去る9月11日、宅老所を始めとする小規模事業所を運営する有志7名が広島の地に集まり、トークセッション「Love&Peace&Care 2010 in ヒロシマ〜介護バカの集い」を開催しました(本キャッチ・アップVol.88で既報)。この集いを追いかけたドキュメンタリー映画『9月11日』(監督:大宮浩一『ただいま それぞれの居場所』)が、12月18日から東京・中野のポレポレ東中野で公開されます。
ちょうど今から30年前の12月8日、愛と平和を歌ったジョン・レノンが凶弾に倒れたあとも、その思いは脈々と世界中に受け継がれています。この集いも、30年後に振り返ってみると、一つのムーブメントとしてのエポック・メイキングになっているかもしれません。
今回のキャッチ・アップでは、大宮浩一監督に作品の魅力についてお話をうかがい、介護業界の現在と今後について思いを馳せてみます。
ちょうど今から30年前の12月8日、愛と平和を歌ったジョン・レノンが凶弾に倒れたあとも、その思いは脈々と世界中に受け継がれています。この集いも、30年後に振り返ってみると、一つのムーブメントとしてのエポック・メイキングになっているかもしれません。
今回のキャッチ・アップでは、大宮浩一監督に作品の魅力についてお話をうかがい、介護業界の現在と今後について思いを馳せてみます。
Vol.93 既成の介護の価値観の変化としての「革命」を。――映画『9月11日』公開記念 大宮浩一監督インタビュー
介護の日常と「ハレ」の日を収めたい
―― 『9月11日』は2010年9月11日に広島で行われた「介護バカの集い」とその出演者を追いかけた映画ですが、撮影し、作品とするに至ったきっかけを教えていただけますか。
監督 『ただいま それぞれの居場所』に登場した伊藤英樹さん(千葉「井戸端げんき」理事長)から「9月11日に介護現場の人たちが集まるイベントを計画している」と聞いて興味を覚えたのがきっかけです。私は介護業界の人間ではなく、当初は一般のお客としての参加を考えていました。しかし、周囲に相談したところ面白がってくれたので、作品にしてはどうかということになりました。
―― 当日は登壇者7名の事業所から広島に向かう道中にカメラマンが張り付き、到着から参加、解散(打ち上げ)までをカメラに収めたわけですが、このような形態にした理由は?
監督 私はこの集いを「ハレの日」のお祭りだととらえたいなと思いました。介護という日常から、非日常としての「集い」までの時間軸を追うことで、日常と非日常の変遷を収めたいと思ったのが理由です。
―― 実際、作品として完成した感想をお聞かせください。
監督 『ただいま それぞれの居場所』に登場した伊藤英樹さん(千葉「井戸端げんき」理事長)から「9月11日に介護現場の人たちが集まるイベントを計画している」と聞いて興味を覚えたのがきっかけです。私は介護業界の人間ではなく、当初は一般のお客としての参加を考えていました。しかし、周囲に相談したところ面白がってくれたので、作品にしてはどうかということになりました。
―― 当日は登壇者7名の事業所から広島に向かう道中にカメラマンが張り付き、到着から参加、解散(打ち上げ)までをカメラに収めたわけですが、このような形態にした理由は?
監督 私はこの集いを「ハレの日」のお祭りだととらえたいなと思いました。介護という日常から、非日常としての「集い」までの時間軸を追うことで、日常と非日常の変遷を収めたいと思ったのが理由です。
―― 実際、作品として完成した感想をお聞かせください。
介護というのは日常生活から切り離された営みと考えられがちですが、そうではなく、人と人とが接している営みである以上、日常の延長にあるものだと思います。自分たちのやっていることを正面から「バカ」と言える彼らを「すごいな」と感じ、その意味でも7名の出演者には、同世代の人たちに欠けているものがあると思いました。6人のカメラマンも、出演者と同世代ということもあり、瞬間の付き合いができたのではないでしょうか。良い絵を撮ってきたと思います。
普遍的な映画として観てほしい
―― 「介護バカの集い」自体は3時間のセッションでしたが、その3時間を78分のフィルムに収める際にどのような視点で取捨選択したのでしょうか。
監督 78分のうち、当日の集いの場面は50分間程度です。およそ4分の1を使用したことになりますが、私たちが感じた当日の全体の雰囲気を、映像としてどのように伝えるかという視点で製作しました。ですから時系列どおりに並べたわけでもなく、出演者が平等に同じ時間だけ登場しているわけでもありません。集いから公開まで3か月あまりでしたが、私自身、面白がりながら編集していましたね。
―― 監督として、本作品のポイントはどこにあると考えますか?
監督 内容自体は介護現場の話ですが、その言葉一つひとつは、私たちの日常に置き換えることができると思います。ですから、人の生き方や他人との関係性を考えるうえでの普遍的な映画として観てほしいですね。
―― 普遍的といえば、大宮監督自身は介護業界の出身ではありませんね。外から見る介護業界はどのように映りますか?
監督 生業として考えると、介護業界ならではの特異性というものは特に感じません。たとえば離職の原因一つとっても、男性は給与、女性は人間関係が一番多いそうですが、これは他の業界でも同じでしょう。しかし、現場で利用者と時間を過ごすという居場所としては、仕事として結びつけると、きわめて特異だと感じます。生産性を追求する仕事と比較すれば、外からは「これは仕事か?」と見えてしまうでしょうね。もちろん、それだけではありませんが。夜勤などは好例です。
―― 映画では石井英寿さん(いしいさん家)の夜勤の様子が映されていますが、あの一場面だけを見ると「介護の仕事は大変だ」となってしまいますね。
監督 78分のうち、当日の集いの場面は50分間程度です。およそ4分の1を使用したことになりますが、私たちが感じた当日の全体の雰囲気を、映像としてどのように伝えるかという視点で製作しました。ですから時系列どおりに並べたわけでもなく、出演者が平等に同じ時間だけ登場しているわけでもありません。集いから公開まで3か月あまりでしたが、私自身、面白がりながら編集していましたね。
―― 監督として、本作品のポイントはどこにあると考えますか?
監督 内容自体は介護現場の話ですが、その言葉一つひとつは、私たちの日常に置き換えることができると思います。ですから、人の生き方や他人との関係性を考えるうえでの普遍的な映画として観てほしいですね。
―― 普遍的といえば、大宮監督自身は介護業界の出身ではありませんね。外から見る介護業界はどのように映りますか?
監督 生業として考えると、介護業界ならではの特異性というものは特に感じません。たとえば離職の原因一つとっても、男性は給与、女性は人間関係が一番多いそうですが、これは他の業界でも同じでしょう。しかし、現場で利用者と時間を過ごすという居場所としては、仕事として結びつけると、きわめて特異だと感じます。生産性を追求する仕事と比較すれば、外からは「これは仕事か?」と見えてしまうでしょうね。もちろん、それだけではありませんが。夜勤などは好例です。
―― 映画では石井英寿さん(いしいさん家)の夜勤の様子が映されていますが、あの一場面だけを見ると「介護の仕事は大変だ」となってしまいますね。
自分の中にある「バカ」の部分を見つけて
―― 出演者の一人も触れていますが、9月11日のアメリカ同時多発テロを契機として、これまでの物質至上主義に疑問符が投げかけられ、世界各地で価値観の転換が試みられています。介護の業界でも同じようなパラダイムシフトが起こりつつあるのでしょうか。
監督 『ただいま それぞれの居場所』は介護保険制度の施行から10年が経ち、若い人たちが事業を立ち上げた様子を描いています。これは、この10年間が社会の転換点になったという「点」を描いている作品です。今回『9月11日』を製作してみて、その流れが確信に近くなったと感じています。映画の宣伝では「静かな革命」と表現していますが、介護業界の仕組みを変えていこうとする「革命」ではなく、既成の介護の価値観を変化させる「革命」として、人が生きること、死ぬことに対する彼らなりの思いを声に出し始めたという印象です。参加している人たちの心の持ちようが、彼らのほうに向いてくるのではないでしょうか。
―― 12月18日の封切りまで、残すところあとわずかです。最後に、どのような人に観ていただきたいですか。
監督 介護業界の人はもちろん、普遍的な作品として、20歳代から30歳代の人、出演者と同世代の人たちにも観て感じてほしいです。そして、自分のどこかに「バカ」の部分を見つけてほしいと思います。
監督 『ただいま それぞれの居場所』は介護保険制度の施行から10年が経ち、若い人たちが事業を立ち上げた様子を描いています。これは、この10年間が社会の転換点になったという「点」を描いている作品です。今回『9月11日』を製作してみて、その流れが確信に近くなったと感じています。映画の宣伝では「静かな革命」と表現していますが、介護業界の仕組みを変えていこうとする「革命」ではなく、既成の介護の価値観を変化させる「革命」として、人が生きること、死ぬことに対する彼らなりの思いを声に出し始めたという印象です。参加している人たちの心の持ちようが、彼らのほうに向いてくるのではないでしょうか。
―― 12月18日の封切りまで、残すところあとわずかです。最後に、どのような人に観ていただきたいですか。
監督 介護業界の人はもちろん、普遍的な作品として、20歳代から30歳代の人、出演者と同世代の人たちにも観て感じてほしいです。そして、自分のどこかに「バカ」の部分を見つけてほしいと思います。
大宮監督が「静かな革命」と表現した「介護バカの集い」の面々。彼らの革命は静かに、かつ確実に浸透していくことでしょう。上映は12月18日から2011年1月14日まで。革命の証人になりたい人は、ぜひ劇場に足を運んでみてください(自主上映会の相談も受け付けているそうです。詳細は下記問い合わせ先まで)。
作品紹介
予告編
大宮監督プロフィール
1958年生まれ。映画監督・企画・プロデューサー。『ゆきゆきて、官軍』などで助監督を務めた後、『よいお年を』『JUNK FOOD』『DOGS』『青葉のころ よいお年を2』『踊る男 大蔵村』などを企画・プロデュース。2010年『ただいま それぞれの居場所』を企画・製作・監督。平成22年度文化庁映画賞文化記録映画大賞を受賞。