Vol.16 改正介護保険法が成立、事業者の規制はどこまで?
コムスン事件から約1年、6月21日で閉会した第169回通常国会で、介護保険法及び老人福祉法の一部を改正する法律が成立しました。問題発生を受けてから法律が公布されるまで、期間としてはとても早いスピードだったといえます。それだけ介護保険制度に対する国民の信頼の揺らぎは深刻であり、早急な対応が求められたということでしょう。
この改正法で、具体的に何がどう変わるのでしょうか? 今回は公布された法文をもとに、改正法を詳しくみていきます。なお、改正法の原文は、先頃出版された『介護保険六法 平成20年版』(中央法規出版)にも挟み込んで発行しています。
この改正法で、具体的に何がどう変わるのでしょうか? 今回は公布された法文をもとに、改正法を詳しくみていきます。なお、改正法の原文は、先頃出版された『介護保険六法 平成20年版』(中央法規出版)にも挟み込んで発行しています。
ポイントは5つ
まずは簡潔に。今回の法改正のポイントは「不正事案の再発防止」のための「事業者規制」の改正です。事業者の何を規制するのかというと、大きく以下の5つの要素に分けられます。
(1)業務中→管理体制の整備
(2)監査時→事業者本部への立入検査
(3)監査中→処分逃れ対策
(4)指定・更新時→連座制の見直し
(5)廃止時→サービス確保対策の充実
いずれもコムスン事件を受け、専門家による「介護事業運営の適正化に関する有識者会議」において検討が重ねられ、出された報告書をもとに、国が法案にした結果です。以下、それぞれの項目をみていくことにしましょう。
(1)業務中→管理体制の整備
(2)監査時→事業者本部への立入検査
(3)監査中→処分逃れ対策
(4)指定・更新時→連座制の見直し
(5)廃止時→サービス確保対策の充実
いずれもコムスン事件を受け、専門家による「介護事業運営の適正化に関する有識者会議」において検討が重ねられ、出された報告書をもとに、国が法案にした結果です。以下、それぞれの項目をみていくことにしましょう。
(1)業務中における管理体制の整備を義務づけ
まず、不正行為を未然に防ぐ対策として、法令遵守等によって業務管理体制を整備することが義務化されます。具体的には以下のとおりです。
○すべての事業者に「法令遵守担当者」を選任してもらう。
○事業規模別に、例えば中規模な事業者であれば「法令遵守マニュアル」を整備してもらう。大規模な事業者であれば「法令遵守マニュアル」の整備に加えて、内部監査も実施してもらう。
このように、事業規模に応じて業務管理の整備内容もそれなりのものにしなくてはならない、ということが想定されています。
○すべての事業者に「法令遵守担当者」を選任してもらう。
○事業規模別に、例えば中規模な事業者であれば「法令遵守マニュアル」を整備してもらう。大規模な事業者であれば「法令遵守マニュアル」の整備に加えて、内部監査も実施してもらう。
このように、事業規模に応じて業務管理の整備内容もそれなりのものにしなくてはならない、ということが想定されています。
区分 | 届出先 |
---|---|
(1)指定事業所または施設が2つ以上の都道府県に所在する事業者) | 国(厚生労働大臣) |
(2)地域密着型サービス(予防含む)のみを行い、指定事業所が同一市町村内に所在する事業者 | 市町村長 |
(3) (1)(2)以外の事業者 | 都道府県知事 |
事務処理がただでさえ煩雑で過重なのに、担当者の配置や文書作成などが増えるのは大変だという批判を踏まえて、国は特に、小規模な事業者などで過重負担にならないよう工夫するとのことです。
(2)事業者本部等への立入調査
(2)で義務化した業務管理体制の整備状況に加え、不正行為が行われた場合にそれが組織的でないかを確認するために、国や都道府県が事業者に報告を求めたり、事業者の本部機能に立入検査を行えるようになります。
これによって、たとえば本社の指示で各事業所が不正を行っていたなど、組織的な関与があった場合は、たとえ別会社であってもそこに法の網がかかるようになり、「事業者」に対して是正勧告や是正命令が出されることになります(今までは「事業所」単位でした)。
これによって、たとえば本社の指示で各事業所が不正を行っていたなど、組織的な関与があった場合は、たとえ別会社であってもそこに法の網がかかるようになり、「事業者」に対して是正勧告や是正命令が出されることになります(今までは「事業所」単位でした)。
(3)監査中の処分逃れ対策
コムスン事件では、当局が指定取消の処分をする前に事業所が廃業届を提出したため、処分できない事態が生じました。こうした処分逃れを防ぎ、利用者へのサービスが寸断されないようにするため、法改正後は休廃止の届けは1か月以上前に提出する「事前届出制」になります。
また、立入検査後に取消処分を予想した事業者が廃止届を出した場合は、監査中であるとして他の事業所の指定・更新が拒否されるほか、同一法人内の法人が取消処分を受けたときに、その事業所と密接に関係する事業所は指定・更新ができなくなるなど、処分逃れの対策を二重三重に行うこととしています。
また、立入検査後に取消処分を予想した事業者が廃止届を出した場合は、監査中であるとして他の事業所の指定・更新が拒否されるほか、同一法人内の法人が取消処分を受けたときに、その事業所と密接に関係する事業所は指定・更新ができなくなるなど、処分逃れの対策を二重三重に行うこととしています。
(4)指定・更新時の連座制の見直し
指定取消となる事業所が増えたことを受けて、悪質な事業者を排除する仕組みとして平成17年の法改正で導入された「連座制」ですが、1か所でも不正があると、他の事業所もすべて指定・更新を拒否されるというこの仕組みは、コムスン事件で初適用され、結果同社は事業からの撤退を余儀なくされました。
悪質な組織的不正行為が認められる場合は問答無用として、そうでない場合にも一律的に連座制を適用してしまうことが果たして良いのか、この事件をきっかけに議論されることとなり、今回の改正で「組織的な関与の有無」によって各自治体が指定・更新の可否を判断することになりました。
また、有料老人ホームやグループホームなどの居宅系サービスは、訪問介護等の居宅系サービスと比べて、指定・更新の拒否を受けた際に利用者への影響が大きいので、連座制の及び指定・更新の類型を区分し、その類型内で適用されることとしています。
悪質な組織的不正行為が認められる場合は問答無用として、そうでない場合にも一律的に連座制を適用してしまうことが果たして良いのか、この事件をきっかけに議論されることとなり、今回の改正で「組織的な関与の有無」によって各自治体が指定・更新の可否を判断することになりました。
また、有料老人ホームやグループホームなどの居宅系サービスは、訪問介護等の居宅系サービスと比べて、指定・更新の拒否を受けた際に利用者への影響が大きいので、連座制の及び指定・更新の類型を区分し、その類型内で適用されることとしています。
(5)事業廃止時のサービス確保対策
コムスン事件の際は、約8万人の利用者と2万人の従業員が他の法人に引き継がれました。
今回の事案を踏まえて、法文上でも、事業者が介護事業を廃止・休止時するときは利用者が継続的にサービスを受けられるようにするようにと明記しています。具体的には、利用者を他の事業者に紹介し、他の事業者には受け入れの依頼を行ったり、利用者の家族やケアマネジャーに対しては手続き的な事項を情報提供することなどが想定されています。
また行政側も、必要に応じて連絡調整や助言ができる旨が規定されました。他の事業者への周知や連絡調整、引き継ぎ先の選定や計画作成に関する助言、援助などが具体的な事項として考えられています。
いずれにしても、第一に利用者が不安にならないように、そして介護サービスが確実に継続されていくように、今回の法改正がうまく機能していくことが求められます。
なお、施行期日は法律の公布日(平成20年5月28日)から1年以内とされ、具体的な日にちは追って確定されます。
今回の事案を踏まえて、法文上でも、事業者が介護事業を廃止・休止時するときは利用者が継続的にサービスを受けられるようにするようにと明記しています。具体的には、利用者を他の事業者に紹介し、他の事業者には受け入れの依頼を行ったり、利用者の家族やケアマネジャーに対しては手続き的な事項を情報提供することなどが想定されています。
また行政側も、必要に応じて連絡調整や助言ができる旨が規定されました。他の事業者への周知や連絡調整、引き継ぎ先の選定や計画作成に関する助言、援助などが具体的な事項として考えられています。
いずれにしても、第一に利用者が不安にならないように、そして介護サービスが確実に継続されていくように、今回の法改正がうまく機能していくことが求められます。
なお、施行期日は法律の公布日(平成20年5月28日)から1年以内とされ、具体的な日にちは追って確定されます。