全国各地で活躍する福祉・介護に携わる方々を「けあサポ」がリポートします!
第5回 ケアマネジャーという仕事がもつ魅力(静岡県)
楢木博之さん(御殿場高原病院居宅介護支援事業所・静岡県御殿場市)
関係機関との連携を大切に
「今日はまず、デイサービスに利用者さんの様子をみにいきます」。そう言いながら、楢木博之さんは御殿場市内の国道に車を走らせていく。御殿場市は人口8万9千人、静岡県東部に位置する富士山のふもとにある高原都市だ。雲がかかる富士山を横目に、国道から道を折れ、集落の狭い道に入っていく。到着したのは、一見ふつうの民家のような「古民家デイサービス たまほ村」。築30年の自宅を改装したという「たまほ村」の1日の定員は10名。16畳ほどの広い和室では、利用者と介護職員が談笑している。小規模デイサービスならではの落ち着いた雰囲気だ。
たまほ村を辞去し、次は地域包括支援センター富岳に所長の津留文代さんを訪ねる。利用者や地域の情報交換や、楢木さんがキャラバン・メイトを務める認知症サポーター養成講座について話し合う。聞くと、利用者宅の訪問だけではなく、このような関係機関に顔を出すことも多いという。
「利用者が落ち着いて過ごせるデイサービスや、思いを同じくする包括センターなどの存在はとてもありがたい。ケアマネジャー1人では十分な支援はできません。信頼できるケアチームの有無により、仕事の質は大きく左右されます」
ある患者との出会いが仕事の魅力に目を開かせる
楢木さんは、東北福祉大学を卒業後、平成7年に御殿場高原病院の医療ソーシャルワーカー(MSW)に就き、13年からは同病院の居宅介護支援事業所でケアマネジャーを兼務。また、地域のケアマネジャーで作る団体である御殿場・小山介護支援専門員連絡協議会の会長や静岡県MSW協会の事務局も務めるほか、自らが中心となって若手のMSWとの自主勉強会を開いている。取得資格をみると、平成11年に介護福祉士、12年にケアマネジャー、14年に社会福祉士、16年に精神保健福祉士。キャリアや資格は、一見ソーシャルワーカーの王道だが──。
「実は、大学の志望動機は野球だったんです(笑)」。野球にかかわる仕事がしたくての進学だったが、卒業時は平成不況のただ中。ほかにいい就職口もなく、紹介された現在の病院のMSWに落ち着いたそう。「福祉に興味はなく、在学中も勉強はまったくしませんでした。採用された時も、ソーシャルワーカーって何?という感じでした」。
「実は、大学の志望動機は野球だったんです(笑)」。野球にかかわる仕事がしたくての進学だったが、卒業時は平成不況のただ中。ほかにいい就職口もなく、紹介された現在の病院のMSWに落ち着いたそう。「福祉に興味はなく、在学中も勉強はまったくしませんでした。採用された時も、ソーシャルワーカーって何?という感じでした」。
「ソーシャルワーカー志望であればありがたい職場ですが、まったく知識がなかったので何をすればいいかわからず、患者の家族から担当を変えてほしいと言われたこともあります」と当時を振り返り苦笑する。苦労の連続に「いつ辞めるかばかり考えていた」日が続いたが、ある患者との出会いが転機となった。
「MSW3年目に、ある女性の入院患者と出会いました。私のことを自分の子どもと思いこんでいた方なのですが、こちらの言葉や接し方で笑顔が生まれたり元気になったり、初めて自分が役だっていると実感できました」
自分の存在や言葉が人に影響を与える──これがソーシャルワークという仕事の魅力を発見するきっかけだったという。もうひとつの転機が、資格取得のための勉強だった。さまざまな資格をとるなかで、自分の実践を裏づけする理論があることに初めて気がついたという。「経験で学んだことが理論化されていることを知った時は衝撃を受けました。あらためてソーシャルワーカーとしての自分のあり方を考えるようになりましたね」。平成16年からは、ケアマネジャーとして働く傍ら大学院の修士課程に進み、学としてのソーシャルワーク・ケアマネジメントをより深めることにチャレンジしている。
実践のなかでソーシャルワークの面白さを見つけ、その理論を大学院で修める。積極的な姿勢に、さぞ仕事が楽しいのだろうと思うと、そう単純な話ではないようだ。
「ケアマネジャーの仕事に、これでいいという正解はないのだと思います」
経験を重ね理論を学んでも、やはり利用者とのかかわりでは悩み、また責任の重さにつぶれそうになることもあるという。「やりがいや面白さのなかにもプレッシャーがあり、一筋縄ではいかない仕事です。知識は参考にはなっても解答ではありません。おそらく今後も悩み続けると思います(笑)」。
業務自体の難しさ、どこまでやればいいのかという仕事の範囲の不明確さ──ケアマネジャーの仕事には困難が多い。だがだからこそ、そこに面白さや醍醐味を見つけることができるのかもしれない。