今月の特集 「がんばらない介護」でゆとりある生活を
最終回 ハッピーエンドの介護を迎えるために
これまで、「がんばらない介護」を実践するためのポイントをお伝えしてきました。
さて今回は最終回ということで、自らの体験をもとにした著書『老親介護は今よりずっとラクになる』(情報センター出版局、1998年)等で多くの家庭介護者に勇気を与え、現在も講演や執筆等で活躍中の野原すみれさんに、ハッピーエンドの介護を迎えるための心得をお聞きしました。
横浜市のショートステイセンターで7年間、施設長を務めていた経験もある野原すみれさんは、家族とのかかわりの中で、疲れ切っている介護者の姿を目の当たりにしてきました。
「ぬかるみに足をとられながら、明かりのない暗いトンネルの中でもがいているような状態です。そして、いまだに悪しき習慣と風習にとらわれていて、親を施設に預けて楽をしていると思われたくない、“いい嫁”だと思われたい等、世間の目を気にしている人が多いのが現実です。ハリネズミのように神経を張りめぐらせているんですね。『よくやってらっしゃいますね』『どんなにご苦労をなさったのかよく分かります』と声をかけると、それだけで泣かれる方も多くいます」
一人で悩み周囲から理解されていないからこそ、ちょっとしたやさしい言葉が心に響くのでしょう。しかし、自分自身のメンテナンスのためには、介護から距離を置く時間を確保することが大切です、そのためには、一人でかかえこまず、訪問介護やショートステイ等のサービスを利用するのはとてもいいですね。勇気を出して、新たな一歩を踏み出すことが大切でしょう。
「がんばらない介護」は介護される人のため
介護している人が、イライラして苦虫をかみつぶすような態度では、介護される人もいい気持ちにはなりません。ゆとりがあってはじめて、明るい笑顔、やさしい声かけができるようになります。最期まで穏やかに過ごしてもらうためには、そんな接し方が大切でしょう。つまり「がんばらない介護」は、自分自身のためだけでなく、介護される人のためにこそあるものなのです。
つらいときは声に出して意思表示
切羽つまった状態になっても、他人の前ではそれを隠す人もいます。しかし、助けてほしいときには、しっかりと声に出して救いを求めてください。家族に、友人に、ご近所の人に、民生委員に、役所などに、こうした声を発信することで、救いの手を差しのべてくれる人は必ず現れるでしょう。
自宅での介護に限界を感じたら、施設入居も視野に入れる
「介護はいつまで続くのだろうか」「私の将来はどうなるのか」…。そんな気持ちがよぎるようになったら、施設への入居を考えてください。決して後ろめたさを感じる必要はありません。どこで最期を迎えるかが大切なのではなく、本人が穏やかな気持ちで天寿を全うできるかどうかが大切なのです。もちろん、そのためには関係を断ち切らず、家族の絆を維持することが重要でしょう。
日々の出来事をメモや日記に残す
1日を振り返り、メモする習慣をつけておくとよいでしょう。明日への気持ちの切り替えになるとともに、一段落すれば、「あのときはこうだった」と、よい思い出として残ります。さらに、そのメモを元にエッセイを書けば出版できる可能性もあります。大変だとは思いますが、毎日の習慣として「つらかったこと」「嬉しかったこと」など書き残してみてはいかがでしょうか。
介護は“役得”
人生の大先輩の尊厳を守って、最期の時間を支えるのが介護。この“一大事業”からは、多くのことを学べ、自分の至らない点も見えてきます。そして、この経験はあなたの人生に必ず役に立ちます。
貧乏くじを引いたと思う人もいるでしょうが、介護した人にしかできない経験もあるのです。介護は役得なのです。
貧乏くじを引いたと思う人もいるでしょうが、介護した人にしかできない経験もあるのです。介護は役得なのです。
【野原すみれ】
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ホームページ:http://www.gambaranaikaigo.com/
※9月25日は、介護の日。イベントも開催されますので、詳細はホームページをご覧ください。