皆さんは認知症の人を介護する専門家として、認知症になりたいですか? なりたくないですか?
そんな問いかけから始まった「波の女」セミナー(11月14日、ウインクあいち)。今回は認知症介護研究・研修東京センターの名誉センター長の長谷川和夫さんと和田行男さんの笑劇トークの模様をお伝えします。
そんな問いかけから始まった「波の女」セミナー(11月14日、ウインクあいち)。今回は認知症介護研究・研修東京センターの名誉センター長の長谷川和夫さんと和田行男さんの笑劇トークの模様をお伝えします。
Vol.109 認知症になりたい? なりたくない? 医療と介護から認知症を語る
――長谷川和夫×和田行男
長谷川式の奥深さと怖さ
名古屋駅からほど近い「ウインクあいち」に集まった参加者はおよそ330名。月曜日の午後にもかかわらず大勢の観客が押し寄せたことからも、二人への期待の高さをうかがわせます。
第1部は長谷川さんによる「長谷川式スケールの奥深さ」。長谷川式認知症スケールの開発秘話に加えて、使用上の注意点、さらには長谷川さんが認知症ケアで大切にしていることなど、めったに聞けない話が満載です。
元々精神科の医師としてキャリアを積んでいた長谷川さんに転機が訪れたのは、今から45年ほど前のこと。当時、東京慈恵会医科大学で新福尚武先生とともに、都内の福祉施設における認知症や精神疾患患者の調査を開始したことが始まりでした。「思い込みが激しい」と自負する長谷川さんは高齢者の精神疾患や認知症の治療にのめりこみ、当時は標準化されたものが存在しなかったスケールの開発に取り組みます。今では認知症ケアの現場で当たり前のように使われているHDS-R(長谷川式認知症スケール)ですが、「新福先生の指示があって初めてできたこと」と振り返ります。
そんなHDS-Rを、長谷川さんは「本人にとってメリットは少ない」と断言します。「病気が改善するわけでもなく、診断や治療でのブレをなくすというケア側の都合から実施されるため、人に痛みを与えるテストであることを認識することが大切です。そのうえで『お願いします』という姿勢を忘れないことです」(長谷川さん)
さらに、頻繁にテストを実施する現場にも警鐘を促します。「先日、毎月実施している施設がありましたが、それはあまり意味がありません。毎年1回ほど実施しておくことでケアの指標になると思います」
第1部は長谷川さんによる「長谷川式スケールの奥深さ」。長谷川式認知症スケールの開発秘話に加えて、使用上の注意点、さらには長谷川さんが認知症ケアで大切にしていることなど、めったに聞けない話が満載です。
元々精神科の医師としてキャリアを積んでいた長谷川さんに転機が訪れたのは、今から45年ほど前のこと。当時、東京慈恵会医科大学で新福尚武先生とともに、都内の福祉施設における認知症や精神疾患患者の調査を開始したことが始まりでした。「思い込みが激しい」と自負する長谷川さんは高齢者の精神疾患や認知症の治療にのめりこみ、当時は標準化されたものが存在しなかったスケールの開発に取り組みます。今では認知症ケアの現場で当たり前のように使われているHDS-R(長谷川式認知症スケール)ですが、「新福先生の指示があって初めてできたこと」と振り返ります。
そんなHDS-Rを、長谷川さんは「本人にとってメリットは少ない」と断言します。「病気が改善するわけでもなく、診断や治療でのブレをなくすというケア側の都合から実施されるため、人に痛みを与えるテストであることを認識することが大切です。そのうえで『お願いします』という姿勢を忘れないことです」(長谷川さん)
さらに、頻繁にテストを実施する現場にも警鐘を促します。「先日、毎月実施している施設がありましたが、それはあまり意味がありません。毎年1回ほど実施しておくことでケアの指標になると思います」
認知症に「なりたい」から「なりたくない」 さらに「なっても安心」な暮らしへ
第2部は「社会を切り拓け パッション&一心」と題された、長谷川さんと和田さんのトークライブです。
二人の出会いは今から8年ほど前、認知症介護研究・研修東京センターの認知症介護指導者研修でのこと。和田さんは愛用のギターにサインをもらいましたが、長谷川さんが書いた言葉は「先生と呼ばないで」。日頃「先生」と呼ばれることの多い長谷川さんも、当日は「さん」づけで進みました。
和田さんはこれまでの長谷川さんとの付き合いの中で印象深いこととして、「自分が認知症になって組合を作りたい」と言ったら、長谷川さんは「僕も認知症になって、自分のしてきたケアを検証したい」と言ったエピソードを披露しました。しかし、自分が老いを感じる年齢になった現在、長谷川さんは「認知症にはなりたくない」と言います。「自分の思っていることと逆のことを(専門職に)されたり、専門職のやりたい放題のケアをされるのではないかと感じています」
この言葉は専門職に重くのしかかります。いわば、現在の認知症ケアでは満足できないということです。だからこそ和田さんは「認知症になったらこれができる」という視点の大切さを説きます。「どうにもならない点をポジティブにとらえることで、認知症も悪くないなと思ってもらえる。そんなかかわり方が求められてくるのではないでしょうか」
また長谷川さんは、今後の目標として「かかりつけ医の教育」を挙げます。「最初から最後まで一緒に付き合ってくれるかかりつけ医がいれば、認知症の人もどんなに心強いことでしょう」。和田さん曰く、認知症ケアの最後の砦の場面で医師がいないという現場が非常に多いとのこと。認知症の専門医だけでなく、身近なかかりつけ医が認知症の人を支えていく仕組みづくりが求められるのです。