自身の派遣社員生活を記録した『遭難フリーター』(2009年)が話題となった映画監督・岩淵弘樹さん。岩淵監督は、高齢者施設で働く現役の介護職員です。今回のキャッチ・アップでは、新作『サンタクロースをつかまえて』に込めた思いとともに、介護という仕事が映画の撮影にどのように投影されているのかを尋ねます。
Vol.120 監督は現役の介護職員―『サンタクロースをつかまえて』上映記念インタビュー(2012/11/20)
映像関係の仕事の代替として就いた介護の仕事。働き始めてみると…
――現在、東京都内の有料老人ホームで正職員として介護の仕事に就き、再来年には介護福祉士の資格を取得したいと語る岩淵弘樹監督。『遭難フリーター』など派遣社員としてさまざまな業種に従事してきた監督が、なぜ、介護という仕事に就こうと考えたのでしょうか。
監督 元々映像関係の仕事に就きたいと考えて、ハローワークで求人欄を見ていましたが、「専門職」の欄では映像関係の求人が圧倒的に少ないのが現実でした。代わりに目に多くついたのが「介護」の仕事です。学生時代に障害者ボランティアを経験したこともあり、「介護の仕事というのもアリかな」と思ったのがきっかけです。
――未経験で介護の仕事に就いたことになりますが、実際に働き始めた印象はいかがですか。
監督 まず、全くの無資格では働けない施設が多かったので、職業訓練給付金制度を使ってホームヘルパー2級の資格を取得してから、現在のホームに入社しました。よく理念と実践は違うといわれますが、確かに当初は、時間に追われて「したいことができない」というジレンマがありました。ただ、幸いにも私の職場はチームワークがよく、現状を改善していこうとする意識の高い職員が多いので、現在までやりがいを感じながら仕事を続けられてきました。
――監督が経験されてきた営業職や工場などの仕事と比べて、介護の仕事は対人援助という特徴があります。これまでの仕事との違いを感じることはありますか。
監督 工場に勤務していたときは、時計ばかり見ていたことを思い出します。介護現場でも時計を見ることはありますが、それは工場時代の「時間に追われて」時計を見るという習慣ではなく、1日の生活の流れを確認するためです。また、工場では本社社長のビデオが流され、経営的な数字を並べられるのですが、大きすぎて全く実感がなかったことを覚えています。
――監督にとって、介護はこれまでの仕事と意味合いが異なることがわかりました。現在の仕事で達成感ややるせなさを感じることがあるとすれば、どのようなときですか。
監督 達成感を感じるときは、常時おむつをしている入居者が、チームでかかわることで、日中のある部分ではトイレでの排泄が可能になったときなどですね。反対に、病院に入院した入居者がそのまま亡くなったときなどは、お別れすら言えなかった寂しさが残ります。
監督 元々映像関係の仕事に就きたいと考えて、ハローワークで求人欄を見ていましたが、「専門職」の欄では映像関係の求人が圧倒的に少ないのが現実でした。代わりに目に多くついたのが「介護」の仕事です。学生時代に障害者ボランティアを経験したこともあり、「介護の仕事というのもアリかな」と思ったのがきっかけです。
――未経験で介護の仕事に就いたことになりますが、実際に働き始めた印象はいかがですか。
監督 まず、全くの無資格では働けない施設が多かったので、職業訓練給付金制度を使ってホームヘルパー2級の資格を取得してから、現在のホームに入社しました。よく理念と実践は違うといわれますが、確かに当初は、時間に追われて「したいことができない」というジレンマがありました。ただ、幸いにも私の職場はチームワークがよく、現状を改善していこうとする意識の高い職員が多いので、現在までやりがいを感じながら仕事を続けられてきました。
――監督が経験されてきた営業職や工場などの仕事と比べて、介護の仕事は対人援助という特徴があります。これまでの仕事との違いを感じることはありますか。
監督 工場に勤務していたときは、時計ばかり見ていたことを思い出します。介護現場でも時計を見ることはありますが、それは工場時代の「時間に追われて」時計を見るという習慣ではなく、1日の生活の流れを確認するためです。また、工場では本社社長のビデオが流され、経営的な数字を並べられるのですが、大きすぎて全く実感がなかったことを覚えています。
――監督にとって、介護はこれまでの仕事と意味合いが異なることがわかりました。現在の仕事で達成感ややるせなさを感じることがあるとすれば、どのようなときですか。
監督 達成感を感じるときは、常時おむつをしている入居者が、チームでかかわることで、日中のある部分ではトイレでの排泄が可能になったときなどですね。反対に、病院に入院した入居者がそのまま亡くなったときなどは、お別れすら言えなかった寂しさが残ります。
光のページェントと震災――2つの時間軸が振り子になる
――介護の仕事について伺ったあとは、12月から東京・ユーロスペースで上映される『サンタクロースをつかまえて』について聞いていきます。まず、今回同作品を撮影しようと思ったきっかけについて教えてください。
監督 プロデューサーの山内大堂さんから「(2011年の)クリスマスに何かしませんか(撮りませんか)」と誘われたのがきっかけです。私は仙台市出身ですが、仙台ではよく知られる、並木道に無数の照明が照らされる「光のページェント」に使うLED電球が、東日本大震災ですべて流されたというニュースを聞いていて、今年はどうなるのだろうかと気になっていました。そこで、仮に開催するのであれば、仙台が光輝く風景を撮ることはできないかと考えたのが始まりです。
実は震災の後、仙台の実家周辺を撮影したフィルムがあり、そのフィルムも含めて仙台の映画が作れないかと考えました。
――監督の母親が、会社から送られてきた「出社されたし」というメールを何回も嬉しさをこらえながら読み上げる姿は印象的ですね。
監督 家の中だけでも10時間以上カメラを回し続け、あのシーンはそのなかで偶然撮れたものです。私自身、涙をこらえたことを覚えています。仙台に帰ったのは震災から9日後の3月20日ですが、あの頃から再生・復興が始まったという印象を受けました。
――光のページェントは無事開催され、作品には仙台のクリスマスを彩るさまざまな人が、さまざまな立場で登場してきます。
監督 仙台の人々は、正直言って光のページェントに飽きていたと思うんです。大震災を経て、光のページェントのあり方が人々のなかで何か変わったのか見てみたかったといえます。
監督 プロデューサーの山内大堂さんから「(2011年の)クリスマスに何かしませんか(撮りませんか)」と誘われたのがきっかけです。私は仙台市出身ですが、仙台ではよく知られる、並木道に無数の照明が照らされる「光のページェント」に使うLED電球が、東日本大震災ですべて流されたというニュースを聞いていて、今年はどうなるのだろうかと気になっていました。そこで、仮に開催するのであれば、仙台が光輝く風景を撮ることはできないかと考えたのが始まりです。
実は震災の後、仙台の実家周辺を撮影したフィルムがあり、そのフィルムも含めて仙台の映画が作れないかと考えました。
――監督の母親が、会社から送られてきた「出社されたし」というメールを何回も嬉しさをこらえながら読み上げる姿は印象的ですね。
監督 家の中だけでも10時間以上カメラを回し続け、あのシーンはそのなかで偶然撮れたものです。私自身、涙をこらえたことを覚えています。仙台に帰ったのは震災から9日後の3月20日ですが、あの頃から再生・復興が始まったという印象を受けました。
――光のページェントは無事開催され、作品には仙台のクリスマスを彩るさまざまな人が、さまざまな立場で登場してきます。
監督 仙台の人々は、正直言って光のページェントに飽きていたと思うんです。大震災を経て、光のページェントのあり方が人々のなかで何か変わったのか見てみたかったといえます。
☆
最後に、介護の仕事は今回の作品にどのような影響を与えているか尋ねると、監督は「正社員として社会に参加することで、今回登場するサラリーマンの友人との会話が撮れたと思います。社会人としての視点がなければ、『サンタクロースをつかまえて』は成立しなかったはずです」と答えます。
監督は「光のページェントを知っている人には特に作品を観てほしい」と言いますが、仙台出身者のみならず、全国の介護職が、自分の仲間の作品にどう向き合い、共感し、反発を覚えるのか、興味は尽きません。
配給会社の東風・向坪美保さん(右)とともに。興味深いタイトルは、サリンジャーの小説『ライ麦畑でつかまえて』からインスパイアされたそうです。「『サンタクロースをつかまえて』は、いわゆる震災ものの範疇に収まらない作品です。東京を皮切りに、仙台を始めとする全国各地で上映を予定しています。ぜひ足をお運びください」(向坪さん)
岩淵弘樹監と督配給会社の東風・向坪美保さん
『サンタクロースをつかまえて』
2011年12月、仙台の街は震災後はじめてのクリスマスを迎えた。
55万個のLED電球が津波で流され、開催が危ぶまれた仙台の冬の風物詩・光のページェントだが、今年も街を照らした。街を彩るイルミネーション、鳴り響くファンファーレ。
教会では歌と祈りが捧げられ、子どもたちの枕元にプレゼントが並ぶ。
イヴの夜にはベランダでサンタさんへプレゼントをお願いする娘とそれを見守る父親。仙台を拠点に活動するミュージシャン・澁谷浩次(yumbo)は震災直後に避難所で演奏した映像を動画サイトにアップした思い、幼い日のクリスマスの思い出を語る。
そして、22歳までサンタクロースを信じていたという仙台出身の岩淵弘樹監督と、その両親。震災後も続く営みのなかで、それぞれのクリスマスを迎える人々をとびきり愛おしく映し出す。
12月8日(土)〜28日(金)ユーロスペースにて3週間限定レイトショー、12月22日(土)〜28日(金)フォーラム仙台にて、他全国公開
(C)ballooner
公式HP http://chasing-santa.com/