第10回 捨てる神と拾う神
自分だけが浮いているような気が……
Yさん(59歳男性、無職)、定年退職して2年になります。これといった趣味はなく、テレビを見たり、散歩をしたりして毎日時間を過ごしているのですが、最近、なぜか家族に疎ましがられているような気がしてなりません。
Yさんには息子が2人います。長男夫婦は、Yさんの家から歩いて5分くらいのところに住んでいて、何か家族ぐるみの行事や旅行があると、必ずといっていいほど、長男夫婦と一緒に行動するのですが、最近はYさんだけが浮いている気がしてなりません。旅行に出かけるときも、今まではYさんとYさんの妻、それに息子夫婦と孫2人が一台の自家用車に乗って、はしゃぎまわっていたのですが、子どもたちのからだが大きくなるにつれて、後部座席が狭くなり、全員が乗れなくなってしまったのです。
その白羽の矢はYさんに立ったのでした。
孫たちは、「じいじ可哀そう」と言ってくれるのですが、妻や長男夫婦は「親父、頼むよ!」と嬉しそうに出かけていきます。「気をつけて行ってこいよ!」とは言うものの、Yさんはどこか寂しさも感じていました。
Yさんには息子が2人います。長男夫婦は、Yさんの家から歩いて5分くらいのところに住んでいて、何か家族ぐるみの行事や旅行があると、必ずといっていいほど、長男夫婦と一緒に行動するのですが、最近はYさんだけが浮いている気がしてなりません。旅行に出かけるときも、今まではYさんとYさんの妻、それに息子夫婦と孫2人が一台の自家用車に乗って、はしゃぎまわっていたのですが、子どもたちのからだが大きくなるにつれて、後部座席が狭くなり、全員が乗れなくなってしまったのです。
その白羽の矢はYさんに立ったのでした。
孫たちは、「じいじ可哀そう」と言ってくれるのですが、妻や長男夫婦は「親父、頼むよ!」と嬉しそうに出かけていきます。「気をつけて行ってこいよ!」とは言うものの、Yさんはどこか寂しさも感じていました。
1人に慣れないといけない
それにひきかえ、Yさんの妻は、孫たちからも人気があり、「おばあちゃん、これ買って、あれ買って」とせがまれています。
無口なYさんは、だんだん家族からも身を引くようになりました。家族がそろって出かけるたびに、Yさんは留守番の役を引き受け、1人寂しくテレビを見るのですが、心のなかではいつも、「1人になることに慣れないといかん」と言い聞かせています。すると、気持ちも落ち着くというのです。
捨てる神、拾う神
しかしそんなある日、次男夫婦から突然の電話があり、「親父、たまには遊びに来いよ」と言って招待されました。照れながら次男夫婦のマンションに行くと、いきなり「おめでとう!」と言ってクラッカーを鳴らされ、ビックリしてしまいました。なんとテーブルには大きなケーキが置いてあり、次男の妻が「これ、お義父さんに」と言って、ネクタイをプレゼントしてくれました。自分でもすっかり忘れていた63歳の誕生日がその日だったのです。Yさんはネクタイを抱えながら、うれし涙の帰路に着きました。心のなかでは「捨てる神あれば拾う神あり」とつぶやいていました。
次回は7月14日(火)、更新予定です。
次回は7月14日(火)、更新予定です。
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