年間約5000名の新患者が発生するという脊髄損傷。
ここでは、その受傷直後から患者およびその家族がどのような思いを抱きながら治療に臨むのかを、時系列に沿ってご紹介します(執筆:丸山柾子さん)。
それに呼応する形で、医療関係者によるアプローチ、そして当事者の障害受容はどのような経緯をたどるのか、事例の展開に応じて、専門家が詳細な解説を示していきます(執筆:松尾清美先生)。
ここでは、その受傷直後から患者およびその家族がどのような思いを抱きながら治療に臨むのかを、時系列に沿ってご紹介します(執筆:丸山柾子さん)。
それに呼応する形で、医療関係者によるアプローチ、そして当事者の障害受容はどのような経緯をたどるのか、事例の展開に応じて、専門家が詳細な解説を示していきます(執筆:松尾清美先生)。
第15回 口述筆記
夫のリハビリへの想いは並々ならぬものがあったのです。「指の先まで本当に神経や気持ちを伝えたいんだ。自分の身体とこんなに対話したことはなかったよ」と言いつつ、リハの様子を私に口述筆記させました。受傷後1か月にも満たないころのその記録です。
「OTの立位訓練は、湯上がりだったせいか45度が5分くらいで頭がボーッとなって気分が悪くなった。湯上がりや排便後は誰でもそうなりやすいとのこと。今日はその両方が重なったからだろうか。リハの先生に、ベッドで寝ているときにお腹を自分で揺すったり肩を動かしたりすると、両足に強い痙攣が起きることを話したら、それはとても良いことだと言われた。一つの回復の兆しなんだとも言われた」
「PTの訓練では、座位で後方から支えられての肩の上下や腕の脇開けは、寝ているときの同じ動作のときとは比べものにならないほど負担が大きく苦しかった。でも、寝ていてやるのではダメなんだと言われた。左腕を釣り上げて頸を起こすつもりで、吊り上げた輪を引っ張る新しい課題。手首でスプリングなし。金曜日には肘でスプリング付きだった。その輪をなめるようなつもりで頸を持ち上げる。手首だったから口からは遠かった。回数は少なくていいから全力でやるように言われた。頸が10センチくらい持ち上がった」
「OTのU先生が俺の右手を俺の目の前に差し出して、ゆっくり握ったり開いたりしてみろと言った。そのとき5本の指がわずか1ミリだけど動いたことを自分で確認できた。ただU先生はそんなに言わなかった。いま、布団の中で指をゆっくり開いたり狭めたりしているのが、感覚の上では1〜2センチの感じがする。リハビリの運動の後で、それが悪いほうの右手だったのが嬉しかった。足のほうにも、もう少し出てもいいんじゃないかと言っていた」
「いままでやっているところを見ると、PTは外からの刺激を与えながら身体の動きを引き出していくというか拡げていくように、外見は同じようだが、OTは本人からの発信(動きの発信)を意識させるところのように思える。両方の共通点は、本人の一番動くところからそれを強化しようとする順序に思える。今日はOTで足を自転車こぎのように踏み込み、両股を閉じる。足首を、ブレーキを踏むように踏み込む。手首を後ろに反させる。患者とOT,PTの先生の会話は聞いていると楽しい」
など。
そして、49日目の口述です。
「左足がわずかに動く。自分の意志でわずかに動く。天井から吊るした片足を浮かせ、仰向き姿勢で、足首を、両股を閉じる感じで動かしてみようという。私の目に入るのは天井から吊るした鎖で、足の部分は見えない。そこで、命じられた動作に挑戦する。この動作をやるのは入院後初めてのことである。おそらくその日の足の開閉の中で、私自身の中から発する動きの反応をU先生は感じ取ったものと思われる。目を閉じて懸命に両股間を締めるイメージで、1、2、3、4と試みた。『ほれ、見てご覧。丸山さん、見てご覧。鎖が動いているでしょう。僕は触っていないよ』目を開けると、確かに鎖の横揺れが目に入った。わずかな横揺れだが、足元の揺れ幅はそれより大きいはずだ。感動的な瞬間であった。にもかかわらず先生は『じゃ、あとそれを繰り返してください』と言い置いて別の患者のところへ立ち去った。患者の一喜一憂に比べて、先生の対応は冷静そのものである。左手に比して、特に右手に大きい差があることをU先生に訴えた。『両肩の動きは、左右それほど差がないのだから、4〜5か月は遅れても追い着くと思いますよ』これでまた元気が出た。今、一番動く左手を使って、一人で食事をとる訓練に入ることを告げられ、スプーンとフォークを用意するよう言われた」
どれだけの期待感を込めて、リハを受けていたかということが深く切なく読み取れます。
「OTの立位訓練は、湯上がりだったせいか45度が5分くらいで頭がボーッとなって気分が悪くなった。湯上がりや排便後は誰でもそうなりやすいとのこと。今日はその両方が重なったからだろうか。リハの先生に、ベッドで寝ているときにお腹を自分で揺すったり肩を動かしたりすると、両足に強い痙攣が起きることを話したら、それはとても良いことだと言われた。一つの回復の兆しなんだとも言われた」
「PTの訓練では、座位で後方から支えられての肩の上下や腕の脇開けは、寝ているときの同じ動作のときとは比べものにならないほど負担が大きく苦しかった。でも、寝ていてやるのではダメなんだと言われた。左腕を釣り上げて頸を起こすつもりで、吊り上げた輪を引っ張る新しい課題。手首でスプリングなし。金曜日には肘でスプリング付きだった。その輪をなめるようなつもりで頸を持ち上げる。手首だったから口からは遠かった。回数は少なくていいから全力でやるように言われた。頸が10センチくらい持ち上がった」
「OTのU先生が俺の右手を俺の目の前に差し出して、ゆっくり握ったり開いたりしてみろと言った。そのとき5本の指がわずか1ミリだけど動いたことを自分で確認できた。ただU先生はそんなに言わなかった。いま、布団の中で指をゆっくり開いたり狭めたりしているのが、感覚の上では1〜2センチの感じがする。リハビリの運動の後で、それが悪いほうの右手だったのが嬉しかった。足のほうにも、もう少し出てもいいんじゃないかと言っていた」
「いままでやっているところを見ると、PTは外からの刺激を与えながら身体の動きを引き出していくというか拡げていくように、外見は同じようだが、OTは本人からの発信(動きの発信)を意識させるところのように思える。両方の共通点は、本人の一番動くところからそれを強化しようとする順序に思える。今日はOTで足を自転車こぎのように踏み込み、両股を閉じる。足首を、ブレーキを踏むように踏み込む。手首を後ろに反させる。患者とOT,PTの先生の会話は聞いていると楽しい」
など。
そして、49日目の口述です。
「左足がわずかに動く。自分の意志でわずかに動く。天井から吊るした片足を浮かせ、仰向き姿勢で、足首を、両股を閉じる感じで動かしてみようという。私の目に入るのは天井から吊るした鎖で、足の部分は見えない。そこで、命じられた動作に挑戦する。この動作をやるのは入院後初めてのことである。おそらくその日の足の開閉の中で、私自身の中から発する動きの反応をU先生は感じ取ったものと思われる。目を閉じて懸命に両股間を締めるイメージで、1、2、3、4と試みた。『ほれ、見てご覧。丸山さん、見てご覧。鎖が動いているでしょう。僕は触っていないよ』目を開けると、確かに鎖の横揺れが目に入った。わずかな横揺れだが、足元の揺れ幅はそれより大きいはずだ。感動的な瞬間であった。にもかかわらず先生は『じゃ、あとそれを繰り返してください』と言い置いて別の患者のところへ立ち去った。患者の一喜一憂に比べて、先生の対応は冷静そのものである。左手に比して、特に右手に大きい差があることをU先生に訴えた。『両肩の動きは、左右それほど差がないのだから、4〜5か月は遅れても追い着くと思いますよ』これでまた元気が出た。今、一番動く左手を使って、一人で食事をとる訓練に入ることを告げられ、スプーンとフォークを用意するよう言われた」
どれだけの期待感を込めて、リハを受けていたかということが深く切なく読み取れます。