第28回 近江富士(4)
「比良の暮雪」も望める山頂
そんな伝説に思いを馳せながら、つづら折れの杉や松林の中の坂を上っていきますが、冬場は行き交うハイカーも少なく、もの寂しい限りです。それでも、頂上から下山してきた中年の男性が見えたので、「今日は静かで寂しいですね。天気も曇りで・・・」と声をかけると、「今朝、名古屋からきましたが、だれもいなくて。これで野犬にでも出くわしたらどうしようか、と不安でした」と苦笑していました。
もちろん、大ムカデはもとより、野犬などもいないため、何の不安もないのですが、人気(ひとけ)の少ない冬場は、どんなに低い山でも複数で登るほうがよいでしょう。
さらに上っていくと稜線に出て左に折れますが、小さなコブのような2つ目のピークが山頂です。頂上は杉林に囲まれていて眺望は利きませんが、御上神社の奥宮が鎮座しています。
その前方の鳥居の向こうの、視界が開けた岩場に立つと、時折、粉雪が舞う冬空のもと、湖東平野を縫うように野洲川がゆったりと流れており、琵琶湖越しに、遠く、うっすらと雪化粧した比良(ひら)山系(最高峰・武奈(ぶな)ヶ岳:1,214メートル)や比叡山(大比叡:848メートル)を望むことができます。マツタケが採れる秋も楽しみですが、近江百景の「比良(ひら)の暮雪」をうかがわせる冬の風情は格別です。
帰りは、あえて表登山道を利用し、妙見堂の跡に立ち寄ってから下山しました。上りの裏登山道は登山口から頂上まで40分以上かかりましたが、表登山道は急な坂や岩場もある直登のコースだったため、頂上から下山口まで30分弱と、10分ほど短くて済みます。
しかし、人気の少ない冬場は、時間がかかっても裏登山道を往復した方が無難ということを改めて実感しました。時間があれば駅前の立ち寄り湯で、冷えた身体を温めれば最高でしょう。
次回はハワイのダイヤモンドヘッドをご紹介しましょう。