年間約5000名の新患者が発生するという脊髄損傷。
ここでは、その受傷直後から患者およびその家族がどのような思いを抱きながら治療に臨むのかを、時系列に沿ってご紹介します(執筆:丸山柾子さん)。
それに呼応する形で、医療関係者によるアプローチ、そして当事者の障害受容はどのような経緯をたどるのか、事例の展開に応じて、専門家が詳細な解説を示していきます(執筆:松尾清美先生)。
ここでは、その受傷直後から患者およびその家族がどのような思いを抱きながら治療に臨むのかを、時系列に沿ってご紹介します(執筆:丸山柾子さん)。
それに呼応する形で、医療関係者によるアプローチ、そして当事者の障害受容はどのような経緯をたどるのか、事例の展開に応じて、専門家が詳細な解説を示していきます(執筆:松尾清美先生)。
第19回 「第17回 褥瘡は一度も創りませんでした」「第18回 全身痙攣の初発」の解説
最初の病院で「よくて寝たきり、褥瘡も3日でできます」と言われたようですが、高位脊髄損傷者の急性期の管理方法を知らない医療職の言葉です。頚椎の損傷部位の固定と体位変換や褥瘡予防マットレスなどの組み合わせによって、褥瘡は予防できるのです。せき損センターでは「手術後にしっかりガードした上で早くから動かし、褥瘡も創りません」という言葉と、身体の一部に長時間圧がかからないように、着るものや履くものなど身につけるものから、車いすのクッション、ベッド等に細心の注意が払われる実際の管理の徹底ぶりは、入院直後にナースから「褥瘡はナースの恥です」という言葉に現れています。
朝から夕方までは、リハビリなどで身体を動かしているので心配ありませんが、問題なのは夕食後から翌朝までの管理であることが書かれています。術後15日目の1日のスケジュールだけを見ると、その大変さを見ることはできませんが、夕食後18時に横向き、就寝時21時は反対横向き、真夜中24時は両腰に棒座を入れて上向き、目覚めの6時には棒座を抜き、平らに上向きにする体交(体位交換)というナース2人で行われるその大切な作業が、寝返りさえできない身体を褥瘡から救ってくれたのです。
一方、医療職として知っておかなければならない患者の思いが記述されています。それは、「作業が整然と効率的に機械的にテキパキと進行すればするほど、身体に伝わる感触は『物』として扱われたような後味が残る」という表現です。夜間で、患者を起こしてはいけないという配慮で、静かに立ち去るナースの状況が思い浮かびますが、患者が寝ていても、静かな口調で「ゆっくりおやすみください」などの言葉かけがあると、物という感触はなかったかもしれません。このような経験をしながら、退院後の生活を想定している点は、丸山さん家族の家庭復帰への期待が感じられます。
「術後13日目の朝、起きて身体を拭いた後、着替えのシャツのボタンがけをしていたら、電気が走った感じがして足が動いたのです」という主治医への報告は、足が動くのではないかという期待が感じられますが、これは足が動き出す前兆ではなく、脊髄反射が現れ始めたことを知らせていますし、回復期へ入ったことを知らせるものです。ただ、そのことを知らない患者は、消灯後の暗い病室で目を剥いて歯を食い縛り、身体を揺すっていると眠れないのです。そして、昼間眠くなって昼夜逆転してしまうのです。
事故後の悔しさも不安感も次第に募ってきていて気持ちも落ち着きつかない上に、一定の姿勢を取り続けていると、身体中が重苦しく感じ始めます。そんなとき、大きく深呼吸を入れると、痙性が起こります。両肩をすくめるようにすると、てきめんに全身痙攣が起こるなどの連続なのです。「畜生」「悔しい」などとふいに口にしたりする状況が、夜間に生じていることを知って医療すべきと考えています。しかし、身体中が、バタつくような痙攣が去ると、一気に全身が弛緩して、ゆったりとした状態がやってきます。丸山さんの表現では、「まるで、全身に溜まっていたマグマが噴出された後のような気分だ。寝返り一つできない身体にとっては、それに代わる貴重な身体リラックスの機会になる」――、痙性の良い点に着眼し、毎日の生活のリズムの中に痙性を取り入れようとする体育教師としての前向きな面が見て取れるし、医療職にも痙性の欠点だけでなく、その利点も理解して欲しいと考えました。
朝から夕方までは、リハビリなどで身体を動かしているので心配ありませんが、問題なのは夕食後から翌朝までの管理であることが書かれています。術後15日目の1日のスケジュールだけを見ると、その大変さを見ることはできませんが、夕食後18時に横向き、就寝時21時は反対横向き、真夜中24時は両腰に棒座を入れて上向き、目覚めの6時には棒座を抜き、平らに上向きにする体交(体位交換)というナース2人で行われるその大切な作業が、寝返りさえできない身体を褥瘡から救ってくれたのです。
一方、医療職として知っておかなければならない患者の思いが記述されています。それは、「作業が整然と効率的に機械的にテキパキと進行すればするほど、身体に伝わる感触は『物』として扱われたような後味が残る」という表現です。夜間で、患者を起こしてはいけないという配慮で、静かに立ち去るナースの状況が思い浮かびますが、患者が寝ていても、静かな口調で「ゆっくりおやすみください」などの言葉かけがあると、物という感触はなかったかもしれません。このような経験をしながら、退院後の生活を想定している点は、丸山さん家族の家庭復帰への期待が感じられます。
「術後13日目の朝、起きて身体を拭いた後、着替えのシャツのボタンがけをしていたら、電気が走った感じがして足が動いたのです」という主治医への報告は、足が動くのではないかという期待が感じられますが、これは足が動き出す前兆ではなく、脊髄反射が現れ始めたことを知らせていますし、回復期へ入ったことを知らせるものです。ただ、そのことを知らない患者は、消灯後の暗い病室で目を剥いて歯を食い縛り、身体を揺すっていると眠れないのです。そして、昼間眠くなって昼夜逆転してしまうのです。
事故後の悔しさも不安感も次第に募ってきていて気持ちも落ち着きつかない上に、一定の姿勢を取り続けていると、身体中が重苦しく感じ始めます。そんなとき、大きく深呼吸を入れると、痙性が起こります。両肩をすくめるようにすると、てきめんに全身痙攣が起こるなどの連続なのです。「畜生」「悔しい」などとふいに口にしたりする状況が、夜間に生じていることを知って医療すべきと考えています。しかし、身体中が、バタつくような痙攣が去ると、一気に全身が弛緩して、ゆったりとした状態がやってきます。丸山さんの表現では、「まるで、全身に溜まっていたマグマが噴出された後のような気分だ。寝返り一つできない身体にとっては、それに代わる貴重な身体リラックスの機会になる」――、痙性の良い点に着眼し、毎日の生活のリズムの中に痙性を取り入れようとする体育教師としての前向きな面が見て取れるし、医療職にも痙性の欠点だけでなく、その利点も理解して欲しいと考えました。