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医療にかかわる犬――セラピードッグ
第4回 セラピードッグの活動
約2年という訓練を終え、「セラピードッグ」と名乗ることを許された犬たちはどのような場で活躍をしているのでしょうか? 最終回となる今回は、特別養護老人ホーム・シルヴァーウィング(東京都中央区)での実際の活動の様子をレポートします。
トレーニングの成果を披露
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セラピー活動は、フロアに集まった入居者の前でのエキシビション(模範演技)でスタート。ハンドラーとセラピードッグがペアとなり、同速歩行(並足、駈足、杖使用者との歩行)などトレーニングで身につけたウォーキングマナーを披露していきます。参加者のなかには重度の認知症をもつ方も少なくありませんが、場の進行につれ犬たちを目線で追うようになり、無表情だった人にも徐々に表情が現れてきます。なかには、待ちきれないように笑顔で犬たちに手を差し伸べる人も。
「ピース!」「ミッキー!」
大木代表がよく通る声で一頭ずつ名前を呼んで紹介すると、それに合わせてハンドラーが手を上げます。
「ピース!」「ミッキー!」
大木代表がよく通る声で一頭ずつ名前を呼んで紹介すると、それに合わせてハンドラーが手を上げます。
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これは、入居者に犬の名前を覚えてもらうために行われます。犬たちの名前を覚えて呼ぶことで、家族の名前を思い出すケースもあるそうです。
グループと個別のセラピー
エキシビションの後は、グループでのセラピーが始まります。
優しくなでる人、顔をなめてもらって喜ぶ人、つつくように触れる人―入所者たちは思い思いの方法で、自分の前に座る犬に接します。
優しくなでる人、顔をなめてもらって喜ぶ人、つつくように触れる人―入所者たちは思い思いの方法で、自分の前に座る犬に接します。
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犬の横についたハンドラーは、両者の触れ合いをサポートします。この際、言葉が話せない犬たちの代弁者、何らかの病気を抱える対象者と犬をつなぐ架け橋、こうした役割を果たすことがハンドラーには要求されます。セラピードッグによるAAT(動物介在療法)は、犬が主人公のように思われがちですが、前回でも触れたように人と犬が一体となってはじめてその力が発揮されるのです。
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言葉づかい、話し方など、見習いのハンドラーは先輩の後ろにつき、対象者への接し方を観察して学びます。
グループの後は、個別のセラピーに。リーダー犬・ピースは、中里栄子さんのリハビリに入ります。
「ピース」中里さんが声を掛け、障害のためになかなか自由に動かない手でピースに触れ、撫でようとします。うまく撫でることができると、大きな口を開けてうれしそうに笑います。
中里さんとセラピードッグの出会いは、平成16年にまでさかのぼります。セラピー活動にきたチロリを見、触りたい一心から手を動かすようになり自力でスプーンを持てるようになるなど、そのリハビリ効果は目覚しいものだったそうです。また、それだけでなく、セラピードッグと触れ合うことで表情が豊かになり、会話も増えたといいます。チロリが亡くなった後は、二代目リーダーのピースがその寂しさを埋めるとともに、中里さんのリハビリへのかかわりを引き継いでいます。
「ピース」中里さんが声を掛け、障害のためになかなか自由に動かない手でピースに触れ、撫でようとします。うまく撫でることができると、大きな口を開けてうれしそうに笑います。
中里さんとセラピードッグの出会いは、平成16年にまでさかのぼります。セラピー活動にきたチロリを見、触りたい一心から手を動かすようになり自力でスプーンを持てるようになるなど、そのリハビリ効果は目覚しいものだったそうです。また、それだけでなく、セラピードッグと触れ合うことで表情が豊かになり、会話も増えたといいます。チロリが亡くなった後は、二代目リーダーのピースがその寂しさを埋めるとともに、中里さんのリハビリへのかかわりを引き継いでいます。
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ペットからパートナーへ
なぜ犬たちとのかかわりから、これだけの効果が生まれるのでしょうか?大木代表は、その理由は「犬たちが持つ無償の愛情」にあると言います。
「全身で愛情を示し、またその愛情に対しての見返りを求めない。そんな純粋さが、人の心を開かせるのだと思います」
セラピードッグの育成や普及と同時に、大木代表は国際セラピードッグ協会の活動を通じて、「人と犬との関係をもっとよくしたい」と語ります。保健所から救助した犬たちを、セラピードッグとして新たに世に出すこともその一つです。
「犬は、人間の所有物でも単なるペットでもなく、共に暮らすパートナーです。社会全体がそうした認識を持つようになって欲しいと願っています」
「全身で愛情を示し、またその愛情に対しての見返りを求めない。そんな純粋さが、人の心を開かせるのだと思います」
セラピードッグの育成や普及と同時に、大木代表は国際セラピードッグ協会の活動を通じて、「人と犬との関係をもっとよくしたい」と語ります。保健所から救助した犬たちを、セラピードッグとして新たに世に出すこともその一つです。
「犬は、人間の所有物でも単なるペットでもなく、共に暮らすパートナーです。社会全体がそうした認識を持つようになって欲しいと願っています」
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ご協力いただいた団体
国際セラピードッグ協会 http://www.therapydog-a.org/
社会福祉法人シルヴァーウイング http://www.silver-w.jp/
■参考文献
上之二郎 著『チロリとブルースマンの約束』集英社、2011年
大木トオル 著『セラピードッグの世界 動物介在療法 あなたの愛犬も「名犬チロリ」になれる!』日本経済新聞出版社、2009年
社会福祉法人シルヴァーウイング http://www.silver-w.jp/
■参考文献
上之二郎 著『チロリとブルースマンの約束』集英社、2011年
大木トオル 著『セラピードッグの世界 動物介在療法 あなたの愛犬も「名犬チロリ」になれる!』日本経済新聞出版社、2009年