他のデイサービスから利用者が勧誘されて、困っています
以前通所介護事業所で働いていた職員が、新しく通所介護事業所を開所し、以前働いていた事業所の利用者宅にチラシや手紙を入れたり、訪問するなどして、自分の事業所に勧誘を行うなどの営業をしています。数人の利用者がすでにそちらに通所するなど、現在、利用している利用者の間でもいろいろと噂になっている様子です。
このような状態は黙認しているしかないのでしょうか?
(ペンネーム:悩める職員)
顧客名簿の持ち出しや虚偽の説明をしていない限り、責任追及は困難
元従業員が在籍していた会社と同業または類似業種で営業することは、原則として自由です。不正に取得した営業秘密を利用する場合や、会社の信用を害する虚偽の事実を告知するなどして営業する場合には、不正競争防止法によって、損害賠償義務が生じたり、刑事罰が科される恐れがあります。しかしながら、営業秘密と認められるための要件は厳格で、単に形式的に秘密として指定していただけでは足りず、実質的に秘密として管理されていたことが必要です。
また、就業規則、雇用契約または退職時の誓約書などによって、競業禁止義務と、これに反した場合の損害賠償請求権や差止権が定められている場合があります。しかしながら、文言どおりに競業禁止義務が生じるとは限らないと解されています。競業禁止は、憲法が保障する職業選択の自由に関わるものであり、無限定に認めることは、生活の糧を得る手段を不当に制限することにつながるからです。
競業禁止規定の有効性は、ある裁判(奈良地裁昭和45年10月23日判決)によれば、使用者の利益(企業秘密の保護)、元従業員の不利益(転職、再就職の不利益)及び社会的利害(独占集中のおそれ、それに伴う一般消費者の利害)の3つの視点を考慮しつつ、「合理的範囲内」であることを要するとされています。そして、この「合理的範囲」の具体的基準は、一般的に「制限の期間」「場所的範囲」「制限の対象となる職種の範囲」「代償の有無」等とされています。
ご質問の場合ですが、厳重に管理していた顧客名簿を持ち出した場合や、「会社が倒産しそうだ」などといった虚偽の説明をして顧客を奪っているような場合であれば、損害賠償請求や差止め請求が可能でしょう。そのほかは、誓約書などによる競業禁止規定がある場合であっても、一般のヘルパーの場合には、期間及び場所的範囲を限定し、相当額の退職金を上乗せしているなどの事情がないかぎりは、契約違反として責任を問うことは難しいと思います。
(弁護士:松原健一)
また、就業規則、雇用契約または退職時の誓約書などによって、競業禁止義務と、これに反した場合の損害賠償請求権や差止権が定められている場合があります。しかしながら、文言どおりに競業禁止義務が生じるとは限らないと解されています。競業禁止は、憲法が保障する職業選択の自由に関わるものであり、無限定に認めることは、生活の糧を得る手段を不当に制限することにつながるからです。
競業禁止規定の有効性は、ある裁判(奈良地裁昭和45年10月23日判決)によれば、使用者の利益(企業秘密の保護)、元従業員の不利益(転職、再就職の不利益)及び社会的利害(独占集中のおそれ、それに伴う一般消費者の利害)の3つの視点を考慮しつつ、「合理的範囲内」であることを要するとされています。そして、この「合理的範囲」の具体的基準は、一般的に「制限の期間」「場所的範囲」「制限の対象となる職種の範囲」「代償の有無」等とされています。
ご質問の場合ですが、厳重に管理していた顧客名簿を持ち出した場合や、「会社が倒産しそうだ」などといった虚偽の説明をして顧客を奪っているような場合であれば、損害賠償請求や差止め請求が可能でしょう。そのほかは、誓約書などによる競業禁止規定がある場合であっても、一般のヘルパーの場合には、期間及び場所的範囲を限定し、相当額の退職金を上乗せしているなどの事情がないかぎりは、契約違反として責任を問うことは難しいと思います。
(弁護士:松原健一)