年間約5000名の新患者が発生するという脊髄損傷。
ここでは、その受傷直後から患者およびその家族がどのような思いを抱きながら治療に臨むのかを、時系列に沿ってご紹介します(執筆:丸山柾子さん)。
それに呼応する形で、医療関係者によるアプローチ、そして当事者の障害受容はどのような経緯をたどるのか、事例の展開に応じて、専門家が詳細な解説を示していきます(執筆:松尾清美先生)。
ここでは、その受傷直後から患者およびその家族がどのような思いを抱きながら治療に臨むのかを、時系列に沿ってご紹介します(執筆:丸山柾子さん)。
それに呼応する形で、医療関係者によるアプローチ、そして当事者の障害受容はどのような経緯をたどるのか、事例の展開に応じて、専門家が詳細な解説を示していきます(執筆:松尾清美先生)。
第35回 「第32回 地獄のような生活なんて送らない」「第33回 大切なことは、本人がどうしたいかということです」「第34回 大学でのアプローチ」の解説
「退院後、どこでどうやって暮らすかが、私たち夫婦の第一の課題でした」という言葉の背景にあるのは、多くの脊髄損傷者や中途障害者、そして歩きにくくなった高齢者などでは、その後の生活がどのような生活になるのか不明で、不安だという現実です。つまり、歩けない、もしくは歩きにくいという生活をイメージすることができないのです。見たことも聞いたこともない初めてのことなので、当然です。適切な情報が伝達されない施設や地域にあって、かつ家族が本人の障害の内容を直視せず、「歩けないから排泄や入浴、衣服の着脱など全てしてあげなくてはならない、いっときも傍を離れる訳にはいかない」などと思い込んでしまうと、たちまち、「地獄のような生活」になってしまうと考えられます。
丸山さんご夫婦は、自分たちは、どこでどうやって生活したいのかを具体的に考えるため、主治医の勧めがあったこともあり、医用工学研究部へ相談に来られました。そこで私は、現状の図面や写真を準備してもらう一方で、暮らしたい方法や生活内容、依頼している設計会社の改造計画などを聞き取り、本人と家族の思いを実現するためのプランニングを始めました。具体的には、以下のとおりです。
丸山さんご夫婦は、自分たちは、どこでどうやって生活したいのかを具体的に考えるため、主治医の勧めがあったこともあり、医用工学研究部へ相談に来られました。そこで私は、現状の図面や写真を準備してもらう一方で、暮らしたい方法や生活内容、依頼している設計会社の改造計画などを聞き取り、本人と家族の思いを実現するためのプランニングを始めました。具体的には、以下のとおりです。
(1) | 歩けないので、電動車いすで自立移動する。 |
(2) | 疲れたら自分でリクライニングスイッチを入れて休み、回復したら起き上がって自立移動する。 |
(3) | 家への出入りはエレベーターで行い、ドアの開閉は環境制御装置を使ってリモコンで行う。 |
(4) | 排泄方法は、泌尿器科のI先生の指導の下で話し合った。その結果、排尿は、収尿器を使って尿を集め、それを家族や介助者が数時間ごとに処理する、排便は、ベッド上横向きで座薬を挿入して、介助者がマッサージや摘便介助をして定期的に排便することに決まった。 |
(5) | 入浴は、吊り上げ式リフトを使って、さまざまな吊り具を経験して、何を使用するか決めていった。いろいろな状況を考えながら、本人も家族も負担の少ない方法や自分の生活スタイルに合う方法を決めていった。 |
(6) | その他、家の出入り、朝起きて、ベッドから車いすに移乗する方法、使用する電動車いすの機能、日中車いすに乗って行うこと、夜になって、車いすからベッドに上がってすること、夜間に行うこと、大学に復職するために必要な改造やそのほかのこと、講義の方法とその準備内容、そして復職してからの通勤やそのほかの必要なこと、こまごまとした日常生活のことなど、医用工学研究部の機器展示室や病室、出会った廊下などで一つひとつ打ち合わせを重ねて、本人と家族の生活イメージ作りを進めた。 |
頸髄損傷の残存機能C4レベルといった重度の方でも、電動車いすや福祉用具を適合すれば、自立した生活動作や行為を増やすことができます。そして、できることが増えてくると、生活や移動、コミュニケーションなどに自信を取り戻し、生活への意欲が増してくるのです。
大学に復帰してからの話になりますが、奥様から庭の散歩道の設置案が出され、丸山さんも私も大賛成しました。
こうして、本人や家族にとって「地獄のような生活」ではなく、お風呂に入りたいときいつでも家族の少ない負担で入れ、エレベーターを使って一人で気ままに外出して散歩することができる家になったのです。
大学に復帰してからの話になりますが、奥様から庭の散歩道の設置案が出され、丸山さんも私も大賛成しました。
こうして、本人や家族にとって「地獄のような生活」ではなく、お風呂に入りたいときいつでも家族の少ない負担で入れ、エレベーターを使って一人で気ままに外出して散歩することができる家になったのです。