今月の特集 高齢期の住まい
最終回 高齢期の住まいの暮らし模様
最後の4回目はその住まいの様子をご紹介します。実際に見学させていただいたのは、住宅型有料老人ホーム「やわら樹の里」です。
場所
東武野田線大和田駅から徒歩10分、その線路沿いに「やわら樹の里」はあります。周囲を田んぼに囲まれ、近くには大和田公園や大宮公園などもある、緑の豊かな場所に立地しています。高台にあるため、大変眺望がよく、屋上からはさいたま新都心の夜景や、天気のよい日には富士山を望むことができるそうです。見学にうかがった日はあいにくの雨模様で、残念ながらそれらの景色を楽しむことはできませんでした。
開設まで
もともとここは、「ハートピア大宮」という、厚生年金事業振興団が運営する有料老人ホームでした。これを、「やわら樹の里」の母体法人である医療法人社団全仁会が譲り受け、今年の1月に開設したものです。入居者も職員も全員が「やわら樹の里」に引き継がれました。
建物の概要
「やわら樹の里」はアルファベットのLを上下さかさまにしたような形をしています。地上3階、地下2階で、食堂と浴場は地下1階に、地上階に居室、談話室、洗濯室、事務室、医務室などがあります。竣工は昭和41年ということですが、平成元年、7年に改築し、譲渡の際にも廊下の絨毯を取り替えるなどのメンテナンスを行ったそうで、清潔感のある印象です。
食堂と浴場は地下にありますが、高台の傾斜地に位置しているため、ともに大きな窓からは外の景色を楽しむことができます。
食堂と浴場は地下にありますが、高台の傾斜地に位置しているため、ともに大きな窓からは外の景色を楽しむことができます。
居室は和室で、その数は71。現在のところ、そのうち55室が利用されています。6畳間のほかに障子で仕切られた広縁、板の間、押入れ(1間)、トイレにミニキッチンがあり、かなりの広さを感じます(26.3m2)。設備には、ナースコール、冷暖房設備などのほか、電話とテレビ用の回線も用意されています。
居室は南向きに配置されていて、日当たりもよく、窓からは木立の様子がよく伺えました。
居室は南向きに配置されていて、日当たりもよく、窓からは木立の様子がよく伺えました。
入居されている方の概要
入居者の平均年齢は81.9歳で、最高齢は95歳になるそうです。男女比は、男性19人に女性36人。要介護3の入居者が1人いらっしゃるほか、要介護1が1人、要支援2が3人、要支援1が9人で、ほかの入居者はお元気な方だそうです。ホーム内を見学中、多くの入居者と挨拶を交わしましたが、みなさん矍鑠(かくしゃく)とされている方ばかりでした。
運営の特徴と生活の様子
住宅型有料老人ホームとはいえ、高額な入居一時金を必要とする有料老人ホームがあることを考えれば、非常に手ごろな価格といえます。「この事業で 必要以上に儲けようとは考えていません。運営に支障のない程度の額に設定しています」とは、お話を伺った菅原施設長の言葉です。
入居条件に「日常生活に支障のない程度の心身ともに健康な状態である方」とありますが、その分、「やわら樹の里」で介護予防にもちからを入れており、多くのクラブ活動が行われています。詩吟、ビリヤード、コーラス、パソコン教室、レクダンス、介護予防体操etc.(入居しているお年寄りでなくとも参加は可能)。ビリヤードと卓球は別棟のプレイルームにも用意されており、毎月開催される誕生会では、カラオケ、コーラスクラブの発表の場になっています。
また、「やわら樹の里」では、隣接する大宮商業高校との交流会も行っているそうです。手品やハンドベル演奏、ダンスなどの披露のほか、入居者とのコミュニケーションの時間もあります。単なる「発表会」には留まらない、若い世代との交流の機会が設けられていることは、入居者ばかりでなく、高校生にとってもよい影響があると思います。核家族化が進み、世代を超えたコミュニケーションの機会が少なくなっている今、「やわら樹の里」の取組みは特筆に価します。
なお、月に1度は入居者懇談会があり、ホーム側と運営面などについて意見交換をする場を設けています。
職員は日中、2〜3人が配置され、夜間の当直は2名体制です。看護師が1日おきに駐在(9:00〜16:00)します。このほか、調理と清掃を行う職員がいて、全職員20名のうち日中は都合15人程度の職員がホーム内にいることになります。
医療面でのサポートは、看護師による健康相談のほか、月に1回の健康診断があり、さらに年に1回はレントゲン車によるレントゲン撮影が実施されています。これらはすべて施設の負担で行っています。
入居者本人の意思を大切に
数多くのクラブ活動を行っている「やわら樹の里」ですが、これらへの参加はすべて入居者に自由意志によります。また、「やわら樹の里」では、朝昼夜3食の食事と入浴の時間は決められているものの、それ以外に入居者の生活を拘束することはほとんどありません。食事についても、食べる食べないはもちろん入居者に任されています。このような「自由さ」が「やわら樹の里」の雰囲気をかたちづくっているのでしょう。階段の踊り場には花が飾られていましたが、これは入居者が自発的に行っていると伺いました。危険だから、安全のために、と生活が過度に制限されているようでは、おそらく入居者が自らの意思で、窓辺に植物を飾るというような行為は生まれなかったと思います。
さいごに
菅原施設長にお話を伺うと、「やわら樹の里」では当初、住宅型ではなく、介護付の有料老人ホームとすることも検討されたそうです。ただ、居室の入り口が狭く段差があり、車いすでの通行が難しいことなどのハード面での制約と県との調整などもふまえて、「住宅型」を選択したということでした。
一般的に、高齢者のうち大部分は介護を必要としない方ですが、介護が必要になった場合は訪問介護等の介護サービスを利用しながら、施設での生活を維持することができます。
「やわら樹の里」では、手厚い人件費を必要としない分、利用料は非常に手ごろな価格に設定されています。多様なクラブ活動を用意することで差別化を図りながら、入居者の自由な生活を大切にする「やわら樹の里」は、自身の生活スタイルを大切にしながら、そうはいっても、日々の見守りやちょっと体調を崩したときに支えてくれるようなサービスを期待したいという高齢者にとって、まさにぴったりのホームといえると思います。
一般的に、高齢者のうち大部分は介護を必要としない方ですが、介護が必要になった場合は訪問介護等の介護サービスを利用しながら、施設での生活を維持することができます。
「やわら樹の里」では、手厚い人件費を必要としない分、利用料は非常に手ごろな価格に設定されています。多様なクラブ活動を用意することで差別化を図りながら、入居者の自由な生活を大切にする「やわら樹の里」は、自身の生活スタイルを大切にしながら、そうはいっても、日々の見守りやちょっと体調を崩したときに支えてくれるようなサービスを期待したいという高齢者にとって、まさにぴったりのホームといえると思います。