第11回 退職後、人格が豹変したKさん
誰一人悪く言う人はいなかったのに……
社内では仕事熱心な社員として、また家庭では「良いお父さん」として頑張ってきました。金銭トラブルや女性問題とは一切無縁な生き方をしてもきました。
周囲では、誰一人としてKさんのことを悪く言う人はいません。そんなKさんが退職後突然、いろんなことが気にくわなくなり、文句を言うようになったのです。
些細なことで奥さんや息子に当たり散らし、いちいち言いがかりをつけるようになりました。家族はそんなKさんの変貌ぶりに戸惑うばかりです。
自分の人生は何だったのか―こみ上げる疑問
困ったKさんの妻は、とうとうKさんを連れてカウンセリングにやってきました。
最初は無口で話す様子は見られなかったKさんですが、カウンセラーとの信頼関係が出来ると、しみじみと自分の半生を振り返り、「今までやりたいこともせず、真面目に生きてきた自分に疑問をもつようになった」と言うのです。「俺って何なの、先生。もっといろんなことをして、わがままに生きたかった」と語るのでした。
カウンセラーが黙って、Kさんの話を受け止めると、Kさんは自分の子ども時代のことまでさかのぼり、父親が酒飲みでよく暴れ、母親を殴ったこと、そして自分も父親と確執があることを話し出しました。父親の姿を見て、自分は真面目になるしかなかったこと、兄弟が多いので我慢せざるをえなかったことなどを事細かに話し出しました。
最初は無口で話す様子は見られなかったKさんですが、カウンセラーとの信頼関係が出来ると、しみじみと自分の半生を振り返り、「今までやりたいこともせず、真面目に生きてきた自分に疑問をもつようになった」と言うのです。「俺って何なの、先生。もっといろんなことをして、わがままに生きたかった」と語るのでした。
カウンセラーが黙って、Kさんの話を受け止めると、Kさんは自分の子ども時代のことまでさかのぼり、父親が酒飲みでよく暴れ、母親を殴ったこと、そして自分も父親と確執があることを話し出しました。父親の姿を見て、自分は真面目になるしかなかったこと、兄弟が多いので我慢せざるをえなかったことなどを事細かに話し出しました。
大切なのは、自分の本音や弱音を吐ける場所
カウンセラーが「どうやって自分を支えてきたのですか」と投げかけると、Kさんは「自分さえ我慢すればみんな上手くいくと言い聞かせてきました」と答えました。「そういうKさんは、どんな人間だと思いますか?」と尋ねると、「それなりによくやりくりしてきたのかな」と言って、両手で顔を覆いました。
しばらくそっとしていたKさんは、「先生、ありがとうございます。こんなことを言ったのは初めてです。少し恥ずかしいのですが、でもスッキリしました」と言って、カウンセリングルームを後にしました。
自分の気持ちを吐露したり、本音や弱音を聞いてくれる人がいなくなった今日の社会では、カウンセラーの仕事も「捨てたもんじゃない」としみじみ思うのです。
次回は7月28日(火)、更新予定です。
しばらくそっとしていたKさんは、「先生、ありがとうございます。こんなことを言ったのは初めてです。少し恥ずかしいのですが、でもスッキリしました」と言って、カウンセリングルームを後にしました。
自分の気持ちを吐露したり、本音や弱音を聞いてくれる人がいなくなった今日の社会では、カウンセラーの仕事も「捨てたもんじゃない」としみじみ思うのです。
次回は7月28日(火)、更新予定です。
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