにこじれたおかげで、沖縄の基地問題と日米関係の歴史をこれまた、「全国的に」知らしめることができたのと違いますか。「けがの功名」とはいえ、鳩山家の御曹司はこれだけでも存在意義がありました。「もっと表舞台にいたい」という未練はおありでしょうが、歌舞伎座の閉場公演同様、どうぞ胸をはって花道を去られたらよろしい。民主党だって他に花形役者が大勢おられるでしょうが。
　今回の米海兵隊「抑止力」を「知らなかった」のはなにも鳩ちゃんだけではありません。「えっ？　東京にも米軍基地があるんですか？」と驚く若者だってワンサカいます。戦後60年たったとはいえ、風化が早すぎるのと違いますか。なんにせよ、歴史オンチが多すぎます。

　かつてニューヨークのメトロポリタン美術館の日本コーナーで、引き連れてきた大学の同級生たちにいいところを見せようとして（？）ハチャメチャなガイドをしている日本人留学生を見かけたことがあります。「これはカミシモという紙製（ウソォー、麻だろが）のサムライ・ユニフォーム」「奥州藤原氏というのは紫式部（ちゃう、義経じゃ！）のパトロン」なんて、歴女のアタクシが悶絶しそうなことをおっしゃる。
　さすがに「それ違うわヨ」と小声で注意すると「大学は地理で受験したから日本史を習ってないんです」とケロッ。聞けば公費留学らしいけど、こんな「日本知らず」のまま海外に出しちゃいけませんナ、文科省さん。早急に歴史を必修科目にし、子どもたちにもっと「考える力」と「日本文化」を身につけさせるべきでしょう。

　私が歴女になったのは、小学校時代の教師が世間で言う「アカかぶれ」で、おそろしくゆがんだ現代史観を植え付けたからかもしれません。小学校高学年の３年間は、音楽といえばロシア民謡か「コルホーズ賛歌」、「ピオニール少年隊行進曲」、「インターナショナル」を歌わされ、「労働者万歳、打倒エリート、権力反対」を復唱させられたものです（嘘みたいなホントの話）。この若き熱血先生は、勉強と掃除のノルマ達成のために班の子どもたち同士で監視や密告をさせ、サボタージュした子をホームルームで吊るしあげて猛省を促し、機嫌が悪い時には自衛隊員の子を「おまえの親は税金ドロボーだ」と罵しる始末（10歳にして「ノルマ」「サボタージュ」「反動勢力」なんて言葉を日常的に使っていたのは異常だと思うんだけど、団塊の世代はその数の多さでよく言えば「いいかげんに」、悪く言えば「おおざっぱに」しか扱われなかったのよねぇ）。
　今思えばソ連の思想改造教育と文化大革命の紅衛兵運動の表面だけを撫でたような幼稚っぽさでしたが、影響は大きかったと思います。（さすがに東西冷戦時代に「アメリカの原爆保有は戦争や殺戮のためだから巨悪で、ソ連の原爆保有は人民の幸福のためだから善だ」なんていう説明は子ども心に疑いましたよン）　
　この先生はのちに転向して教頭、校長となり、生徒の中には頭のネジを狂わされて「革命運動」に走ったものもいたという噂。罪作りなことをしてくれたものです。そんな経験しているからこそ、歴史は客観的に、正確に教えられなければいけないとつくづく思います。

　歴女なれど、アタクシいたって想像力が弱いタイプ。たとえば遺跡で掘り出された「穴」を見ても昔そこに「住居」があったなどとユメユメ思いつきません。ギリシャの神殿跡に行ったときも、大小の石がゴロゴロあるのと盛り土だけ。こんなの、うちの近所の廃墟跡にもあるぞと思いつつ、脳のどのスイッチをどう押しても、1〜２メートルの石から「高さ15メートルの壮大な建物」のイメージがわかないんですね。
　だから三内丸山遺跡に縄文時代の集会場が、平城京跡には大極殿正殿が再建されたのはホントにありがたい。ああ、ここで村議会が開かれ、ここに天皇が座っていたんだと、何の苦労もなく頭にスラスラ入っていきますから、「百聞は一見にしかず」であります。
　福井県の「朝倉氏遺跡」は戦国時代の街並みが発掘されて、そのとおりに家々を再現し、鍛冶屋や染め物屋が軒をつらねるのも興味深いものでした。熊本城にも御殿が再建されて観光客があふれてましたから、いっそ江戸城再建も本気で考えたらどうでしょう。松の廊下に大奥でもこしらえたら、押すな押すなの大盛況だと思いますよ。
　歴史を字面ばかりで教えるより、はい、これが平安京、こちらが鎌倉幕府、室町時代の街並み、こちらは○○時代の農村風景というように、日本各地に「歴史の町」を作ってですね、実際に暮らしの一部（例えば麻糸つむぎ、機織り、藁細工、石臼の粉ひきなど）や牛車引きなどを体験できるようにします。国土は狭いし、交通網がこれだけ発達しているのですから、遠足、修学旅行は全てこの歴史の町訪問にあてます。日本中の小、中、高校生が大移動するのですから、地方の活性化にもなるでしょう。そうやってでもひととおりの日本史は網羅させたいものです。


　閑話休題。「当店一番押しの目玉物件」と不動産屋が自信満々に案内したのはバブル期に作られたマンション最上階のモト豪華なメゾネット。ただしその日は風速38メートルの暴風で、窓という窓が「ガタガタ…」と揺すられて共鳴しあい、案内人の声もかき消されがち。当然だが客はスタコラと逃走。「百聞は一見にしかず」とはよく言ったものですネ。






　次回は、６月11日（金）掲載予定です。