第52回 米中間選挙で思い出したできごと
金はあとで稼げても、時間はあとで買えない
アタクシ、生来フットワークがいいほうであります。若かりしころは宮沢りえ並みの細さゆえ軽々と、腰のあたりに重みが出た今ではブルドーザーのように駆け回っています。体重が徐々に増えている間(つまり結婚・子育て・離婚願望?と女性の標準的人生段階を踏んで暮らしていたとき)は、「家庭」から離れた非日常にひたすら憧れ、「ああ、旅に出たい」と嘆いたものでした。人並みに人生山あり、谷あり、谷底ありの多忙ぶりと金欠病でぐっとがまんの大五郎。そんな時期でもチラホラと数回の海外旅行に出かけております。「カネはあとで作れても、時間はあとでは買えない」が私の持論で、借金してでも出かけたものの、夫か子どもがベチャッと貼りついての旅行ですから、まぁ、半日常が空間移動しただけのことでしたが・・・。
「水と安全がタダ」の日本人的発想
大概がその地に赴任か暮らしている友人を訪問する旅で、格安チケットや添乗員のいないパックツアーを利用。失敗やハプニングの連続でありました。なかでも初めてのニューヨークはドキドキもので、しかも「頭の柔らかい十代のうちに世界の頂点の都市を見ておくべき」と、高校生の息子を連れて行っちゃった。20年前のかの都市は鬼の市長のもと、犯罪都市の汚名を返上してやっと治安が回復したころでした。
NYに入る前の訪問地でもそれなりのホテルなのに、友人が「誰でも出入りできるところに女子どもを滞在させておけるほどこの国は安全ではない」と即座に予約をキャンセルさせ、「うちのマンションはガードマンがいてセキュリティがいいから」と泊めてくれました。聞けば高い家賃の半分はセキュリティ経費で、「水と安全はタダ」の日本では考えられず、そのあたりからかなり震え上がっておりまして。
ともかく有名ホテルなら間違いあるまいと、NYではヒルトンホテルを予約していたのですが、たどり着くや否や東京駅の新幹線口にいるような混雑と喧騒です。一時間も行列してやっとチェックインしたら、なんとダブルベッドだという。「ツインを予約したのよ」と抗議しても平然としていて、「同じ苗字だから夫婦だと思った」とか、「若いツバメか?羨ましい」とピーチクパーチク。あげくは「ボーイの数が足りないからロビーで一時間待つか、自分で旅行鞄を運んでくれ」ときました。
NYに入る前の訪問地でもそれなりのホテルなのに、友人が「誰でも出入りできるところに女子どもを滞在させておけるほどこの国は安全ではない」と即座に予約をキャンセルさせ、「うちのマンションはガードマンがいてセキュリティがいいから」と泊めてくれました。聞けば高い家賃の半分はセキュリティ経費で、「水と安全はタダ」の日本では考えられず、そのあたりからかなり震え上がっておりまして。
ともかく有名ホテルなら間違いあるまいと、NYではヒルトンホテルを予約していたのですが、たどり着くや否や東京駅の新幹線口にいるような混雑と喧騒です。一時間も行列してやっとチェックインしたら、なんとダブルベッドだという。「ツインを予約したのよ」と抗議しても平然としていて、「同じ苗字だから夫婦だと思った」とか、「若いツバメか?羨ましい」とピーチクパーチク。あげくは「ボーイの数が足りないからロビーで一時間待つか、自分で旅行鞄を運んでくれ」ときました。
東洋人の少年を見て青ざめた無頼漢たち
かなり頭にきてエレベーターを待つと、これも下の階からの客で超満員、なかなか乗れません。何度目かでやっとすき間のある箱が来たと思ったら、朝青龍サイズのアフリカ系アメリカ人が3人、デーンと占拠しています。みるからに「柄が悪そう」で嫌味たっぷりな雰囲気で小さな東洋人女をジロリと見下して、微動だにしません。一方の東洋人女もほとんどキレかかっていますから、強引にドアオープンのボタンを押し続けます。そこにバッグ二つをひっぱって息子が追いつきました。
双方無言で、緊張して固まったまま20階分を上昇。こちらがヤレヤレと降りると、なぜかあちらもホッとした表情でドアが閉じました。この話を聞いたNY在住の友人知人はみんな同じことを言うのです。
「ああ、それは息子のせい。今、こちらの映画やテレビドラマでカンフーや空手やコテンドーがさかんに出てくる。みんなほっそりした少年や青年なのに、あっという間に巨漢を倒しちゃうストーリー。東洋人の少年だというだけで先入観があるのに、連れの中年女がいやにふてぶてしい。これは余程の使い手をボディガードに連れてきたのだろうと警戒したんですよ。ちょっとでも動いていきなり足蹴りにあわないよう、彼らもビクビクしていたのでしょう」
閑話休題。先日、『サード・カルチャー・キッズ(TCK)』(スリーエーネットワーク)なる本の書評を書きました。著者はアメリカ人で、いわゆる「米国版帰国子女」の傾向と対策で、母国(ここでは米国)以外の国で、米国風なんだけど異文化体験をしながら「人格形成期(幼児、少年期)」を過ごしたヒトたちの利点、難点、問題意識、理解などなど、20年以上の研究がなされた力作です。
TCKの利点はなんといっても異文化への理解と溶け込み方の早さ(カメレオン能力)で、オバマ大統領はどの演説会場でも一瞬にして聴衆の心をとらえ、就任演説で、多民族国民の誰しもに「彼こそ俺の代弁者」と思わせたと著者の論。オバマ氏はアメリカ人とケニア人の親を持ち、幼少年期はイスラム教徒の継父とインドネシアで暮らし、中学校からキリスト教徒の祖父母とハワイで暮らした典型的な帰国子女(TCK)でした。
今回の中間選挙ではそのTCKの難点である「母国文化への違和感」を熱狂的アメリカ教徒(?)であるチョー保守的茶会派にしつこく攻撃され、「結局、オバマは俺たちと違う」というイメージをばらまかれてしまったとNYタイムスの論評。
これを読んだとき、ふっと20年前のホテルのエレベーターを思い出しました。「思い込み」や「先入観」は当人の思惑とは全く無縁のところにあるものなのになァ・・・。
次回は、12月10日(金)掲載予定です。
TCKの利点はなんといっても異文化への理解と溶け込み方の早さ(カメレオン能力)で、オバマ大統領はどの演説会場でも一瞬にして聴衆の心をとらえ、就任演説で、多民族国民の誰しもに「彼こそ俺の代弁者」と思わせたと著者の論。オバマ氏はアメリカ人とケニア人の親を持ち、幼少年期はイスラム教徒の継父とインドネシアで暮らし、中学校からキリスト教徒の祖父母とハワイで暮らした典型的な帰国子女(TCK)でした。
今回の中間選挙ではそのTCKの難点である「母国文化への違和感」を熱狂的アメリカ教徒(?)であるチョー保守的茶会派にしつこく攻撃され、「結局、オバマは俺たちと違う」というイメージをばらまかれてしまったとNYタイムスの論評。
これを読んだとき、ふっと20年前のホテルのエレベーターを思い出しました。「思い込み」や「先入観」は当人の思惑とは全く無縁のところにあるものなのになァ・・・。
次回は、12月10日(金)掲載予定です。
(2010年11月26日)
- お知らせ
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宮本まき子先生の新刊本が、12月16日、PHP研究所より出版されました。
「自分も幸せになる「姑道」十カ条」
ご注文の際は、直接出版元にお問い合わせください。
※書店でのお取り扱いはありません
ご連絡先 : PHP研究所 通販普及課 マナビカ係 075-681-8818
「PHP子育てNet」
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宮本まき子先生へのお問い合わせはホームページから
http://homepage3.nifty.com/makiko-miyamoto/