人間誰しも「食べる」ことは大きな楽しみです。しかし「胃ろう」のみならず、食の楽しみを削いできたのが、これまでの高齢者介護の反省でもあります。現在では、単なる栄養補給ではなく、五感を使って楽しむ食のあり方が提唱され、そのための身体づくりも大きな課題となっています。
今回のキャッチアップは、去る12月26日に名古屋市公会堂で開催された口腔機能の研修を紹介しながら、高齢者介護における食のあり方を考えていきます。
今回のキャッチアップは、去る12月26日に名古屋市公会堂で開催された口腔機能の研修を紹介しながら、高齢者介護における食のあり方を考えていきます。
Vol.123 目からウロコの「口腔ケア」基礎知識――講座「口腔機能&身体機能の基礎学とその支援策の基本」から(2013/01/16)
「お食い締め」を実現するための5つの視点
私たちは、生後100日目の赤ちゃんに対して、食べ物を食べさせる「お食い初め」という儀式を行います。これには、食べるものに困らないようにという願いが込められているといわれますが、「お食い初め」があるのに「お食い締め」がないのはなぜかと考えたことはありますか?
今回の講師・牧野日和さん(言語聴覚士)は、「お食い締め」を実践する専門職です。自分の父親の「お食い締め」を例に出しながら、最期まで口から食べるために専門職は何をすべきかを日々追求しています。
食事支援で牧野さんが大切にする視点は「意欲」「技能・速度」「感覚・知覚」「構造」「スタミナ」の5つです。「意欲」は文字どおり本人の食べる意欲、「技能・速度」は口腔・頸部・体幹・四肢、「感覚・知覚」は覚醒と認識、「構造」は口の中および全身の構造、「スタミナ」は食べ続ける体力を現わします。この5つの視点をアセスメントすることで、食べられない状態を作らないためのポイントがわかるのです(牧野式簡易アセスメント)。
特に「スタミナ」については、これまであまり論じられてこなかった視点だと牧野さんは言います。「たとえば車いす上で食事をしている人は、食事時間が長くなるにつれて重力に抗えず、身体が後傾になります。後傾での食事は、誤嚥の危険因子となります」。
今回の講師・牧野日和さん(言語聴覚士)は、「お食い締め」を実践する専門職です。自分の父親の「お食い締め」を例に出しながら、最期まで口から食べるために専門職は何をすべきかを日々追求しています。
食事支援で牧野さんが大切にする視点は「意欲」「技能・速度」「感覚・知覚」「構造」「スタミナ」の5つです。「意欲」は文字どおり本人の食べる意欲、「技能・速度」は口腔・頸部・体幹・四肢、「感覚・知覚」は覚醒と認識、「構造」は口の中および全身の構造、「スタミナ」は食べ続ける体力を現わします。この5つの視点をアセスメントすることで、食べられない状態を作らないためのポイントがわかるのです(牧野式簡易アセスメント)。
特に「スタミナ」については、これまであまり論じられてこなかった視点だと牧野さんは言います。「たとえば車いす上で食事をしている人は、食事時間が長くなるにつれて重力に抗えず、身体が後傾になります。後傾での食事は、誤嚥の危険因子となります」。
嚥下の新しい知見
近年は嚥下造影検査(VF)などの発達により、食べ物や水分を飲み込む過程が詳細にわかります。牧野さんが指摘する、嚥下の新しい知見は次のとおりです。
- ・ 顎のラインで線引きした場合、従来は同じポイントだと考えられていた「水分」「固形物」の飲み込みポイントが、実は水分摂取のポイントはラインの上側で起こり、固形物摂取のポイントはラインの下で行われている。
- ・ 食道の開きが悪い人に対してはよくバルーンが使われるが、実は喉仏が上がれば隣接する筋肉が開く人もいるので、一概にバルーンとは言い切れない。
- ・ 誤嚥のある人に水分を摂取してもらうのは危険が伴うといわれるが、海外では、きちんと口腔ケアをした後で水分を摂取してもらう試みが行われている。
介護業界でも、これまで常識とされてきた事柄がありますが、日進月歩の現代においては、新しい概念が芽生えているかもしれません。
お餅を食べよう。ケアの視点を広げる
年末年始に、利用者にお餅を提供した施設や事業所はどのくらいあるのでしょうか。毎年お餅を喉に詰まらせる高齢者の報道が絶えず、高齢者にお餅は禁忌という認識をもつ専門職も多いはず。しかし牧野さんは、リスクを把握したうえで摂取することは可能だといいます。牧野さんの唱えるお餅摂取のポイントは、次のとおりです。
- ・ 唾液の分泌量を確認する。
- ・ 最高のコンディションで臨む(場合によっては中止も厭わない)。
- ・ 食前30分はくず湯、5分前には梅干しがおすすめ。
- ・ 一口量は大きすぎず、小さすぎず。直径15ミリ程度。
- ・ よく噛むこと。
- ・ 有事の動線・役割を明確にする。
- ・ 吸引器の準備。
牧野さんは「嚥下食は訓練食であって、生涯食べるものではない」と言います。口から食べることの大切さは皆さんも実感しているはずです。今後は一歩踏み出して、何をどのように食べるのかまでケアの視点を広げていければ、さらなる利用者満足につながるでしょう。