ドキュメンタリー映画『ただいま それぞれの居場所』からみる“介護”
第2回 大宮浩一監督インタビュー
介護保険制度導入から10年――ドキュメンタリー映画『ただいま それぞれの居場所』は、介護福祉の“いま”をみることができます。その映画から介護をみつめ直そうという本特集。2回目は、大宮浩一監督の本作品に対する思いや介護に対する思いを紹介します。
映画を通して気付いた“丸ごと受け止める”こと
Q:映画の製作前、介護というものについてどういったイメージをもっていましたか?
最初に瀧本さんのところ(民間福祉施設「元気な亀さん」)に伺ったのは、私が35〜6歳の時で、介護保険制度前のことです。介護に関心があったというより、新聞の紙面で「元気な亀さん」を知り、「亀さん」という空間に興味をもちました。介護という言葉のイメージが、あまりポップでなかった時代だと思います。そこで、亀さんの生活を1年くらい追いかけて、『よいお年を』(96年)を製作しました。ある程度(介護の)イメージがあって、それを実証するために映画を作ったという訳ではなくて、自分のイメージをもつために、映画という手段を使って勉強させてもらったというのが正直なところです。今回の映画は、介護保険の前と後の違いを撮ろうというのがありましたが、入所している方の介護度がぐっと上がったなという感想をもったくらいで、スタッフは10年前とほとんど変わらず、離職率が高いというのは、少なくとも「亀さん」では実証されないですね。新卒で入った若い子が、3人の子どもの母親になっていたりして…。
Q:映画の製作を通して、介護についての考え方が変わりましたか?
最初に訪れたときから15年たって、私も51歳になりました。65歳だった私の親も80歳になるわけです。そういう意味で、身近というのは変ですが、(介護が)リアルにはなってきました。自分の周りにも親の介護で悩んでいる人たちがいます。特に今回、自分の親のことを考えると、丸ごと受け入れないといけないんだなと。
――丸ごと受け入れるというのは、具体的には何ですか?
映画が完成した後、うちの親父が足の骨折の手術の影響で脳梗塞をおこし、急きょ寝たきりになりました。お袋は要介護2で、すごい被害妄想があります。認知症で、他の兄弟に「あなたが来るとうちの物がなくなる!」と言うんです。兄弟たちは、「私盗ってないわよ!」という普通の返事をするんですが、当然それでは成立しないわけですよ。それって、こっち側の問題なんですよね。「私そんなことしてない!」ではなく、どういうふうに「盗った」というお袋の言葉を受け止めるか。「私は盗ってないわよ!」と言うことは、相手をぽんと弾くわけではないですか。自分の兄弟をみて、それは違うのになと感じられるのは、映画を作ったおかげかなと。私もまだまだ人間が小さいので丸ごと受け止められないんですが、少しずつ小さなところで気付きはじめたというか。
――お母さんが認知症になったのはいつからですか?
ここ2年くらいです。
――映画の撮影時とお母さんの認知症発症がちょうど重なってくると思うんですが、そのことが映画に影響を及ぼすということはありませんでしたか?
それはありませんでした。(利用者が)親父と年が一緒なんだなとか、お袋と年が一緒だなというくらいは思いましたが、それ以上はありませんでした。
――難しい時期に映画をお撮りになったと思うんですが?
こういう映画を撮るから、親父がこういう状況になったのかなと思ったりしました。試されているのかな、「映画は免罪符にならないぞ」と(笑)。
最初に瀧本さんのところ(民間福祉施設「元気な亀さん」)に伺ったのは、私が35〜6歳の時で、介護保険制度前のことです。介護に関心があったというより、新聞の紙面で「元気な亀さん」を知り、「亀さん」という空間に興味をもちました。介護という言葉のイメージが、あまりポップでなかった時代だと思います。そこで、亀さんの生活を1年くらい追いかけて、『よいお年を』(96年)を製作しました。ある程度(介護の)イメージがあって、それを実証するために映画を作ったという訳ではなくて、自分のイメージをもつために、映画という手段を使って勉強させてもらったというのが正直なところです。今回の映画は、介護保険の前と後の違いを撮ろうというのがありましたが、入所している方の介護度がぐっと上がったなという感想をもったくらいで、スタッフは10年前とほとんど変わらず、離職率が高いというのは、少なくとも「亀さん」では実証されないですね。新卒で入った若い子が、3人の子どもの母親になっていたりして…。
Q:映画の製作を通して、介護についての考え方が変わりましたか?
最初に訪れたときから15年たって、私も51歳になりました。65歳だった私の親も80歳になるわけです。そういう意味で、身近というのは変ですが、(介護が)リアルにはなってきました。自分の周りにも親の介護で悩んでいる人たちがいます。特に今回、自分の親のことを考えると、丸ごと受け入れないといけないんだなと。
――丸ごと受け入れるというのは、具体的には何ですか?
映画が完成した後、うちの親父が足の骨折の手術の影響で脳梗塞をおこし、急きょ寝たきりになりました。お袋は要介護2で、すごい被害妄想があります。認知症で、他の兄弟に「あなたが来るとうちの物がなくなる!」と言うんです。兄弟たちは、「私盗ってないわよ!」という普通の返事をするんですが、当然それでは成立しないわけですよ。それって、こっち側の問題なんですよね。「私そんなことしてない!」ではなく、どういうふうに「盗った」というお袋の言葉を受け止めるか。「私は盗ってないわよ!」と言うことは、相手をぽんと弾くわけではないですか。自分の兄弟をみて、それは違うのになと感じられるのは、映画を作ったおかげかなと。私もまだまだ人間が小さいので丸ごと受け止められないんですが、少しずつ小さなところで気付きはじめたというか。
――お母さんが認知症になったのはいつからですか?
ここ2年くらいです。
――映画の撮影時とお母さんの認知症発症がちょうど重なってくると思うんですが、そのことが映画に影響を及ぼすということはありませんでしたか?
それはありませんでした。(利用者が)親父と年が一緒なんだなとか、お袋と年が一緒だなというくらいは思いましたが、それ以上はありませんでした。
――難しい時期に映画をお撮りになったと思うんですが?
こういう映画を撮るから、親父がこういう状況になったのかなと思ったりしました。試されているのかな、「映画は免罪符にならないぞ」と(笑)。
介護をする人=ごまかしなく優しい人
Q:映画製作のなかで、介護を受ける人というのは大宮監督にどう映りましたか?
素の自分を出しているんじゃないかなと思いました。基本的には幸せだなと。現状を批判するために撮ったわけではないんで、(利用者が)気持ち良くすごされている施設を選びましたが、そこにいるのは生活がちょっとイレギュラーになった人であって、あくまで(介護は)生活の一部だなと感じています。
――撮影先はどのように選んだのですか?
まず「亀さん」は最初から決まっていました。その他は若い人がやっているところが絶対基準でした。それは介護保険がなければ、これだけ若い人が参入できなかったと思うからです。小資本でやろうと思えばできるというパイオニア精神を後押ししてくれたのが、介護保険だと思っています。あと、僕らがいやすかった場所が、多分利用者の方もいやすいんだろうなと感じて、そういうバロメーターで選ばさせてもらいました。誰が利用者で誰がスタッフかわからないというのが、一つの基準かなと思います。
Q:介護をする人というのはどう映りましたか?
やっぱり皆さん、ごまかしなく優しい人ですよね。ちょっと人が照れくさいなと思う優しさです。“照れ”が差し伸べる手を躊躇させることってあるじゃないですか。それがキザにならずにできる人だなと。
素の自分を出しているんじゃないかなと思いました。基本的には幸せだなと。現状を批判するために撮ったわけではないんで、(利用者が)気持ち良くすごされている施設を選びましたが、そこにいるのは生活がちょっとイレギュラーになった人であって、あくまで(介護は)生活の一部だなと感じています。
――撮影先はどのように選んだのですか?
まず「亀さん」は最初から決まっていました。その他は若い人がやっているところが絶対基準でした。それは介護保険がなければ、これだけ若い人が参入できなかったと思うからです。小資本でやろうと思えばできるというパイオニア精神を後押ししてくれたのが、介護保険だと思っています。あと、僕らがいやすかった場所が、多分利用者の方もいやすいんだろうなと感じて、そういうバロメーターで選ばさせてもらいました。誰が利用者で誰がスタッフかわからないというのが、一つの基準かなと思います。
Q:介護をする人というのはどう映りましたか?
やっぱり皆さん、ごまかしなく優しい人ですよね。ちょっと人が照れくさいなと思う優しさです。“照れ”が差し伸べる手を躊躇させることってあるじゃないですか。それがキザにならずにできる人だなと。
介護の社会化
Q:利用者の家族にもインタビューされていましたが、家族が望んでいることは何だと思いますか?
今回意外だったのが、家族の方が快く話してくれて、本当に介護が社会化・一般化してきたんだなと思いました。以前は、(要介護者を)囲っている時代でした。介護保険制度導入10年で、家族だけではなくて家族と施設・事業所という分担がうまくいっているんだなと思いました。施設にあずけっぱなしではなく、夜は一緒にいる方もいます。あずけたらおわりという社会的に言われていることと明らかに違います。介護というと、3Kといったネガティブな部分が語られていますが、そこだけ強調してもあまり発展的ではないなと思います。私たちは純粋に映画を観終わったあと、「そんなに心配しなくてもなんとかやっていけそうだな」と家族介護者や自分の将来に不安を抱いている方に思ってもらえればと。
Q:最後に、この映画で伝えたいことは何ですか?
自由になりたくて映画を作っているわけで、私たちが作った映画を強要したくありません。この映画はナレーションが少なく、それは情報が少ないということです。情報が多いと、お客さんに考えてもらうことを拒否するというか限定することなので、なるべく情報を減らすことによって、お客さんにも想像してほしいし、見つけてほしいです。若い人たちに観てもらいたいし、福祉職の人はフィルターをかけて観てしまうかもしれないので、一般の人と一緒に観てもらうと面白い発見があるのではないかと思います。
『ただいま それぞれの居場所』は4月17日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国順次公開です。
今回意外だったのが、家族の方が快く話してくれて、本当に介護が社会化・一般化してきたんだなと思いました。以前は、(要介護者を)囲っている時代でした。介護保険制度導入10年で、家族だけではなくて家族と施設・事業所という分担がうまくいっているんだなと思いました。施設にあずけっぱなしではなく、夜は一緒にいる方もいます。あずけたらおわりという社会的に言われていることと明らかに違います。介護というと、3Kといったネガティブな部分が語られていますが、そこだけ強調してもあまり発展的ではないなと思います。私たちは純粋に映画を観終わったあと、「そんなに心配しなくてもなんとかやっていけそうだな」と家族介護者や自分の将来に不安を抱いている方に思ってもらえればと。
Q:最後に、この映画で伝えたいことは何ですか?
自由になりたくて映画を作っているわけで、私たちが作った映画を強要したくありません。この映画はナレーションが少なく、それは情報が少ないということです。情報が多いと、お客さんに考えてもらうことを拒否するというか限定することなので、なるべく情報を減らすことによって、お客さんにも想像してほしいし、見つけてほしいです。若い人たちに観てもらいたいし、福祉職の人はフィルターをかけて観てしまうかもしれないので、一般の人と一緒に観てもらうと面白い発見があるのではないかと思います。
『ただいま それぞれの居場所』は4月17日(土)より、ポレポレ東中野ほか全国順次公開です。