握り拳で腹圧をかける排泄介助は正しいですか?
私の勤務する施設では、利用者にトイレに座っていただき、介護者は握り拳で腹圧をかけますが、利用者は「痛い!」「やめて!」と言い、泣く方もいます。後でズボンを汚したら困るから、という理由で「もっと力を入れてオシッコを絞って」と先輩に言われ、困っています。
嫌がるのを無理にするのは良くないとわかりますが、握り拳で力いっぱい腹圧をかけるというのは技術的にどうなのでしょうか。
自然排尿時における「用手圧迫介助法」
排尿時、介助者の手によって腹圧を高め(用手加圧)、排尿を促すことはあり得ます。特にいったんおむつを使用し、尿意や排尿感覚を喪失している方の場合、排尿時の膀胱収縮も不十分になっています。私自身、そういう方に対して、トイレでの排尿時に「手で圧を加えた排尿介助」を行ったこともあります。
しかし、何よりも「苦痛」を与えるのは不適切です。私なりに調べましたが、介護の排尿介助の場面における用手加圧ケアは、ごく一般的なものとはいえないようです。カテーテルを用いた間欠導尿時には、「軽く下腹を圧迫して」との説明がされていますが、これはカテーテルにより排尿されやすい状況です。自然排尿時の「用手圧迫介助法」についての文献は見つけることができませんでした。そこで、以下の回答は私なりの理解・解釈であることをお含み置きください。
しかし、何よりも「苦痛」を与えるのは不適切です。私なりに調べましたが、介護の排尿介助の場面における用手加圧ケアは、ごく一般的なものとはいえないようです。カテーテルを用いた間欠導尿時には、「軽く下腹を圧迫して」との説明がされていますが、これはカテーテルにより排尿されやすい状況です。自然排尿時の「用手圧迫介助法」についての文献は見つけることができませんでした。そこで、以下の回答は私なりの理解・解釈であることをお含み置きください。
手技としては不適切
何といっても、生活支援場面において高齢者に「苦痛・恐怖」を与えることは、できる限り避けなければなりません。しかも「排尿」は、日に何度も繰り返される自然な行為ですから、そのたびに他者(介護者)から苦痛を与えられることのストレスはどれほどのものでしょう。そういうことを行っていては、健康的な介護生活を送っていく上で最大かつ重要な要素である「介護者との信頼関係」に、大きな悪影響があるのではないでしょうか? ズボンが汚れるのを避けるために払う犠牲としては、あまりに大きすぎると思います。
また、医学的な観点からいえば、必要以上の用手加圧による「膀胱破裂」は起こらないでしょうが、過剰な用手加圧により、尿の尿管(腎臓から膀胱へ尿を送る管)逆流が起こり得ると考えられ、尿路感染症のリスクが高まるように思います。
こうした理由により、ご質問のような状況は、「介護手技としては不適切である」と判断せざるを得ません。
また、医学的な観点からいえば、必要以上の用手加圧による「膀胱破裂」は起こらないでしょうが、過剰な用手加圧により、尿の尿管(腎臓から膀胱へ尿を送る管)逆流が起こり得ると考えられ、尿路感染症のリスクが高まるように思います。
こうした理由により、ご質問のような状況は、「介護手技としては不適切である」と判断せざるを得ません。
手技と職場のあり方の見直しを
ではどうすればよいのか? 「手技」と「職場のあり方」から考えてみましょう。
「手技」では、まずはご自身の身体で確かめることをお勧めします。排尿時に自分で握り拳を作って下腹部を精一杯加圧してもよいですし、信頼できる同性の友人に、日頃行っているのと同じようにしてもらうのもよいでしょう。まずは、「苦痛」を自分で体験してみてください。
同時に、握り拳ではなく、手の平を、顔を洗うときの形(指を全部閉じて、手の平で浅いお皿を作る)にして、その「手背」でじわっと押してみてください。「握り拳で力いっぱい」ではなくて、手背で微妙に丸みや形を変えたり力の加え方を加減しください。これは、排痰を促す胸部タッピング手技でも感じますが、介護職は「めいっぱい強く」行う傾向にあるようです。強ければよいということではありません。腹腔内の膀胱の位置・形をイメージしながら、加減してみてください。そのための解剖学の勉強もしましょう。
次に「職場のあり方」ですが、ご質問のような状況・手技について、医療関係職種の関与はないのでしょうか? まずは医療職の関与とアドバイスを求めましょう。
また、用手加圧に頼るだけではなく、排泄時の姿勢を整えるなど、自然排尿が促される条件作りをきちんと行っていますか? たとえば、トイレの背もたれにもたれ後傾した姿勢では排尿しにくいのは当然で、排尿時に軽い前傾姿勢を導くこと、その姿勢が保持できるように前方から姿勢保持介助を行うことなどがきちんとできていますか?
これら介護場面でやるべきことをやった上で、さらに多量な残尿が認められるようならば、医療を受けることも大切です。医師の診察を受けた上で、日常生活場面における排尿介助のあり方についてアドバイスを求めましょう。
最後に、「介護」という仕事についての『価値観』の問題です。ご質問者の職場においては、「高齢者にとって快適・安全な生活」よりも「ズボンを少しでも汚さないこと・介護職の着替え介助の手間を惜しむこと」が「優先されている」としか思えません。さまざまな検討をした上で、最後にこの「価値観」の問題に対する『気づき』と『再検討』が行われなければ、問題の真の解決には至りません。
(回答者:大渕哲也)
「手技」では、まずはご自身の身体で確かめることをお勧めします。排尿時に自分で握り拳を作って下腹部を精一杯加圧してもよいですし、信頼できる同性の友人に、日頃行っているのと同じようにしてもらうのもよいでしょう。まずは、「苦痛」を自分で体験してみてください。
同時に、握り拳ではなく、手の平を、顔を洗うときの形(指を全部閉じて、手の平で浅いお皿を作る)にして、その「手背」でじわっと押してみてください。「握り拳で力いっぱい」ではなくて、手背で微妙に丸みや形を変えたり力の加え方を加減しください。これは、排痰を促す胸部タッピング手技でも感じますが、介護職は「めいっぱい強く」行う傾向にあるようです。強ければよいということではありません。腹腔内の膀胱の位置・形をイメージしながら、加減してみてください。そのための解剖学の勉強もしましょう。
次に「職場のあり方」ですが、ご質問のような状況・手技について、医療関係職種の関与はないのでしょうか? まずは医療職の関与とアドバイスを求めましょう。
また、用手加圧に頼るだけではなく、排泄時の姿勢を整えるなど、自然排尿が促される条件作りをきちんと行っていますか? たとえば、トイレの背もたれにもたれ後傾した姿勢では排尿しにくいのは当然で、排尿時に軽い前傾姿勢を導くこと、その姿勢が保持できるように前方から姿勢保持介助を行うことなどがきちんとできていますか?
これら介護場面でやるべきことをやった上で、さらに多量な残尿が認められるようならば、医療を受けることも大切です。医師の診察を受けた上で、日常生活場面における排尿介助のあり方についてアドバイスを求めましょう。
最後に、「介護」という仕事についての『価値観』の問題です。ご質問者の職場においては、「高齢者にとって快適・安全な生活」よりも「ズボンを少しでも汚さないこと・介護職の着替え介助の手間を惜しむこと」が「優先されている」としか思えません。さまざまな検討をした上で、最後にこの「価値観」の問題に対する『気づき』と『再検討』が行われなければ、問題の真の解決には至りません。
(回答者:大渕哲也)