年間約5000名の新患者が発生するという脊髄損傷。
ここでは、その受傷直後から患者およびその家族がどのような思いを抱きながら治療に臨むのかを、時系列に沿ってご紹介します(執筆:丸山柾子さん)。
それに呼応する形で、医療関係者によるアプローチ、そして当事者の障害受容はどのような経緯をたどるのか、事例の展開に応じて、専門家が詳細な解説を示していきます(執筆:松尾清美先生)。
ここでは、その受傷直後から患者およびその家族がどのような思いを抱きながら治療に臨むのかを、時系列に沿ってご紹介します(執筆:丸山柾子さん)。
それに呼応する形で、医療関係者によるアプローチ、そして当事者の障害受容はどのような経緯をたどるのか、事例の展開に応じて、専門家が詳細な解説を示していきます(執筆:松尾清美先生)。
第5回 緊急手術を終えて
5時間が経って午後10時ごろ、呼ばれて病室へ行きました。ドクターに応えている夫の声が病室の外まで聞こえていました。元気な声でした。「呼吸器をつけていない」と真っ先に思いました。別室でドクターの話を聴きました。
「手術は計画通りいった。首の後ろを開いたときは既に骨は戻った位置にあった。全身麻酔で筋力が弱まると、まれにこういうことはある。しかし、計画通りワイヤーで括り(フィルムに結び目が見えた)、腸骨(尾てい骨の後ろと前の部分)を取って埋め(同化するように自分の骨でくさびを打つこと)、前から開いてじゃまになっているものをきれいにして骨は元に戻った(X線写真を示して)。感覚も左手はあるが、右手はない。足はない。右のお尻が何度もわかる。しかし、それが今後の回復にどれだけ有効となるかは疑問。術後の感覚は術前と変化はなかった」
と、あくまで冷静で淡々とした説明でした。気になっていた前の病院で聴いた、(遅れて現れてくる)ほかの障害について尋ねたら、「その心配はない」とのことで少し安心しました。
頭にネットをかぶり、鼻には酸素のチューブ、顎の下から首は厚いガーゼで覆われ、点滴2本、傷口(首の前後、両脇の腸骨)から出血を吸い取るチューブとタンク4か所、尿カテーテルがついていて目はつむり、口は開いていました。血圧は、明け方になって落ち着いてきました。おならも水様便も出てきました。
ナースからの説明もありました。
「酸素のチューブは経過がよければ翌日には取る。ガーゼは手術室できれいに止めてあるので、次の日ぐらいは外さない。傷からの出血も、2〜3日で取れる。それが取れれば、首にカラーをはめる。そうすれば、体位も変えられる。起きてリハビリもすぐに始める。褥瘡はつくらない」
と言われて、手術の方法や褥瘡のことや呼吸器のことなど、前の病院との違いが多いのが不思議に思われましたが、目の前の夫の様子を見守るので精一杯でした。「喉や唇が渇く、鼻が詰まって息苦しくカテーテルで取ってもらう、水様便が出続ける」などで目を離せませんでした。
夜明け前からかなり話し始めました。
「首が痛い。固―い石の上に乗っているような感じだ。両足を曲げて・・、尻だけついて両足を宙に浮けているようだ・・。右足は外転している・・。俺の手は今どうなっているか・・。俺の首は今どうなっているか・・」と。
そして、息苦しさの中で話し始めた前の病院の手術室での話です。詳しく書かれた夫の手記を転記します。
「手術は計画通りいった。首の後ろを開いたときは既に骨は戻った位置にあった。全身麻酔で筋力が弱まると、まれにこういうことはある。しかし、計画通りワイヤーで括り(フィルムに結び目が見えた)、腸骨(尾てい骨の後ろと前の部分)を取って埋め(同化するように自分の骨でくさびを打つこと)、前から開いてじゃまになっているものをきれいにして骨は元に戻った(X線写真を示して)。感覚も左手はあるが、右手はない。足はない。右のお尻が何度もわかる。しかし、それが今後の回復にどれだけ有効となるかは疑問。術後の感覚は術前と変化はなかった」
と、あくまで冷静で淡々とした説明でした。気になっていた前の病院で聴いた、(遅れて現れてくる)ほかの障害について尋ねたら、「その心配はない」とのことで少し安心しました。
頭にネットをかぶり、鼻には酸素のチューブ、顎の下から首は厚いガーゼで覆われ、点滴2本、傷口(首の前後、両脇の腸骨)から出血を吸い取るチューブとタンク4か所、尿カテーテルがついていて目はつむり、口は開いていました。血圧は、明け方になって落ち着いてきました。おならも水様便も出てきました。
ナースからの説明もありました。
「酸素のチューブは経過がよければ翌日には取る。ガーゼは手術室できれいに止めてあるので、次の日ぐらいは外さない。傷からの出血も、2〜3日で取れる。それが取れれば、首にカラーをはめる。そうすれば、体位も変えられる。起きてリハビリもすぐに始める。褥瘡はつくらない」
と言われて、手術の方法や褥瘡のことや呼吸器のことなど、前の病院との違いが多いのが不思議に思われましたが、目の前の夫の様子を見守るので精一杯でした。「喉や唇が渇く、鼻が詰まって息苦しくカテーテルで取ってもらう、水様便が出続ける」などで目を離せませんでした。
夜明け前からかなり話し始めました。
「首が痛い。固―い石の上に乗っているような感じだ。両足を曲げて・・、尻だけついて両足を宙に浮けているようだ・・。右足は外転している・・。俺の手は今どうなっているか・・。俺の首は今どうなっているか・・」と。
そして、息苦しさの中で話し始めた前の病院の手術室での話です。詳しく書かれた夫の手記を転記します。
怪我の直後で瀕死の患者にとって、手術室でのこの出来事はどんなに恐ろしく不安だったことだろうと思います。「怖かったよ」と、まだ夜が明けきらない頃あえぎあえぎ話してくれました。目が覚めて真っ先に話したかったことだったのでしょう。患者にそんな思いをさせるなんてと腹を立てながら、あの病院のごちゃごちゃ感が甦った気分で聞きました。