年間約5000名の新患者が発生するという脊髄損傷。
ここでは、その受傷直後から患者およびその家族がどのような思いを抱きながら治療に臨むのかを、時系列に沿ってご紹介します(執筆:丸山柾子さん)。
それに呼応する形で、医療関係者によるアプローチ、そして当事者の障害受容はどのような経緯をたどるのか、事例の展開に応じて、専門家が詳細な解説を示していきます(執筆:松尾清美先生)。
ここでは、その受傷直後から患者およびその家族がどのような思いを抱きながら治療に臨むのかを、時系列に沿ってご紹介します(執筆:丸山柾子さん)。
それに呼応する形で、医療関係者によるアプローチ、そして当事者の障害受容はどのような経緯をたどるのか、事例の展開に応じて、専門家が詳細な解説を示していきます(執筆:松尾清美先生)。
第18回 全身痙攣の初発
術後13日目の朝、起きて身体を拭いた後、着替えのシャツのボタンがけをしていたら、電気が走った感じがして足が動いたのです。2回続きました。ビックリしましたが、残念ながら意志とは関係ない様子でした。それでも嬉しくて夕方M先生に話したところ、「勝手にでしょう」とあっさり言われました。
夫の手記です。
「この日が、以後何年も続いて付き合うことになった全身痙攣の初発であった。『けいれん』と言わず、『けいせい(痙性)』と言うらしい。以後、日を追って頻繁に、しかも突発的に襲われることになった」
足が動く感じについての当時の口述です。
「明け方、両肩を軸にしてお腹を左右に揺する(転がすようにする)と、お腹を取り巻いている痺れが一緒に左右に動き、瞬間に両足にも痺れが伝わって両足が動く。動くのが自分でよくわかる。それを何度か繰り返し試してみる。だが、全てのときに足が動くとは限らず、3〜4回に1回足が動く反応がある。それをやると、眠気が飛んでしまって、どんどん眼が冴えてくる。足が動く瞬間はお腹を揺するというだけではなく、痰を出すために深呼吸をして自分で吐き出そうとしたときとか、腰やお尻やお腹を触られたときにも同じ反応が出るようになった。また、妻が横にいて手を取ってさすろうとした瞬間にも足に反応がある。妻は『勝手に動くとはいえ、回数が増え、関連動作もわかってくると望みにつながるかもしれないね』という。手首から先の感覚は鈍く、特に右手は1本1本触られても何指か判別できない。左手も意識では親指と後の4本(ミトン)のような感じがする。それをゆっくり拡げたり狭めたりを試みていると、実際に動いているように感じられる。目に見えないので妻に確かめると、そのようには現れてはいないらしい(右手についてはその動きはほとんど見えないが、左手の場合、4本の指側の筋にかすかな動きが見られる・・妻付記)」
M先生にも「夜中に肩を動かしていると足がビリビリしてきます。それが嬉しくて・・」と報告したら、「まあ、それも一つの表現ですからね。いろんな方法で表現する人がいますから・・」とあっさりいなされた感じでした。消灯後の暗い病室で目を剥いて歯を食い縛り身体を揺すっていると眠れません。そして、昼間眠くなって昼夜逆転です。事故後の悔しさも不安感も次第に募ってきていて気持ちも落ち着きませんでした。「畜生」「悔しい」などとふいに口にしたりするので、「え?」と聞き返すと「何でもない」と返ってきました。焦りも当然あったと思われました。なので、夜よく眠れるように眠剤を出してもらうようになりました。
日を追って痙性が強くなりました。身体のどこかにちょっと触れるだけでも特に足が動くので、処置してもらっている間にも、足枕(踵の褥瘡予防枕、棒座のようなもの)から足が落ちてしまうこともありました。「ドクターはなぜ起きるのかはっきりしないが、悪いことではないと言います」と見ていたナースが話してくれました。後日の手記からです。
「この痙性と付き合っているうちに意外な効用もあることを知った。睡眠中や車いす等で長時間同じ姿勢でいることによってできる褥瘡を痙性が起きるたびに除圧することで、予防する働きがあるというのだ。また、痙性の激しい人は筋肉のやせ細りが遅いということもあると、あるセラピストから聞いた。唯一の筋肉運動なのだから、それもうなずける。そのうちに無意識に起きるだけでなく、意識して痙性を自分で引き起こす術を知った。一定の姿勢を取り続けていると、身体中が重苦しく感じ始める。そんなとき、大きく深呼吸を入れると痙性が起こる。両肩をすくめるようにすると、てきめん全身痙攣が起こる。身体中が、バタつくような痙攣が去ると、一気に全身が弛緩して、ゆったりとした状態がやってくる。まるで、全身に溜まっていたマグマが噴出された後のような気分だ。寝返り一つできない身体にとっては、それに代わる貴重な身体リラックスの機会になる」
夫にはちょうどそのころ、手術からの身体の甦りを綴りたいとの思いが強まってきていました。体育の教師としての特別の感じ方があったのでしょう、それを「書いてくれ」とよく頼まれました。二人の希望に向かっていくようで、それは私にとってもなぜか嬉しい時間でした。
夫の手記です。
「この日が、以後何年も続いて付き合うことになった全身痙攣の初発であった。『けいれん』と言わず、『けいせい(痙性)』と言うらしい。以後、日を追って頻繁に、しかも突発的に襲われることになった」
足が動く感じについての当時の口述です。
「明け方、両肩を軸にしてお腹を左右に揺する(転がすようにする)と、お腹を取り巻いている痺れが一緒に左右に動き、瞬間に両足にも痺れが伝わって両足が動く。動くのが自分でよくわかる。それを何度か繰り返し試してみる。だが、全てのときに足が動くとは限らず、3〜4回に1回足が動く反応がある。それをやると、眠気が飛んでしまって、どんどん眼が冴えてくる。足が動く瞬間はお腹を揺するというだけではなく、痰を出すために深呼吸をして自分で吐き出そうとしたときとか、腰やお尻やお腹を触られたときにも同じ反応が出るようになった。また、妻が横にいて手を取ってさすろうとした瞬間にも足に反応がある。妻は『勝手に動くとはいえ、回数が増え、関連動作もわかってくると望みにつながるかもしれないね』という。手首から先の感覚は鈍く、特に右手は1本1本触られても何指か判別できない。左手も意識では親指と後の4本(ミトン)のような感じがする。それをゆっくり拡げたり狭めたりを試みていると、実際に動いているように感じられる。目に見えないので妻に確かめると、そのようには現れてはいないらしい(右手についてはその動きはほとんど見えないが、左手の場合、4本の指側の筋にかすかな動きが見られる・・妻付記)」
M先生にも「夜中に肩を動かしていると足がビリビリしてきます。それが嬉しくて・・」と報告したら、「まあ、それも一つの表現ですからね。いろんな方法で表現する人がいますから・・」とあっさりいなされた感じでした。消灯後の暗い病室で目を剥いて歯を食い縛り身体を揺すっていると眠れません。そして、昼間眠くなって昼夜逆転です。事故後の悔しさも不安感も次第に募ってきていて気持ちも落ち着きませんでした。「畜生」「悔しい」などとふいに口にしたりするので、「え?」と聞き返すと「何でもない」と返ってきました。焦りも当然あったと思われました。なので、夜よく眠れるように眠剤を出してもらうようになりました。
日を追って痙性が強くなりました。身体のどこかにちょっと触れるだけでも特に足が動くので、処置してもらっている間にも、足枕(踵の褥瘡予防枕、棒座のようなもの)から足が落ちてしまうこともありました。「ドクターはなぜ起きるのかはっきりしないが、悪いことではないと言います」と見ていたナースが話してくれました。後日の手記からです。
「この痙性と付き合っているうちに意外な効用もあることを知った。睡眠中や車いす等で長時間同じ姿勢でいることによってできる褥瘡を痙性が起きるたびに除圧することで、予防する働きがあるというのだ。また、痙性の激しい人は筋肉のやせ細りが遅いということもあると、あるセラピストから聞いた。唯一の筋肉運動なのだから、それもうなずける。そのうちに無意識に起きるだけでなく、意識して痙性を自分で引き起こす術を知った。一定の姿勢を取り続けていると、身体中が重苦しく感じ始める。そんなとき、大きく深呼吸を入れると痙性が起こる。両肩をすくめるようにすると、てきめん全身痙攣が起こる。身体中が、バタつくような痙攣が去ると、一気に全身が弛緩して、ゆったりとした状態がやってくる。まるで、全身に溜まっていたマグマが噴出された後のような気分だ。寝返り一つできない身体にとっては、それに代わる貴重な身体リラックスの機会になる」
夫にはちょうどそのころ、手術からの身体の甦りを綴りたいとの思いが強まってきていました。体育の教師としての特別の感じ方があったのでしょう、それを「書いてくれ」とよく頼まれました。二人の希望に向かっていくようで、それは私にとってもなぜか嬉しい時間でした。