去る8月27日(水)から3日間にわたり、全国介護老人保健施設協会主催の「第19回全国介護老人保健施設大会」が京都・国立京都国際会館で開催されました。
大会はメイン会場(大会議場)での講演・シンポジウムと、認知症やリスクマネジメントなどのテーマに分かれた小会議室での演題で構成され、期間を通して約1300に上る演題が発表されました。
今回のキャッチアップでは、この大会の模様を、メイン会場と各演題の2回に分けてレポートします。
前編は、メイン会場で行われた講演からのピックアップ・レポートです。
大会はメイン会場(大会議場)での講演・シンポジウムと、認知症やリスクマネジメントなどのテーマに分かれた小会議室での演題で構成され、期間を通して約1300に上る演題が発表されました。
今回のキャッチアップでは、この大会の模様を、メイン会場と各演題の2回に分けてレポートします。
前編は、メイン会場で行われた講演からのピックアップ・レポートです。
Vol.22 第19回全国介護老人保健施設大会 京都レポート(前編)
〜介護報酬、人材確保…今こそ老健の頑張りをみせよう
現場から情報発信を
開会にあたり、(社)全国介護老人保健施設協会会長の川合秀治氏は、昨年末から展開された「介護職員の生活を守る署名」活動で166万人を超える署名が集まったことに触れ、「今まで現場の人間が続けてきた温かいサービスにもっと自信を持ちましょう。この熱意を今まで以上に情報発信していきましょう」と満席の場内に向かって意気込みを語りました。
報酬アップで保険料もアップに
続いて「介護保険制度の現状と今後の展望」と題して行われた、厚生労働省審議官坂本森男氏の特別講演では、「介護報酬を上げるということは、制度の仕組み上保険料と税金を上げることになる。後期高齢者医療制度の前例もあり、所得の伸びない中で保険料のアップが許されるのか、国は非常にナーバスになっている。国会議員をはじめ、各自治体の保険料を決める地方議員からの抵抗もあるのでは」と懸念を示しました。
高齢者にすみやすい都市整備を
また高齢者の住まいについて、「昔ニュータウンとして建てられたものが、人も高齢化し、建物も老朽化し、今や『オールドタウン』になっている。過疎過密対策の弊害が今出てきている」と指摘。「大きな家に高齢者が2人で住んでいるというような状況から、諸外国に多く見られるケア付き住宅など、保険外のさまざまな住まいの形も参考にして、高齢者が住みやすいように変えていくことが必要」と述べ、都市計画法を来年度にも改正する予定であることを明らかにしました。
同時に「高齢者が増え、若者が減っていく現状では、若者の生産効率を相当上げないとまかないきれない。やはり高齢者が再チャレンジできることが必要だ」と付け加えました。
ホールは満席で立ち見も出るほどで、国の今後の施策への関心の高さをうかがわせるものとなりました。
午後にはターミナルケアと看取り、終末期をテーマにした講演・シンポジウムが続けて開催され、最初に金城学院大学学長・柏木哲夫氏の教育講演「高齢者の終末期ケア」が行われました。
同時に「高齢者が増え、若者が減っていく現状では、若者の生産効率を相当上げないとまかないきれない。やはり高齢者が再チャレンジできることが必要だ」と付け加えました。
ホールは満席で立ち見も出るほどで、国の今後の施策への関心の高さをうかがわせるものとなりました。
午後にはターミナルケアと看取り、終末期をテーマにした講演・シンポジウムが続けて開催され、最初に金城学院大学学長・柏木哲夫氏の教育講演「高齢者の終末期ケア」が行われました。
ターミナルケアは心をくだくこと
柏木氏はターミナルケアの要点について、高齢者の身体的、精神的、社会的特徴や宗教観などを簡潔に示し、その上で、ホスピスケアの三大要素を
1 症状コントロール
2 コミュニケーション
3 家族ケア
として、利用者の気持ちをいかに理解するか、ベッドに横たわる利用者と横に座るスタッフとの距離を、利用者の表情から読み取るという事例を用いて、写真を使いながら「これは近すぎます! 寄りすぎです!」などと面白く解説しました。
さらに、利用者は自分がどう見られているかに非常に敏感であることや、ユーモア1つが利用者との壁を取り払うことなど、利用者のQOLを高めるため、彼らが何を欲しがっているのか、一人ひとりに心をくだいていくことがいかに大切かをていねいに説明しました。
1 症状コントロール
2 コミュニケーション
3 家族ケア
として、利用者の気持ちをいかに理解するか、ベッドに横たわる利用者と横に座るスタッフとの距離を、利用者の表情から読み取るという事例を用いて、写真を使いながら「これは近すぎます! 寄りすぎです!」などと面白く解説しました。
さらに、利用者は自分がどう見られているかに非常に敏感であることや、ユーモア1つが利用者との壁を取り払うことなど、利用者のQOLを高めるため、彼らが何を欲しがっているのか、一人ひとりに心をくだいていくことがいかに大切かをていねいに説明しました。
老健での看取り〜現場の生の声を知ることが大切
その後のシンポジウムでは、既存の老健で看取りを行ったことのある介護福祉士、支援相談員、看護師、理学療法士が、それぞれの立場で、どう看取りに対応し、向き合っているかという発表が行われました。
家族や利用者本人から、老健でもターミナルケアを望まれる声が多くあることが報告され、報酬がつかない中でも看取りに対応している事例が紹介されました。
夜間など看護師のオンコールや医師への連絡など、体制面で苦労している点や、医療スタッフがいない時の不安、反対に研修によって介護職員だけでも対応ができた事例など、試行錯誤しながら看取りを行っている現場スタッフの生の声が伝えられました。
座長を務めた協会常務理事の東憲太郎氏は、「看取りに関する本大会での演題は増加傾向にある。老健は在宅復帰を目指すのはもちろんだが、多用なニーズに応じ看取りも行っている。今回は看取りを行うことの是非でなく、現場がこういうことをしながら、ニーズに応えて頑張っていることを示せたことが重要だ」と述べました。シンポジストの看護師が「病院に勤めていた頃より、老健のほうが尊厳ある死を実感できた」と語っていたのが印象的でした。
家族や利用者本人から、老健でもターミナルケアを望まれる声が多くあることが報告され、報酬がつかない中でも看取りに対応している事例が紹介されました。
夜間など看護師のオンコールや医師への連絡など、体制面で苦労している点や、医療スタッフがいない時の不安、反対に研修によって介護職員だけでも対応ができた事例など、試行錯誤しながら看取りを行っている現場スタッフの生の声が伝えられました。
座長を務めた協会常務理事の東憲太郎氏は、「看取りに関する本大会での演題は増加傾向にある。老健は在宅復帰を目指すのはもちろんだが、多用なニーズに応じ看取りも行っている。今回は看取りを行うことの是非でなく、現場がこういうことをしながら、ニーズに応えて頑張っていることを示せたことが重要だ」と述べました。シンポジストの看護師が「病院に勤めていた頃より、老健のほうが尊厳ある死を実感できた」と語っていたのが印象的でした。
介護療養型は「過渡期」
2日目の最後に開催されたパネルディスカッション「老人保健施設の現在と未来」では、大雨による新幹線のストップでパネラーが一部終盤まで来られないハプニングがあったものの、積極的な将来展望が語られました。
「今後は生活介護は特養に、医療的ニーズに応える介護は老健へと二分化されていくだろう。老健に(既存と介護療養型の)2つが存在する今は、過渡期であると位置づけるべき」と上智大学・増田雅暢教授が述べると、座長の高椋清氏(協会副会長)はさらに一歩踏み込んで、「老健でも医療的ニーズは診療報酬で、介護的ニーズは介護報酬で算定できれば良いのでは」と私案の将来図を提示しました。
また(社)認知症の人と家族の会・副代表の勝田登志子氏は、「特養は最後まで面倒を見てもらえるという理由で3か月待ちの状態。老健はそれがないから不安に思う。それだけの違いだ」と述べ、高椋氏も「老健のドクターが『最後まで付き合うから、いつでも戻ってきていいからいったん自宅へ戻ってごらんよ』と背中を押してあげることが必要」と話しました。
議論は老健だけではなく、病院から在宅までも含めた、一連の生活サイクルの中で考えていかなければならないことを強く感じさせるものでした。
「今後は生活介護は特養に、医療的ニーズに応える介護は老健へと二分化されていくだろう。老健に(既存と介護療養型の)2つが存在する今は、過渡期であると位置づけるべき」と上智大学・増田雅暢教授が述べると、座長の高椋清氏(協会副会長)はさらに一歩踏み込んで、「老健でも医療的ニーズは診療報酬で、介護的ニーズは介護報酬で算定できれば良いのでは」と私案の将来図を提示しました。
また(社)認知症の人と家族の会・副代表の勝田登志子氏は、「特養は最後まで面倒を見てもらえるという理由で3か月待ちの状態。老健はそれがないから不安に思う。それだけの違いだ」と述べ、高椋氏も「老健のドクターが『最後まで付き合うから、いつでも戻ってきていいからいったん自宅へ戻ってごらんよ』と背中を押してあげることが必要」と話しました。
議論は老健だけではなく、病院から在宅までも含めた、一連の生活サイクルの中で考えていかなければならないことを強く感じさせるものでした。
鎌田氏の「がんばらない」の意味
最終日、公開記念講演と題して市民にも公開された鎌田實氏の「『介護地獄』から『幸せ介護へ』」では、自書でも触れられている患者さんを始めとした多くの患者さんとのエピソードを紹介され、「がんばらない」の本当の意味、利用者目線の大切さ、利用者が社会とつながっていることの大切さ、医療より生活に密着している「介護」の大切さについて解説されました。
国の施策についても「資本主義の、競争して高め合うところは賛成。でもそれを支える土台、教育や福祉を削ってしまってはダメ」と言及し、自身が提唱している「ウェットな資本主義」が大切であると述べました。
鎌田氏はまた、昔、制度が確立していない中、しかも諏訪中央病院が当時4億円の累積赤字を出している中で、手探りで訪問看護や訪問入浴を始めていったことを例に挙げ、「(制度的に)ひどい仕打ちを受けている中にあっても、眼の前の利用者に向かって頑張ってきた温かい介護を、いまこそ見せていこう」と呼びかけました。
大会2日目のシンポジウムで、医事評論家の水野肇氏が「経済政策と医療・福祉政策とは分けて考えるべき。来年度予算を注視していきたい」と語っていましたが、苦しい環境の中で質を落とさずにサービスを提供しようと奮闘するスタッフの頑張りを国はどう受け止め、どう応えるか、介護報酬改定も含め、政府に期待するところが大きいことを改めて感じさせる大会になりました。
参加人数は前回を上回る5000人の人で盛り上がりを見せました。併設された福祉・医療機器の展示やポスターセッションにも大勢の人が集まり、最新の商品や研究の成果に多くの人が関心を寄せていました。
(後半へつづく)
国の施策についても「資本主義の、競争して高め合うところは賛成。でもそれを支える土台、教育や福祉を削ってしまってはダメ」と言及し、自身が提唱している「ウェットな資本主義」が大切であると述べました。
鎌田氏はまた、昔、制度が確立していない中、しかも諏訪中央病院が当時4億円の累積赤字を出している中で、手探りで訪問看護や訪問入浴を始めていったことを例に挙げ、「(制度的に)ひどい仕打ちを受けている中にあっても、眼の前の利用者に向かって頑張ってきた温かい介護を、いまこそ見せていこう」と呼びかけました。
大会2日目のシンポジウムで、医事評論家の水野肇氏が「経済政策と医療・福祉政策とは分けて考えるべき。来年度予算を注視していきたい」と語っていましたが、苦しい環境の中で質を落とさずにサービスを提供しようと奮闘するスタッフの頑張りを国はどう受け止め、どう応えるか、介護報酬改定も含め、政府に期待するところが大きいことを改めて感じさせる大会になりました。
参加人数は前回を上回る5000人の人で盛り上がりを見せました。併設された福祉・医療機器の展示やポスターセッションにも大勢の人が集まり、最新の商品や研究の成果に多くの人が関心を寄せていました。
(後半へつづく)