独立行政法人福祉医療機構(WAM)による、平成22年度社会福祉振興助成事業シンポジウムとして、「虐待から子どもの命を守り、子どもに明るい未来を! 〜虐待ゼロを目指して、シェルターからの提言〜」が、10月14日、東京・千代田放送会館において行われた。児童虐待への対応として、公的な制度(社会的養護)ではフォローしきれない緊急事例の救済を行っているシェルター事業の団体代表者が集まり、活発な議論が交わされた。
Vol.91 虐待から子どもの命を守るために
−平成22年度社会福祉振興助成事業シンポジウム
児童虐待の増加とシェルター事業
本シンポジウムには定員の100名を大きく上回る参加者が集まり、児童虐待問題に対する関心の高さがうかがえた。最初の基調講演では、松原康雄氏(明治学院大学)による問題提起が行われ、その後、シェルターを運営する4つの団体から活動報告がなされた。
基調講演の冒頭では、平成21年度の児童相談所虐待相談件数が過去最多の4万4210件(速報値)となったが、潜在している虐待や虐待の定義の方法によって、実際に起こっている虐待の数はそれを超えることが予想されると指摘した。
基調講演の冒頭では、平成21年度の児童相談所虐待相談件数が過去最多の4万4210件(速報値)となったが、潜在している虐待や虐待の定義の方法によって、実際に起こっている虐待の数はそれを超えることが予想されると指摘した。
強調されたのは、虐待ケースにおける親子分離後の子どもの受け皿、介入後の子どもへの支援体制の課題である。シェルター事業にかかわる課題としては、「10代後半の子どもの一時的な生活拠点と将来設計の場の必要性」「子ども自身が直面する生活課題−ときとして養育課題へのサポートの必要性」「経済的自立から生活自立へ」があげられた。
特に、10代後半の虐待された子ども達を支える社会資源には限界があり、民間の自主活動であるシェルターに期待を寄せた。ただ、これらの民間活動を取り巻く状況としては経営面でのさまざまな課題があり、自治体単独施策としての委託や指定管理の実施、補助金の年限や使途制限などにより厳しい状況であるが、だからこそ社会福祉振興助成事業の意義があるとした。
特に、10代後半の虐待された子ども達を支える社会資源には限界があり、民間の自主活動であるシェルターに期待を寄せた。ただ、これらの民間活動を取り巻く状況としては経営面でのさまざまな課題があり、自治体単独施策としての委託や指定管理の実施、補助金の年限や使途制限などにより厳しい状況であるが、だからこそ社会福祉振興助成事業の意義があるとした。
シェルター事業のさまざまな課題−子どもが抱える問題の複雑さとスタッフの育成
続いて、各シェルター事業の代表者から活動報告が行われた。演者は、多田元氏(特定非営利活動法人子どもセンター「パオ」)、西崎宏美氏(特定非営利活動法人子どもシェルターモモ)、坪井節子氏(社会福祉法人カリヨン子どもセンター)、影山秀人氏(特定非営利活動法人子どもセンターてんぽ)。
多田氏は、虐待された期間が長期にわたり適切に守ってもらえずに生きてきた子ども達は、心の傷が深く、人間関係形成の力にも障害が生じていると述べ、個別処遇と医療面・心理面での専門的ケアの重要性を指摘した。西崎氏は、子ども達にさまざまな人とのかかわりを経験させてあげたいが、シェルターは秘密の場所のため多くの人の出入りは難しいこと、また、さまざまなケースに対応できる人材の確保、研修が欠かせないとした。坪井氏は、シェルター利用後の子ども達が次に行く場所は同法人運営の児童自立援助ホームが約40%であることを紹介し、自力では暮らせない子ども達へのケア体制の必要性を提起した。影山氏は、虐待を受けた子どもの大半が女性で性虐待被害が多いこと、大人への不信感が強く、自分への自信もなく人間関係を築けない、社会生活力が身についていない点を指摘し、スタッフの負担も重いことから、スタッフに対するケアも必要であると述べた。
どの演者も活動への熱意と子ども達への思いに溢れ、会場の参加者は熱心にメモを取りながら耳を傾けていた。
多田氏は、虐待された期間が長期にわたり適切に守ってもらえずに生きてきた子ども達は、心の傷が深く、人間関係形成の力にも障害が生じていると述べ、個別処遇と医療面・心理面での専門的ケアの重要性を指摘した。西崎氏は、子ども達にさまざまな人とのかかわりを経験させてあげたいが、シェルターは秘密の場所のため多くの人の出入りは難しいこと、また、さまざまなケースに対応できる人材の確保、研修が欠かせないとした。坪井氏は、シェルター利用後の子ども達が次に行く場所は同法人運営の児童自立援助ホームが約40%であることを紹介し、自力では暮らせない子ども達へのケア体制の必要性を提起した。影山氏は、虐待を受けた子どもの大半が女性で性虐待被害が多いこと、大人への不信感が強く、自分への自信もなく人間関係を築けない、社会生活力が身についていない点を指摘し、スタッフの負担も重いことから、スタッフに対するケアも必要であると述べた。
どの演者も活動への熱意と子ども達への思いに溢れ、会場の参加者は熱心にメモを取りながら耳を傾けていた。
シェルターを多くの人に知ってもらう
活動報告発表の後、松原氏をコーディネーターにパネルディスカッションと質疑応答が行われた。まずは松原氏から、シェルター事業は利用者のニーズもあり必要性は高く、今後も事業を拡大・充実させていかなければならないが、大きな課題の一つである資金面について問題提起した。演者からは、人件費は自治体の緊急雇用対策で賄い、運営資金は寄付金で対応しており、今後の確保が心配であること、現行の施策範囲の対応では運営していくのは難しい、国として補助金の制度化が求められる、などの意見が出された。また、スタッフの質向上が必要であると同時に、子どもと一対一で対応でき、夜間一人での勤務とならないような、人員体制の充実が求められると指摘した。さらに、シェルターから児童自立援助ホームへ移行しても、精神面、社会面ともに働ける状況にない子どもが多く、人間関係力をつくるためにもシェルターと自立援助ホームの中間的な施設が必要であるとした。
本シンポジウムのまとめに、シェルターは現行の児童福祉施策の谷間にあって適切なケアが受けられていない子ども達への支えとして非常に重要であることに間違いはないが、今後の課題として、性虐待被害に対する心のケアの充実、心理や医療の専門家との連携、シェルターの出口としての中間的な施設の必要性、スタッフ等の人材育成・質の向上、補助金や助成金制度等の資金支援を継続的なものにし運営を安定化させること等があげられた。どれも互いに関連する問題で、それぞれ重要なものである。これらを解決していく方策の一つとして、広報等を通じシェルター事業やシェルターを必要としている子ども達の存在を社会にアピールしていくことが重要と確認された。
午後のみの比較的短時間の内容であったが、参加者からの質疑に対して、壇上の演者からは率直かつ誠実なコメントが返され、「虐待から子どもの命を守りたい」というテーマそのままに、演者と参加者の強い気持ちが伝わってくる熱いシンポジウムであった。志高く先駆的な事業を行う演者達に敬意を表するとともに、今後の活動のさらなる発展が望まれる。
本シンポジウムのまとめに、シェルターは現行の児童福祉施策の谷間にあって適切なケアが受けられていない子ども達への支えとして非常に重要であることに間違いはないが、今後の課題として、性虐待被害に対する心のケアの充実、心理や医療の専門家との連携、シェルターの出口としての中間的な施設の必要性、スタッフ等の人材育成・質の向上、補助金や助成金制度等の資金支援を継続的なものにし運営を安定化させること等があげられた。どれも互いに関連する問題で、それぞれ重要なものである。これらを解決していく方策の一つとして、広報等を通じシェルター事業やシェルターを必要としている子ども達の存在を社会にアピールしていくことが重要と確認された。
午後のみの比較的短時間の内容であったが、参加者からの質疑に対して、壇上の演者からは率直かつ誠実なコメントが返され、「虐待から子どもの命を守りたい」というテーマそのままに、演者と参加者の強い気持ちが伝わってくる熱いシンポジウムであった。志高く先駆的な事業を行う演者達に敬意を表するとともに、今後の活動のさらなる発展が望まれる。