5月28、29日の2日間にわたり、第58回日本医療社会事業全国大会、第30回日本医療社会事業学会がメルパルクNAGANO(長野県長野市)で開催されました。主催は、社団法人日本医療社会事業協会と長野県医療社会事業協会。同協会は医療ソーシャルワーカーの職能団体で、全国大会は年1回の大イベントです。この模様をお届けします。
Vol.83 第58回日本医療社会事業全国大会・第30回日本医療社会事業学会が開催
全国から800名の医療ソーシャルワーカーが参加
長野を開催地とした今大会には、全国から約800名の医療ソーシャルワーカーが参集した。大会テーマは、「相談しましょ♪そうしましょっ。〜激動の時代 ソーシャルワーク原点回帰〜」。政治の情勢や社会保障にまつわる各制度・施策の動向から、今を“激動の時代”ととらえ、そうしたなかで現場のソーシャルワーカーたちにはより一層の活躍が期待されているとして、相談援助職としてのソーシャルワークを原点に立ち返って考えようと投げかけたテーマだ。
このテーマにふさわしく、大会初日の初めのプログラムは「倫理綱領とソーシャルワーク実践」。現場の医療ソーシャルワーカーと学識経験者による鼎談で議論を深めた。演者は、植竹日奈氏(NHOまつもと医療センター 中信松本病院)、広瀬豊氏(松本大学松商短期大学部)、堀越由紀子氏(田園調布学園大学)。コーディネーターを、小巻佳人氏(北信圏域こころの相談センター)、田村里子氏(東札幌病院)が務めた。
倫理綱領に掲げられている専門職としての活動指針を実践とどう結びつけていくかという議題に対し、植竹氏は3つの事例を紹介しながら現場実践のなかで遭遇するジレンマを提起。広瀬氏は、ソーシャルワーカーを目指そうとしている学生の養成過程のなかで感じていることを中心に、専門職としての「価値」の重要性を説いた。
堀越氏は、日本医療社会事業協会における倫理綱領策定の経過を示し、日常の実践との乖離や現状の課題を述べた。本質的なテーマであり、議論はすっきりまとまる形にはならなかったものの、倫理綱領の大切さを参加者とともに再確認する場になった。
このテーマにふさわしく、大会初日の初めのプログラムは「倫理綱領とソーシャルワーク実践」。現場の医療ソーシャルワーカーと学識経験者による鼎談で議論を深めた。演者は、植竹日奈氏(NHOまつもと医療センター 中信松本病院)、広瀬豊氏(松本大学松商短期大学部)、堀越由紀子氏(田園調布学園大学)。コーディネーターを、小巻佳人氏(北信圏域こころの相談センター)、田村里子氏(東札幌病院)が務めた。
倫理綱領に掲げられている専門職としての活動指針を実践とどう結びつけていくかという議題に対し、植竹氏は3つの事例を紹介しながら現場実践のなかで遭遇するジレンマを提起。広瀬氏は、ソーシャルワーカーを目指そうとしている学生の養成過程のなかで感じていることを中心に、専門職としての「価値」の重要性を説いた。
堀越氏は、日本医療社会事業協会における倫理綱領策定の経過を示し、日常の実践との乖離や現状の課題を述べた。本質的なテーマであり、議論はすっきりまとまる形にはならなかったものの、倫理綱領の大切さを参加者とともに再確認する場になった。
いのちをとらえなおす“2.5人称の視点”
プログラムの2つめは、ノンフィクション作家の柳田邦男氏による特別講演「患者はどこへ行ったのか?〜いのちをとらえなおす“2.5人称の視点”〜」。今年74歳になる柳田氏は、ジャーナリズムに生きて50年。「生涯、取材者でありたい」と言い、(1)現場へ行くこと、(2)現場を見ること、(3)現場にいる人の話を聴くこと、の3つをモットーに掲げる。
氏は冒頭、専門分化が進む現代社会においては、自分の専門分野の視点と知識を通してしか対象を見なくなる“視野狭窄”に陥りやすいと述べた。タイトルの「患者はどこへ行ったのか?」は、その“視野狭窄”が病む人間を見る人々の眼に起こっている現実をとらえて形容したもの。講演では、自身の取材にもとづく数々の事例の紹介と考察をふまえ、「生と死の人称性」における“2.5人称の視点”を唱えた。
生と死の1人称とは、医療の選択や人生の最終章の生き方など、生と死を「当事者」の視点でとらえたもの。2人称は、生と死の「当事者と身近な人(主には家族)」のなかでとらえられるもの。日々の介護やグリーフワークが挙げられる。
3人称は、「当事者、家族、専門家」のなかでとらえられるもの。ここで、医療や介護サービスの提供という形で3つめの存在、専門家が登場してくる。氏は、医療や介護の専門性とはまさにこの存在を指すが、これら専門家(3人称)には“落とし穴”があるという。それは、感情抑制や客観性の重視、科学主義であり、そのことにより「心をみる眼の希薄化」が起こってくる。そこで、3人称の重要部分(=専門性)は得ながら、「人間を愛する心でその身になって考えること」を2.5人称として、そうした視点で患者・家族にかかわってほしいと、熱心に耳をかたむける会場の医療ソーシャルワーカーたちに投げかけた。
氏は冒頭、専門分化が進む現代社会においては、自分の専門分野の視点と知識を通してしか対象を見なくなる“視野狭窄”に陥りやすいと述べた。タイトルの「患者はどこへ行ったのか?」は、その“視野狭窄”が病む人間を見る人々の眼に起こっている現実をとらえて形容したもの。講演では、自身の取材にもとづく数々の事例の紹介と考察をふまえ、「生と死の人称性」における“2.5人称の視点”を唱えた。
生と死の1人称とは、医療の選択や人生の最終章の生き方など、生と死を「当事者」の視点でとらえたもの。2人称は、生と死の「当事者と身近な人(主には家族)」のなかでとらえられるもの。日々の介護やグリーフワークが挙げられる。
3人称は、「当事者、家族、専門家」のなかでとらえられるもの。ここで、医療や介護サービスの提供という形で3つめの存在、専門家が登場してくる。氏は、医療や介護の専門性とはまさにこの存在を指すが、これら専門家(3人称)には“落とし穴”があるという。それは、感情抑制や客観性の重視、科学主義であり、そのことにより「心をみる眼の希薄化」が起こってくる。そこで、3人称の重要部分(=専門性)は得ながら、「人間を愛する心でその身になって考えること」を2.5人称として、そうした視点で患者・家族にかかわってほしいと、熱心に耳をかたむける会場の医療ソーシャルワーカーたちに投げかけた。
総会では、協会の定款変更が議案に
続いて、日本医療社会事業協会の定期総会が行われた。同協会は1953(昭和28)年に全国組織として結成され、1964(昭和39)年に社団法人として認可された団体で、日本のソーシャルワーカーの団体のなかで最も古い歴史をもつ。大会の開会式では永年表彰式が催され、今年は25年表彰を受けた会員が挨拶に立った。由緒ある団体ならではのイベントである。会員の参会意識も総じて高く、総会での議論は例年白熱する。
今年の目玉は、協会の定款変更が議案に挙げられたこと。変更の提案理由は、「公益社団法人への移行を行うため」が大きな一つ。「認定社会福祉士(医療分野)制度を創設し認定事業を行うため」が二つめ。各会員からは、特に会員資格や認定社会福祉士制度に対する疑問や不安の声が相次いだ。医療ソーシャルワーカーは、特定の専門資格の保有をもって各医療機関に位置づけられてはおらず、出身職種などワーカーのバックボーンは異なる。
新定款では、「社会福祉士の資格を有する個人」が明示され、現会員の扱いや入会を希望している無資格者への対応が見えづらい。
認定社会福祉士については、同様の制度創設を検討している日本社会福祉士会との調整・合意が不可欠というのが全体の雰囲気。結局、本議案は否決された。理事会としては、公益社団法人化のために会員の賛同を得たい内容であり、8月に予定している臨時総会で改めて協議することになる。
総会後は交流会が催された。全国大会だけあって、参加者は各県から志をもったワーカーが集っている。それぞれに声をかけ、仕事の状況などを尋ねていくと、悩みながらも真摯に取り組んでいる様子が伝わってくる。東京から参加していた20代の女性は、「めげそうになることも多いですが、笑顔で退院していただけるとうれしい。やりがいのある仕事です」と目をキラキラさせて返してくれた。
今年の目玉は、協会の定款変更が議案に挙げられたこと。変更の提案理由は、「公益社団法人への移行を行うため」が大きな一つ。「認定社会福祉士(医療分野)制度を創設し認定事業を行うため」が二つめ。各会員からは、特に会員資格や認定社会福祉士制度に対する疑問や不安の声が相次いだ。医療ソーシャルワーカーは、特定の専門資格の保有をもって各医療機関に位置づけられてはおらず、出身職種などワーカーのバックボーンは異なる。
新定款では、「社会福祉士の資格を有する個人」が明示され、現会員の扱いや入会を希望している無資格者への対応が見えづらい。
認定社会福祉士については、同様の制度創設を検討している日本社会福祉士会との調整・合意が不可欠というのが全体の雰囲気。結局、本議案は否決された。理事会としては、公益社団法人化のために会員の賛同を得たい内容であり、8月に予定している臨時総会で改めて協議することになる。
総会後は交流会が催された。全国大会だけあって、参加者は各県から志をもったワーカーが集っている。それぞれに声をかけ、仕事の状況などを尋ねていくと、悩みながらも真摯に取り組んでいる様子が伝わってくる。東京から参加していた20代の女性は、「めげそうになることも多いですが、笑顔で退院していただけるとうれしい。やりがいのある仕事です」と目をキラキラさせて返してくれた。
先行する韓国の医療ソーシャルワーク
大会2日目は、はじめに、ソーシャルワーク研究の第一人者である岡本民夫氏(同志社大学名誉教授)による研究発表セミナーが行われた。
テーマは「医療保健現場におけるソーシャルワーク研究の展開」。ソーシャルワークの実践的研究の沿革をひも解きながら、研究の基本構造や具体的展開、研究過程における問題などについて説き、今後の課題にも言及した。現在、学識者、現場実践者いずれもさまざまな形態の研究に携わる機会は多い。研究の歴史的経過をふまえ、この枠組みを学ぶという意味で、参加者には貴重な場になっていたようだ。
続いて、記念講演「『健康長寿・低医療費』の長野モデルの再検証」が行われた。演者は、農村での地域医療に携わる長純一氏(JA長野厚生連佐久総合病院地域診療所科医長)。
氏は、農村医学の先駆けである故若月俊一に学ぶため、佐久総合病院に入職し地域医療に従事してきた。長野県は一般的に、健康長寿と低医療費で知られる。講演では、この歴史的背景を紹介しつつ、長寿学なども援用しながら要因を分析。老人医療費を左右する要素として、入院・在宅死・持ち家率・民間病院の数を挙げ、そこに長野県の状況を対比させるなど、論旨には具体性があり、参加者の多くは引き込まれるように聴き入っていた。
現在は状況が変わってきていること、自身の考える長野モデルの意味へと展開し、同モデルを再検証することで、望ましい医療・社会保障のあり方を示す可能性があると結んだ。
午前中のこれら2演題と併行して、大韓医療社会福祉士協会によるラウンドテーブルが催された。テーマは「韓日の医療ソーシャルワークの現状と課題」。同協会から5名のプレゼンター(会長、副会長、国際交流委員長、インターン教育委員長、事務局長)が登壇し、さまざまな角度から韓国における医療ソーシャルワークの現状を伝え、質疑応答を行うという進め方。
プレゼンテーションタイトルは、「韓国の医療社会福祉」「医療社会福祉士資格制度」「医療費支援関連」「医療社会福祉士修練教育制度」「韓国医療社会福祉報酬体系」の5題。韓国では、1970年代から医療ソーシャルワークに診療報酬が設定され、医療チームにおけるポジションが確立している。社会福祉士の資格制度の整備も進み、2008年には認定医療ソーシャルワーカーが制度化されている。日本と比べて先行している部分は多く、どのようにしてそのような経過をたどっていったのかなど、参加者の関心の高さがうかがえた。
テーマは「医療保健現場におけるソーシャルワーク研究の展開」。ソーシャルワークの実践的研究の沿革をひも解きながら、研究の基本構造や具体的展開、研究過程における問題などについて説き、今後の課題にも言及した。現在、学識者、現場実践者いずれもさまざまな形態の研究に携わる機会は多い。研究の歴史的経過をふまえ、この枠組みを学ぶという意味で、参加者には貴重な場になっていたようだ。
続いて、記念講演「『健康長寿・低医療費』の長野モデルの再検証」が行われた。演者は、農村での地域医療に携わる長純一氏(JA長野厚生連佐久総合病院地域診療所科医長)。
氏は、農村医学の先駆けである故若月俊一に学ぶため、佐久総合病院に入職し地域医療に従事してきた。長野県は一般的に、健康長寿と低医療費で知られる。講演では、この歴史的背景を紹介しつつ、長寿学なども援用しながら要因を分析。老人医療費を左右する要素として、入院・在宅死・持ち家率・民間病院の数を挙げ、そこに長野県の状況を対比させるなど、論旨には具体性があり、参加者の多くは引き込まれるように聴き入っていた。
現在は状況が変わってきていること、自身の考える長野モデルの意味へと展開し、同モデルを再検証することで、望ましい医療・社会保障のあり方を示す可能性があると結んだ。
午前中のこれら2演題と併行して、大韓医療社会福祉士協会によるラウンドテーブルが催された。テーマは「韓日の医療ソーシャルワークの現状と課題」。同協会から5名のプレゼンター(会長、副会長、国際交流委員長、インターン教育委員長、事務局長)が登壇し、さまざまな角度から韓国における医療ソーシャルワークの現状を伝え、質疑応答を行うという進め方。
プレゼンテーションタイトルは、「韓国の医療社会福祉」「医療社会福祉士資格制度」「医療費支援関連」「医療社会福祉士修練教育制度」「韓国医療社会福祉報酬体系」の5題。韓国では、1970年代から医療ソーシャルワークに診療報酬が設定され、医療チームにおけるポジションが確立している。社会福祉士の資格制度の整備も進み、2008年には認定医療ソーシャルワーカーが制度化されている。日本と比べて先行している部分は多く、どのようにしてそのような経過をたどっていったのかなど、参加者の関心の高さがうかがえた。
充実したプログラム、熱気のなかで閉会
午後は分科会が行われた。分科会は、(1)教育・スーパービジョン、(2)ソーシャルワーク実践I、(3)ソーシャルワーク実践II、(4)業務分析・業務開発、(5)ソーシャルワークリサーチ、の5つ。自施設の取り組みを通しての事例紹介と考察、テーマを設定した研究報告が中心。各分科会を回ったなかでは、とりわけ(2)(3)のソーシャルワーク実践が盛況だった。両分科会には、患者の経済的な問題、がんや高次脳機能障害など病態の特性による課題、ベッドコントロール、地域連携といった医療ソーシャルワーカーの関心が高いテーマが集中していた。
以上のプログラムをもって大会は閉幕。こうした大会の成果は、閉会式のムードに表われやすい。主催者と参加者に一体感がある、笑いがある、熱気が充満している、などが成否をはかるバロメーターになる。本大会にはそれがあった。帰途につく参加者たちの顔にも満足感は現れていたようだ。来年の全国大会は大分県で開催される。
以上のプログラムをもって大会は閉幕。こうした大会の成果は、閉会式のムードに表われやすい。主催者と参加者に一体感がある、笑いがある、熱気が充満している、などが成否をはかるバロメーターになる。本大会にはそれがあった。帰途につく参加者たちの顔にも満足感は現れていたようだ。来年の全国大会は大分県で開催される。