年間約5000名の新患者が発生するという脊髄損傷。
ここでは、その受傷直後から患者およびその家族がどのような思いを抱きながら治療に臨むのかを、時系列に沿ってご紹介します(執筆:丸山柾子さん)。
それに呼応する形で、医療関係者によるアプローチ、そして当事者の障害受容はどのような経緯をたどるのか、事例の展開に応じて、専門家が詳細な解説を示していきます(執筆:松尾清美先生)。
ここでは、その受傷直後から患者およびその家族がどのような思いを抱きながら治療に臨むのかを、時系列に沿ってご紹介します(執筆:丸山柾子さん)。
それに呼応する形で、医療関係者によるアプローチ、そして当事者の障害受容はどのような経緯をたどるのか、事例の展開に応じて、専門家が詳細な解説を示していきます(執筆:松尾清美先生)。
第11回 呼吸訓練
術後6日目に呼吸訓練が始まりました。マウスピースをくわえ、肺に酸素を送る装置で、朝夕2回、15分ずつやりました。緑色の長い管があってコロがついている大きな機器で、そのつど長い廊下を引っ張って病室に連れてくるので、「カマキリ」と私は呼んでいました。夫は、
「呼吸訓練器が持ち込まれ、日に2回、午前午後15分間ずつ、急速に送り込まれる空気が肺を充たし、それをしっかり吐き出すことを繰り返す。辛い時間だった。終了のベルが待ち遠しくて目を閉じて耐えた」
と記していました。
永遠に続くと思われた痰の苦しみも呼吸訓練も、時間の経過とともになくなっていきました。2か月過ぎる頃には痰の量もずいぶん減ってきていましたし、自分でも「ガーガー」と声を出すようにしながら、少しずつ吐き出せるようにもなって来ていました。
「『必ず過去のものになります』という先生の言葉は本当だったね」としみじみ話し合ったことでした。
泌尿器科の回診がありました。
「このたびはとんだことでしたが、精一杯やりますから頑張りましょう」
と、主治医のI先生と、S先生が念入りな感覚チェックの後、尿の訓練などについて話されました。この段階では管が通っていました。
「最初少なかった尿量が1日2400ccもあること、これを抑えて膀胱に尿が溜まった感覚を呼び覚まし、自力で排尿できるようにする治療として、これから平均8〜9週間1日1000cc程度の水の摂取での訓練をしていくこと。それに伴い、管を抜き、時間ごとに導尿する方法をとること。それが術後1週間目の明日0時から始まる」
という内容でした。具体的にはどういうことか理解できないながらも、大きな支えがまた一つできたように感じられて、ひどく気持ちが楽になっていくようでした。管が抜かれて、「出したい感じがする」と言ったらコールするようにとのことでした。その感じはその後もとうとう出てきませんでした。以降は、日に3回、9時、16時、24時に導尿されて、尿量をチェックされました。完璧ともいえる消毒済みの器具で厳密な手順でスムーズに導尿するナースたちの手元は見とれるほど見事なものでした。
一方、水様便は変わりませんでした。ひっきりなしという感じの排便でした。
「内臓もショックを受けていて、ストレスがかかっているからです」
とナースが話してくれました。便もガスも出るのはわかると言いました。始末してもらうのもわかっていました。出血もひどく、痔が切れているようでした。「さぞ痛いでしょうね」とナースが同情してくれましたが、痛みを感じられなくなってしまっていたので、かわいそうで仕方がありませんでした。
1か月近く出血が続き、血液検査に貧血症状が出たので、念のため近くの総合病院へ行って大腸のカメラ検査を受けましたが、単なる痔疾患だけだったので安心しました。主治医に「単なるヘモ(痔)でよかったですね」と明るく言われました。「どうもなかったんだから、しっかり食べましょう」とは、また明るいナースの言葉でした。
「呼吸訓練器が持ち込まれ、日に2回、午前午後15分間ずつ、急速に送り込まれる空気が肺を充たし、それをしっかり吐き出すことを繰り返す。辛い時間だった。終了のベルが待ち遠しくて目を閉じて耐えた」
と記していました。
永遠に続くと思われた痰の苦しみも呼吸訓練も、時間の経過とともになくなっていきました。2か月過ぎる頃には痰の量もずいぶん減ってきていましたし、自分でも「ガーガー」と声を出すようにしながら、少しずつ吐き出せるようにもなって来ていました。
「『必ず過去のものになります』という先生の言葉は本当だったね」としみじみ話し合ったことでした。
泌尿器科の回診がありました。
「このたびはとんだことでしたが、精一杯やりますから頑張りましょう」
と、主治医のI先生と、S先生が念入りな感覚チェックの後、尿の訓練などについて話されました。この段階では管が通っていました。
「最初少なかった尿量が1日2400ccもあること、これを抑えて膀胱に尿が溜まった感覚を呼び覚まし、自力で排尿できるようにする治療として、これから平均8〜9週間1日1000cc程度の水の摂取での訓練をしていくこと。それに伴い、管を抜き、時間ごとに導尿する方法をとること。それが術後1週間目の明日0時から始まる」
という内容でした。具体的にはどういうことか理解できないながらも、大きな支えがまた一つできたように感じられて、ひどく気持ちが楽になっていくようでした。管が抜かれて、「出したい感じがする」と言ったらコールするようにとのことでした。その感じはその後もとうとう出てきませんでした。以降は、日に3回、9時、16時、24時に導尿されて、尿量をチェックされました。完璧ともいえる消毒済みの器具で厳密な手順でスムーズに導尿するナースたちの手元は見とれるほど見事なものでした。
一方、水様便は変わりませんでした。ひっきりなしという感じの排便でした。
「内臓もショックを受けていて、ストレスがかかっているからです」
とナースが話してくれました。便もガスも出るのはわかると言いました。始末してもらうのもわかっていました。出血もひどく、痔が切れているようでした。「さぞ痛いでしょうね」とナースが同情してくれましたが、痛みを感じられなくなってしまっていたので、かわいそうで仕方がありませんでした。
1か月近く出血が続き、血液検査に貧血症状が出たので、念のため近くの総合病院へ行って大腸のカメラ検査を受けましたが、単なる痔疾患だけだったので安心しました。主治医に「単なるヘモ(痔)でよかったですね」と明るく言われました。「どうもなかったんだから、しっかり食べましょう」とは、また明るいナースの言葉でした。