介護保険が施行されてから12年、認知症支援の最前線はどう変わったのでしょうか。認知症がある方の姿は変わってきましたか。そしてあなた自身は……。この歳月を振り返り・新たな学び・気付き・やる気と勇気をたっぷり持ち帰ってほしい、そんな願いから、「波の女」セミナー(2012年2月9日、ウインクあいち)が開催されました。
Vol.111 「たっぷり 認知症の話」 波の女セミナー
――池田学さん×町永俊雄さん×牧野こずえさん×池田武俊さん×前山憲一さん×和田行男さん
第1部講演 「認知症最前線」池田学さん
「たっぷり 認知症」と名付けられたこの講演会。登壇者にNHKアナウンサーの町永俊雄さん、熊本大学大学院の池田学さんなど、各地、各分野の第一線で活躍する豪華メンバーを迎え、「けあサポ」でお馴染みの和田行男さんがたっぷり6時間にわたり認知症について語りあいました。会場の「ウィングあいち」(名古屋市)には、平日の午後にもかかわらず、認知症の人たちの「生きる姿」を支援する仲間およそ300人が集いました。
●熊本モデルとは
第1部ではまず、熊本大学大学院の医師、池田学さんが登壇。池田さんは認知症医療「熊本モデル」の提唱者です。熊本モデルとは、認知症疾患医療センター(基幹型センター)を核に、地域に根差した地域拠点型センターを配置し、さらに地元のかかりつけ医、地域包括支援センターなどが一丸となって認知症医療に取り組むシステムです。
国は、認知症疾患医療センターを全国に150か所設置する目標を立てました。人口比率でいうと、熊本県には2か所の認知症疾患医療センターを設置すればよいことになります。しかし、県内に2つでは、患者さんとセンターの距離があまりに遠すぎて受診に結びつきません。そこで池田さんは、県下全域を統括する認知症疾患医療センターを熊本大学医学部付属病院とし、地域にバランスよく9つの地域拠点型センターを配置しました。そして、身近な医療・相談機関としてかかりつけ医や地域包括支援センターと連携して、認知症の人を支えるシステムを構築しました。それが「熊本モデル」です。
国は、認知症疾患医療センターを全国に150か所設置する目標を立てました。人口比率でいうと、熊本県には2か所の認知症疾患医療センターを設置すればよいことになります。しかし、県内に2つでは、患者さんとセンターの距離があまりに遠すぎて受診に結びつきません。そこで池田さんは、県下全域を統括する認知症疾患医療センターを熊本大学医学部付属病院とし、地域にバランスよく9つの地域拠点型センターを配置しました。そして、身近な医療・相談機関としてかかりつけ医や地域包括支援センターと連携して、認知症の人を支えるシステムを構築しました。それが「熊本モデル」です。
●熊本モデルは地域ネットワークが要
熊本モデルでは、患者さんのファーストコンタクトはかかりつけ医になります。かかりつけ医が、認知症の疑いがあると判断した患者さんに対して紹介状を書き、地域拠点型センターを受診してもらいます。そして診断は地域拠点型センターで行われ、その後の通院はかかりつけ医になります。同モデルでは、かかりつけ医が認知症について正しく理解していることが重要です。そのため、基幹型センターでは医師の教育や事例検討会といった研修体制を充実させています。
これまで基幹型センターから地域拠点型センターに対して行っていた研修は、去年から地域拠点型センターから地域の専門職へ、さらに地域住民への研修へと広がっています。そして、各地域で独自の地域ネットワークの創設を目指しているそうです。
これまで基幹型センターから地域拠点型センターに対して行っていた研修は、去年から地域拠点型センターから地域の専門職へ、さらに地域住民への研修へと広がっています。そして、各地域で独自の地域ネットワークの創設を目指しているそうです。
第1部討論会 「医療と介護と認知症」
池田学さん×町永俊雄さん×牧野こずえさん×和田行男さん
認知症の人が在宅生活を継続するためには、熊本モデルのように、認知症の診断を行う専門医療機関と地域の医療機関(かかりつけ医)、さらに介護職とが有機的に連携して、認知症の人を支えることが不可欠になります。そこで、第1部の後半では、池田さんの話を元に、町永俊雄さん(NHKアナウンサー)、牧野こずえさん(ケアマネジャー)、そして和田行男さんが加わって、「医療と介護と認知症」をテーマに、4人で議論を深めました。
●受診支援に報酬を!
池田さんは、「独居の認知症の人の一人暮らしには危険が伴うし、できれば避けた方がいいと考えています。しかし、認知症の人全員を入院させるほどのキャパシティはないわけで、ベターな安全を保つ方法をせざるを得ないのが現実です。認知症の人が自宅で暮らし続けるためにも、早いうちから専門職が関わって治療することが大切であり、重度になってから病院に入院すると退院することも難しい」と現状を分析しました。
これに対して和田さんは「そもそも、受診する支援が弱いのが問題。医療と介護の連携の前の話なのに。受診支援に報酬をつけたらいいのではないか」と提案しました。たしかに、認知症の場合は、本人に病識がないことが多く、そのために受診が遅れてしまうケースが少なくありません。診療報酬に対しては、池田さんも「受診につながるような支援はもちろん、相談や勉強会などにも点数がつきませんよね。それに初診の人を診るには1時間半はかかりますが、診療報酬は多くありません。まして往診などとてもできません。このような経営をしていたら、医院はすぐに潰れてしまうでしょう。しかし、MRIを1回行えば、多くの診療報酬がつきます。こうした制度も見直していくべきでしょう」と応じました。
これに対して和田さんは「そもそも、受診する支援が弱いのが問題。医療と介護の連携の前の話なのに。受診支援に報酬をつけたらいいのではないか」と提案しました。たしかに、認知症の場合は、本人に病識がないことが多く、そのために受診が遅れてしまうケースが少なくありません。診療報酬に対しては、池田さんも「受診につながるような支援はもちろん、相談や勉強会などにも点数がつきませんよね。それに初診の人を診るには1時間半はかかりますが、診療報酬は多くありません。まして往診などとてもできません。このような経営をしていたら、医院はすぐに潰れてしまうでしょう。しかし、MRIを1回行えば、多くの診療報酬がつきます。こうした制度も見直していくべきでしょう」と応じました。
●ネットワークの構築と同時に、専門職個人の能力の向上も
一方、牧野さんは「医療無くしてケアマネジャーの仕事はできないと思っています。しかし、多くのケアマネジャーはアセスメント力が低く、『家事ができない⇒ヘルパー』としか思わない人も少なくありません。適材を適所につなげていくような『つなげる力』が問われています」と問題提起しました。
これに対して町永さんは、高齢化率48%ながら町の小さな病院が中心になって認知症高齢者を支えている鳥取県日野郡日南群の事例を映像で紹介し、「認知症の人にとって必要なのは馴染みの地域と人間関係。ネットワークうんぬんを言い合っている場合ではない。病院や専門機関の中でいくら高度な医療を提供しても、本人に届かなければ意味がない。暮らしの中に入っていく医療、かかりつけ医やケアマネジャーも含めたネットワークづくりが必要」と強調しました。
専門職の技量があがれば自然とネットワークが構築されていくのか、あるいはネットワークが構築されれば専門職がつながり技量もあがってくるのか……。このことに答えはでませんでしたが、人としてお互いの立場で連携しあい、成功体験を積んでいくことが大切ということを確認しました。
これに対して町永さんは、高齢化率48%ながら町の小さな病院が中心になって認知症高齢者を支えている鳥取県日野郡日南群の事例を映像で紹介し、「認知症の人にとって必要なのは馴染みの地域と人間関係。ネットワークうんぬんを言い合っている場合ではない。病院や専門機関の中でいくら高度な医療を提供しても、本人に届かなければ意味がない。暮らしの中に入っていく医療、かかりつけ医やケアマネジャーも含めたネットワークづくりが必要」と強調しました。
専門職の技量があがれば自然とネットワークが構築されていくのか、あるいはネットワークが構築されれば専門職がつながり技量もあがってくるのか……。このことに答えはでませんでしたが、人としてお互いの立場で連携しあい、成功体験を積んでいくことが大切ということを確認しました。
第2部 「認知症を支える町ヂカラ・町ぐるみ作戦」
町永俊雄さん×池田武俊さん×前山憲一さん×和田行男さん
第2部は町永俊雄さんによる「認知症を支える町ヂカラ」と題した講演で幕を開けました。次の段落は、町永さんの講演の骨子です。
●認知症が拓く新時代へ
日本は「超高齢化」という問題に加え「少子化」という問題も抱えています。支え手が少なく不景気でお金もないために、「高齢者は社会の負担」という論調が出てきました。しかし、それはいきすぎた経済の論理(生産性と効率性を追い求める社会)からの話であり、仕事だけでなく人も、経済の観点で判断し、差別し、排除しようとしていることに他なりません。長寿を喜べない社会。それはつまり、障害者や認知症の人なども排除する社会です。
あまりにも経済の論理に価値観を置きすぎていたところに、これ以上の経済成長が望めなくなりました。ここに現在の日本の閉塞感の源があります。うつ、いじめ、ホームレス、自殺、虐待といった社会問題の根っこには、共通の問題が潜んでいます。それは人々の「孤立・無関心・排除」です。私たちはもう一度、人間の原理を取り戻さなければならないところにきています。今こそ「想像・関心・共感」に基づいた共生社会、つまり「パーソンセンタードソサイアティ」に脱皮する時ではないでしょうか。そのきっかけが認知症の人が安心して暮らせる社会づくりだと述べられました。
あまりにも経済の論理に価値観を置きすぎていたところに、これ以上の経済成長が望めなくなりました。ここに現在の日本の閉塞感の源があります。うつ、いじめ、ホームレス、自殺、虐待といった社会問題の根っこには、共通の問題が潜んでいます。それは人々の「孤立・無関心・排除」です。私たちはもう一度、人間の原理を取り戻さなければならないところにきています。今こそ「想像・関心・共感」に基づいた共生社会、つまり「パーソンセンタードソサイアティ」に脱皮する時ではないでしょうか。そのきっかけが認知症の人が安心して暮らせる社会づくりだと述べられました。
●町ぐるみ作戦の要は地域住民
討論会では、福岡県大牟田市から池田武俊さん、愛知県半田市の社会福祉協議会から前山憲一さんが加わり、それぞれの町ぐるみ作戦を報告してもらいました。
池田さんは小学校区を単位としたネットワークを市内に構成し、さらにそれらを統合する市内全域をカバーする徘徊・見守りネットワークを作ってきました。具体的には、小学校区に地域交流施設のサテライトサロンを開設し、そこに必ず認知症コーディネーターを配置させ、行方不明者の早期発見と継続支援、さらに住民相互の支え合いネットワークを作りました。地域交流施設はグループホームや小規模多機能型居宅支援が担います。「新規のグループホームには、地域交流施設を設け、認知症コーディネーターを配置しなければ開設を許可しません」と、行政主導でネットワークを整備してきたことを説明。「しかし、介護保険の中だけで支えていくことはできない。『あんたが死んだら悲しかやんね!』というご近所さんの互助が、高齢者の命や生活をつないでいく」と語りました。
前山さんは、認知症サポーター養成講座を活用した地域住民への啓発活動、さらに認知症の人を見守る「知多安心ネット」、築70年の古民家を回収した共生型福祉施設「おっかわハウス」の実践を報告しました。「おっかわハウス」は平成23年4月に開設した施設で、学童保育、多世代交流サロン、宿泊訓練(軽度障害児・者対象)の3つの機能をもつ施設です。
なぜ、乙川(おっかわ)にこの施設を作ったのですか、という問いに前山さんは、「実は乙川は介護サービスの空白地点でした。しかしNPOが多く、困ったときは助け合っていこうという、みんなのやる気を熟成させる土壌があったのです。そこで、建物を提供し多世代が交流できる場を作ったのです。『おっかわハウス』には何もありませんが、NPO、市、社協、市民がそれぞれ力を出し合って運営しています。そして、驚くことに、乙川は他のサービスが整っている地域よりも、高齢者の自立度が高いのですよ」と述べ、手厚いサービスが自立度と比例するとは限らないことを報告してくれました。最後に会場と活発な質疑応答を行い、池田、前山両氏の実践をどのように各地の町づくりにいかせるかを模索しました。
約6時間にわたり、認知症の人を医療・介護面でどのように支えるか、その時に求められる地域の体制とそのための町づくりについて語り合いました。その答えは各地、各人で異なりますが、参加者一人ひとりが、明日からの実践にいかすヒントをたくさん胸につめ、会場を後にしました。
池田さんは小学校区を単位としたネットワークを市内に構成し、さらにそれらを統合する市内全域をカバーする徘徊・見守りネットワークを作ってきました。具体的には、小学校区に地域交流施設のサテライトサロンを開設し、そこに必ず認知症コーディネーターを配置させ、行方不明者の早期発見と継続支援、さらに住民相互の支え合いネットワークを作りました。地域交流施設はグループホームや小規模多機能型居宅支援が担います。「新規のグループホームには、地域交流施設を設け、認知症コーディネーターを配置しなければ開設を許可しません」と、行政主導でネットワークを整備してきたことを説明。「しかし、介護保険の中だけで支えていくことはできない。『あんたが死んだら悲しかやんね!』というご近所さんの互助が、高齢者の命や生活をつないでいく」と語りました。
前山さんは、認知症サポーター養成講座を活用した地域住民への啓発活動、さらに認知症の人を見守る「知多安心ネット」、築70年の古民家を回収した共生型福祉施設「おっかわハウス」の実践を報告しました。「おっかわハウス」は平成23年4月に開設した施設で、学童保育、多世代交流サロン、宿泊訓練(軽度障害児・者対象)の3つの機能をもつ施設です。
なぜ、乙川(おっかわ)にこの施設を作ったのですか、という問いに前山さんは、「実は乙川は介護サービスの空白地点でした。しかしNPOが多く、困ったときは助け合っていこうという、みんなのやる気を熟成させる土壌があったのです。そこで、建物を提供し多世代が交流できる場を作ったのです。『おっかわハウス』には何もありませんが、NPO、市、社協、市民がそれぞれ力を出し合って運営しています。そして、驚くことに、乙川は他のサービスが整っている地域よりも、高齢者の自立度が高いのですよ」と述べ、手厚いサービスが自立度と比例するとは限らないことを報告してくれました。最後に会場と活発な質疑応答を行い、池田、前山両氏の実践をどのように各地の町づくりにいかせるかを模索しました。
約6時間にわたり、認知症の人を医療・介護面でどのように支えるか、その時に求められる地域の体制とそのための町づくりについて語り合いました。その答えは各地、各人で異なりますが、参加者一人ひとりが、明日からの実践にいかすヒントをたくさん胸につめ、会場を後にしました。