第5回 元社長夫人の孤独
夫の急死で生活に変化が
Tさん(61歳女性)は、ある中小企業の経営者の妻をやってきました。夫の経営手腕はなかなかのもので、生活も安定していました。息子も娘も順調に成長し、それぞれ結婚して独立しました。しかしある日突然、Tさんの夫は心臓発作で倒れてしまい、そのまま帰らぬ人になったのです。
その日から、Tさんの生活は少しずつ変わっていきました。それまでは、ほとんど大きな病気もせず家庭を切り盛りしてきたTさんだったのですが、一人暮らしになった途端、階段から落ちてしまい、病院通いをする羽目になったのです。腰痛がひどく、歩行が思うようにいかないため、通院するにもいちいち誰かが車で送り迎えをしなければなりませんでした。
その日から、Tさんの生活は少しずつ変わっていきました。それまでは、ほとんど大きな病気もせず家庭を切り盛りしてきたTさんだったのですが、一人暮らしになった途端、階段から落ちてしまい、病院通いをする羽目になったのです。腰痛がひどく、歩行が思うようにいかないため、通院するにもいちいち誰かが車で送り迎えをしなければなりませんでした。
息子夫婦との同居もストレスの種
「これならいっそ同居しましょ」という長男夫婦の誘いもあって、Tさんは長年住み慣れた家を改築し、1階はTさん、2階はTさんの長男夫婦という二世帯住宅にし、新たな生活がスタートしました。
近所の人たちは「理想的ね、うらやましいわ」と口々に言うのですが、いざスタートしてみると、同居生活もストレスが伴う毎日だったのです。
2階に住む長男夫婦は共働きのためにほとんど家にはいません。淋しいのでたまに孫を呼んで、お菓子をあげたりすると、「おばあちゃん、こういうお菓子には添加物がいっぱい入っているんです。食べさせないでください!」と息子の嫁に叱られてしまうのです。息子も「余計なことをしないで、お母さん」と嫁に加担します。
近所の人たちは「理想的ね、うらやましいわ」と口々に言うのですが、いざスタートしてみると、同居生活もストレスが伴う毎日だったのです。
2階に住む長男夫婦は共働きのためにほとんど家にはいません。淋しいのでたまに孫を呼んで、お菓子をあげたりすると、「おばあちゃん、こういうお菓子には添加物がいっぱい入っているんです。食べさせないでください!」と息子の嫁に叱られてしまうのです。息子も「余計なことをしないで、お母さん」と嫁に加担します。
愚痴を聞いてくれた娘との関係も……
そんなとき、Tさんは自分の娘に電話し、愚痴を言ったものです。娘はTさんの話をだまって受け入れ、何でも聞いてくれました。すると、Tさんの気持ちもすっきりし、楽になりました。
しかし最近、娘は息子夫婦との同居を決めたことが気に食わないらしく、話をきいてくれないのです。息子夫婦とのトラブルについて電話しても、「それはお母さんが決めたことでしょ。今さら何を言うの。それに財産もお兄ちゃんにあげるつもりなんでしょ」と取り合ってくれないのです。それどころか、自分の怒りをTさんにぶつけてくると言います。
しかし最近、娘は息子夫婦との同居を決めたことが気に食わないらしく、話をきいてくれないのです。息子夫婦とのトラブルについて電話しても、「それはお母さんが決めたことでしょ。今さら何を言うの。それに財産もお兄ちゃんにあげるつもりなんでしょ」と取り合ってくれないのです。それどころか、自分の怒りをTさんにぶつけてくると言います。
気軽に話し合える関係づくり
Tさんは、61年間の自らの半生を振り返り、今になって孤独を噛み締める毎日が続いているといいます。「家族だけではなく、もっと気軽に話し合える友達を作っておけばよかった」としみじみ後悔するというのです。
そこでカウンセラーは、Tさんの話をできるだけ否定しないで、すべてを受容的に聞き入れることにしました。家族や友達が当てにできない場合は、カウンセラーがその代役を務めればいいのです。カウンセラーが、ある意味で「擬似家族」の役割を果たすのです。Tさんは「なかなか家族にはわかってもらえなくて……。でも先生、だいぶ楽になりました」と話してくれました。
そこでカウンセラーは、Tさんの話をできるだけ否定しないで、すべてを受容的に聞き入れることにしました。家族や友達が当てにできない場合は、カウンセラーがその代役を務めればいいのです。カウンセラーが、ある意味で「擬似家族」の役割を果たすのです。Tさんは「なかなか家族にはわかってもらえなくて……。でも先生、だいぶ楽になりました」と話してくれました。
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