厚生労働省の「平成22年 人口動態統計」によると、秋田県は自殺死亡数について、人口10万人における死亡率が33.1%となっています。これは全国平均の23.4%を大きく上回り、全国ワーストの数字です。
行政をはじめとした専門機関は防止対策を講じていますが、地域が人を支えていく仕組みができていれば、そうした人たちを水際で思いとどまらせることができるかもしれません。
本作品は、自殺防止を切り口に、地域のあり方や人とのつながり方を問う作品です。6月の公開を前に、都鳥伸也監督にお話を伺いました。
行政をはじめとした専門機関は防止対策を講じていますが、地域が人を支えていく仕組みができていれば、そうした人たちを水際で思いとどまらせることができるかもしれません。
本作品は、自殺防止を切り口に、地域のあり方や人とのつながり方を問う作品です。6月の公開を前に、都鳥伸也監督にお話を伺いました。
Vol.116 「人をつなぐ」ことが「人を支える」
――『希望のシグナル』公開記念・都鳥監督インタビュー
「自殺対策」に縛られると見えなくなる
――本作品のテーマ「自殺対策」は、重厚なテーマではありますが、ともすれば自殺者の心理を探る点にのみ焦点が絞られてしまいます。作品を作る上で、そのあたりは意識されましたか?
監督 自殺対策というカテゴリーに束縛されて抜け出せないように意識したところはあります。確かにテーマは自殺対策ですが、撮影していくと、自殺の原因となる本人の苦しさについて、周囲の人の多くはその理由がわからないといいます。そうであれば、今苦しんでいる人や残された人たちへの「これからの支援」の作品でありたいと考えました。
――作品を観ると、自殺対策が切り口ではあるけれども、支援としてのコミュニティづくりが多く描かれていますね。
監督 その意味では、作品中、藤里町米田地区のよさこいチーム「素波里 狢(すばり むじな)」が大きな役割を果たしています。リーダーの桂田さんは、若い世代を集め、よさこいを通じて自分たちで人とのつながりを作ろうとしています。
監督 自殺対策というカテゴリーに束縛されて抜け出せないように意識したところはあります。確かにテーマは自殺対策ですが、撮影していくと、自殺の原因となる本人の苦しさについて、周囲の人の多くはその理由がわからないといいます。そうであれば、今苦しんでいる人や残された人たちへの「これからの支援」の作品でありたいと考えました。
――作品を観ると、自殺対策が切り口ではあるけれども、支援としてのコミュニティづくりが多く描かれていますね。
監督 その意味では、作品中、藤里町米田地区のよさこいチーム「素波里 狢(すばり むじな)」が大きな役割を果たしています。リーダーの桂田さんは、若い世代を集め、よさこいを通じて自分たちで人とのつながりを作ろうとしています。
変わる「コミュニティ」のあり方――ムラ社会から、点でつながるコミュニティへ
――桂田さんの活動が、コミュニティづくりの一つの試金石となるように見えました。
監督 都会では地域が崩壊しているといわれますが、それは地方でも変わりません。もしかすると、地方のほうが地域崩壊の速度は速いのかもしれません。たとえば都会では、高齢者の孤立が社会問題となっていますが、地方でも、家族の中における高齢者の孤立化が進んでいます。
――同じ家にいても、孤立感を感じてしまうのはなぜでしょうか。
監督 たとえ家族でも、子どもと祖父母では価値観がまるで異なります。だからこそ、コミュニティづくりを考えるときにも、今までのような「ムラ社会」を目指すのではなく、「テーマでその時々に連帯するコミュニティ」づくりが必要とされるのではないでしょうか。
監督 都会では地域が崩壊しているといわれますが、それは地方でも変わりません。もしかすると、地方のほうが地域崩壊の速度は速いのかもしれません。たとえば都会では、高齢者の孤立が社会問題となっていますが、地方でも、家族の中における高齢者の孤立化が進んでいます。
――同じ家にいても、孤立感を感じてしまうのはなぜでしょうか。
監督 たとえ家族でも、子どもと祖父母では価値観がまるで異なります。だからこそ、コミュニティづくりを考えるときにも、今までのような「ムラ社会」を目指すのではなく、「テーマでその時々に連帯するコミュニティ」づくりが必要とされるのではないでしょうか。
点としてのコミュニティをつなげるのが専門職の役割
――コミュニティづくりで大切なのは、小さな連帯をつなぎ、大きなうねりを作り出すことともいえます。小さなままでは、いずれそのコミュニティも崩壊してしまいます。
監督 そこで大切なのが、行政や専門職です。現地の人たちは自分たちのコミュニティの維持で精いっぱいで、つなげる役割をもつ人が限られています。行政や保健師、ソーシャルワーカーがかかわることで、コミュニティを強めていくことができるのではないでしょうか。
――作品の中でも、自死遺族が人や地域とつながっていく様子が描かれていますね。撮影中、東日本大震災が起きた際にも、被災地支援として彼らが柔軟に活動するさまをみると、点をつなぐ役割の重要性がより実感されます。
監督 東日本大震災での活動を収めることで、作品に深みが出たと実感しています。自殺対策としてやってきた活動がベースとなり、想定外の事態にも臨機応変に協働できたんでしょうね。
監督 そこで大切なのが、行政や専門職です。現地の人たちは自分たちのコミュニティの維持で精いっぱいで、つなげる役割をもつ人が限られています。行政や保健師、ソーシャルワーカーがかかわることで、コミュニティを強めていくことができるのではないでしょうか。
――作品の中でも、自死遺族が人や地域とつながっていく様子が描かれていますね。撮影中、東日本大震災が起きた際にも、被災地支援として彼らが柔軟に活動するさまをみると、点をつなぐ役割の重要性がより実感されます。
監督 東日本大震災での活動を収めることで、作品に深みが出たと実感しています。自殺対策としてやってきた活動がベースとなり、想定外の事態にも臨機応変に協働できたんでしょうね。
映画が人をつなぐ
――『希望のシグナル』は6月から東京を皮切りに順次全国で上映されますが、観た人が「自分に何ができるだろうか」と考えたとき、監督としてはどのようなアドバイスをされますか。
監督 自分のそばにいる家族や親戚、友人をもう一度見つめて『自分は相手に心を開いているか』『相手のことを考えているか』を考えてほしいと思います。そして、相手を支える気持ちをもつこと。それが、地域を作る、支えることにもつながっていくのではないでしょうか。そういった意味では、福祉や介護の専門職も含めて、人を支える仕事を活動をしている人たちに観てほしいですね。
――エンドロールには、作品のサポーターとして数多くの方の名前が連ねられています。映画の中ではコミュニティや人がつながっていくさまが描かれていますが、作品自体も人をつないでいく力をもつものといえます。名古屋、大阪など、東京以外での上映も予定されている『希望のシグナル』、専門職としての立ち位置を考えるうえでもおすすめしたい作品です。
監督 自分のそばにいる家族や親戚、友人をもう一度見つめて『自分は相手に心を開いているか』『相手のことを考えているか』を考えてほしいと思います。そして、相手を支える気持ちをもつこと。それが、地域を作る、支えることにもつながっていくのではないでしょうか。そういった意味では、福祉や介護の専門職も含めて、人を支える仕事を活動をしている人たちに観てほしいですね。
――エンドロールには、作品のサポーターとして数多くの方の名前が連ねられています。映画の中ではコミュニティや人がつながっていくさまが描かれていますが、作品自体も人をつないでいく力をもつものといえます。名古屋、大阪など、東京以外での上映も予定されている『希望のシグナル』、専門職としての立ち位置を考えるうえでもおすすめしたい作品です。
(文責:けあサポ編集部)
試写を観たマスコミの方々からは『よく撮れたね』という声をいただきます。テレビのドキュメンタリーは被写体の生活に介入していくことが多いのに対して、『希望のシグナル』では拒否されたものに対して、無理に介入していません。そのため、全体を通して答えが与えられているわけではなく、いわば「自分で考える」ための素材となっていますが、情報量の多い現代社会において、自分で考えることの大切さを再認識する意味でも、大切な作品といえるのではないでしょうか。 |
配給宣伝協力の合同会社 |
『希望のシグナル−自殺防止最前線からの提言−』
日本では、毎年約3万人が自ら命を絶っている。残された家族や友人は自らを責め、悩み、ときに周囲からの偏見に苦しむ。こうした現状の中、秋田県にひとつの兆しを見つけた。日本で最も自殺率が高い地域だからこそ、先駆的な取り組みが行われていたのだ。
過疎化が進む地域のコミュニティを復活させたいと1杯100円のコーヒーサロンを始めた袴田俊英さん(心といのちを考える会)、中小企業の経営者を倒産ごときで死なせてたまるか!とNPOを立ち上げた佐藤久男さん(NPO法人 蜘蛛の糸)、仙台市で自死遺族のための自助グループを運営する田中幸子さん(藍の会)。彼らが様ざまな人々と出逢い、つながり、やがてそれが大きな流れへと至るまでを見つめる。
6月16日〜7月13日ポレポレ東中野にてモーニングショー、ほか全国順次公開
(C)『希望のシグナル』サポーターズ・クラブ/ロングラン映像メディア事業部