特養での機能訓練の方法は?
私は今、昨年12月にできたばかりの新設の特養につとめています。私の担当する利用者が最近、立位保持が難しくなりつつあります。そのため、ベッドから車椅子への移乗等が困難になってきていて、周りのスタッフから「立位訓練を行ってはどうか」との意見が上がっています。施設にOTやPTがいないため、どんな立位訓練の練習をすればよいのか悩んでいます。
私が以前勤めていた施設の見よう見まねで、臥床時に膝関節部の曲げ伸ばしや、移乗時に5〜10秒間の立位保持を行ったりしていますが、本当にこれでよいのか疑問です。
スタッフも、介護経験が1年未満と日の浅い職員が多く、基礎的な介護技術の面で不安があり、どこまで全員が統一してできるかも心配です。
本人の理解と意欲を確認しながら、少し上を目指そう
●まずは日常生活場面での活動を
基本的な考え方として、「特養における機能訓練の位置づけ」から説明します。
何らかの身体的な障害がある、または加齢や廃用により身体機能が低下している方に対して「訓練で身体を鍛えて、生活動作の自立性を高めよう」という考え方は、「医療の場における治療的な考え方」です。医療機関で治療として機能訓練を行う場合には、精いっぱい訓練を行い、他の生活場面ではぐったり休むなどして「治療訓練を優先」します。
しかし、質問者の施設にはPT・OTはいないということです。たとえいたとしても、特養では、医療機関と同じ考え方は通用しないと考えます。
特養ではあくまでも「生活」が優先します。ほとんどの時間を非活動的な暮らし方で過ごし、短時間だけ機能訓練をしても、なかなか訓練の効果は上がりません。それどころか、廃用性の機能低下を止めることも難しいかもしれません。100%の力を発揮しながら日常生活を送るべきとはいいませんが、まずは日常生活場面においてそれなりに活動的な暮らしを送り、本人の能力も発揮されているという前提があって、その上に機能訓練を積み上げるという考え方が必要です。
質問では、車椅子への移乗が難しくなってきているとのことですが、現状で、移乗の際に本人の能力が十分に発揮されている生活環境になっているか、まずはその検討が必要です。たとえば、ベッドを起立しやすい高さに設定して移動用のバーを設置し、車椅子も移乗しやすいようにフット・レッグサポートをスイング〜取り外し式とするなどの環境であれば、より自力移乗しやすい環境といえます。ベッド〜車椅子間の移乗だけではなく、トイレへの移乗など他の生活場面も同様です。
●現状の能力よりも、ほんの少し上のレベルで訓練を行う
次に機能訓練の中味ですが、「今できていることを単純に繰り返しても、大きな訓練効果は得られない」ということが基本です。たとえば、現状で利用者が介助を必要としてかろうじて歩ける状態であれば、質問にある「5秒〜10秒間の立位保持」は、最低限の機能維持には役立っても「機能向上」までは至らないかもしれません。
機能訓練、特に筋力や動作能力を高めることを目的とした訓練は、「現状の能力よりも、ほんの少し上のレベルで訓練を行う」ことで負荷を与え、繰り返すことで機能向上が図られるというのが、基本的な考え方です。
「介助を必要としてかろうじて歩ける」場合、「平行棒内でしっかりとつかまりながら、自力(独歩)で歩く」というのが「ほんの少しだけ上のレベル」ということになります。もちろん、介助者がすぐ近くで見守り、いざというときに備えて、手を本人の身体に添えておくことも必要です。頻度としては最低でも週に2回、「積極的な訓練時間」をもつことが必要です。
虚弱高齢者の場合、このような「少し上のレベルで負荷を与える」ということまでしなくとも、楽にできることを反復して行うことで、神経〜筋肉〜関節全体の活性を高められるという考え方もあります。
本人の訓練に取り組む意欲があまり高くない場合には、この訓練方法のほうが行いやすいかもしれません。その場合、できるだけ頻度を多くして行うほうがよいでしょう。
ただし「ある程度余裕をもって行えることを反復して行う」という訓練は、無味乾燥としたものになりがちです。いすから、腕の引きを使わずに下肢だけで起立〜着座動作を繰り返すという反復動作訓練の場合には、職員が向かい合わせに座り、声をかけ、数を数えながら起立して上肢を大きくバンザイするなど、本人の身体機能に合わせ、ゆっくりとした音楽のリズムで起立〜着座動作を反復して行うなどの工夫が必要です。
また、現状で動作に伴う「痛み」の問題を抱えていないか、訓練を行うことで痛みがひどくなったり、新しく痛んだりということがないかも、見落としてはならない点です。機能訓練に、「痛みとつらさ」を感じさせてはいけません。動作をすると痛いけれど、何とか効果的な訓練を行いたいということであれば、関節に負担を与えず関節運動を伴わない「筋の等尺性収縮運動」が適しています。現在では「健骨体操」などの名称で、高齢者向けの体操として広く普及しています。
機能訓練は「本人の理解と意欲」が前提条件です。嫌がっているのに無理強いしては、訓練効果が上がるどころか信頼関係を壊し、生活を破壊してしまいかねません。十分にその意義と必要性を説明し、一緒に楽しく行うことを前提としてください。
(回答者:大渕哲也)
基本的な考え方として、「特養における機能訓練の位置づけ」から説明します。
何らかの身体的な障害がある、または加齢や廃用により身体機能が低下している方に対して「訓練で身体を鍛えて、生活動作の自立性を高めよう」という考え方は、「医療の場における治療的な考え方」です。医療機関で治療として機能訓練を行う場合には、精いっぱい訓練を行い、他の生活場面ではぐったり休むなどして「治療訓練を優先」します。
しかし、質問者の施設にはPT・OTはいないということです。たとえいたとしても、特養では、医療機関と同じ考え方は通用しないと考えます。
特養ではあくまでも「生活」が優先します。ほとんどの時間を非活動的な暮らし方で過ごし、短時間だけ機能訓練をしても、なかなか訓練の効果は上がりません。それどころか、廃用性の機能低下を止めることも難しいかもしれません。100%の力を発揮しながら日常生活を送るべきとはいいませんが、まずは日常生活場面においてそれなりに活動的な暮らしを送り、本人の能力も発揮されているという前提があって、その上に機能訓練を積み上げるという考え方が必要です。
質問では、車椅子への移乗が難しくなってきているとのことですが、現状で、移乗の際に本人の能力が十分に発揮されている生活環境になっているか、まずはその検討が必要です。たとえば、ベッドを起立しやすい高さに設定して移動用のバーを設置し、車椅子も移乗しやすいようにフット・レッグサポートをスイング〜取り外し式とするなどの環境であれば、より自力移乗しやすい環境といえます。ベッド〜車椅子間の移乗だけではなく、トイレへの移乗など他の生活場面も同様です。
●現状の能力よりも、ほんの少し上のレベルで訓練を行う
次に機能訓練の中味ですが、「今できていることを単純に繰り返しても、大きな訓練効果は得られない」ということが基本です。たとえば、現状で利用者が介助を必要としてかろうじて歩ける状態であれば、質問にある「5秒〜10秒間の立位保持」は、最低限の機能維持には役立っても「機能向上」までは至らないかもしれません。
機能訓練、特に筋力や動作能力を高めることを目的とした訓練は、「現状の能力よりも、ほんの少し上のレベルで訓練を行う」ことで負荷を与え、繰り返すことで機能向上が図られるというのが、基本的な考え方です。
「介助を必要としてかろうじて歩ける」場合、「平行棒内でしっかりとつかまりながら、自力(独歩)で歩く」というのが「ほんの少しだけ上のレベル」ということになります。もちろん、介助者がすぐ近くで見守り、いざというときに備えて、手を本人の身体に添えておくことも必要です。頻度としては最低でも週に2回、「積極的な訓練時間」をもつことが必要です。
虚弱高齢者の場合、このような「少し上のレベルで負荷を与える」ということまでしなくとも、楽にできることを反復して行うことで、神経〜筋肉〜関節全体の活性を高められるという考え方もあります。
本人の訓練に取り組む意欲があまり高くない場合には、この訓練方法のほうが行いやすいかもしれません。その場合、できるだけ頻度を多くして行うほうがよいでしょう。
ただし「ある程度余裕をもって行えることを反復して行う」という訓練は、無味乾燥としたものになりがちです。いすから、腕の引きを使わずに下肢だけで起立〜着座動作を繰り返すという反復動作訓練の場合には、職員が向かい合わせに座り、声をかけ、数を数えながら起立して上肢を大きくバンザイするなど、本人の身体機能に合わせ、ゆっくりとした音楽のリズムで起立〜着座動作を反復して行うなどの工夫が必要です。
また、現状で動作に伴う「痛み」の問題を抱えていないか、訓練を行うことで痛みがひどくなったり、新しく痛んだりということがないかも、見落としてはならない点です。機能訓練に、「痛みとつらさ」を感じさせてはいけません。動作をすると痛いけれど、何とか効果的な訓練を行いたいということであれば、関節に負担を与えず関節運動を伴わない「筋の等尺性収縮運動」が適しています。現在では「健骨体操」などの名称で、高齢者向けの体操として広く普及しています。
機能訓練は「本人の理解と意欲」が前提条件です。嫌がっているのに無理強いしては、訓練効果が上がるどころか信頼関係を壊し、生活を破壊してしまいかねません。十分にその意義と必要性を説明し、一緒に楽しく行うことを前提としてください。
(回答者:大渕哲也)