ケアサービスを提供するうえで、鍵となる“記録”。その役割を再確認し、実践に活かすにはどうしたらよいか、考えてみましょう。本連載では、施設における“記録”を取り上げていきます。
第23回 介護記録におけるリスクマネジメント(2)
『情報提供義務』
皆さんは「情報提供義務」という言葉をご存知でしょうか?
なんとなく意味は想像できても、詳しくは知らないという方もいらっしゃるでしょう。次の「記録」に目を通してみてください。
夜勤の巡回中に、利用者の下半身がベッドから落ちていることを発見した。利用者に聞いてみると、「トイレに行こうとした」と言っていた。
対応として、利用者の身体状況からはトイレでの排泄は無理なことを説明し、また、身体の位置をベッド左側(麻痺側)に寄せておいた。
≪引用文献≫
神奈川県老人ホーム施設協会事故防止対策検討委員編著『介護事故リスクマネジメント』(日総研出版)2002年
※尚、一部、田形が加筆・訂正を行っている。
いかがですか? 何か違和感はありませんか?
もし、違和感を持たれたのであれば、それは「情報提供義務」に対するリスクが潜んでいる可能性があるということです。
なんとなく意味は想像できても、詳しくは知らないという方もいらっしゃるでしょう。次の「記録」に目を通してみてください。
夜勤の巡回中に、利用者の下半身がベッドから落ちていることを発見した。利用者に聞いてみると、「トイレに行こうとした」と言っていた。
対応として、利用者の身体状況からはトイレでの排泄は無理なことを説明し、また、身体の位置をベッド左側(麻痺側)に寄せておいた。
≪引用文献≫
神奈川県老人ホーム施設協会事故防止対策検討委員編著『介護事故リスクマネジメント』(日総研出版)2002年
※尚、一部、田形が加筆・訂正を行っている。
いかがですか? 何か違和感はありませんか?
もし、違和感を持たれたのであれば、それは「情報提供義務」に対するリスクが潜んでいる可能性があるということです。
情報提供義務とは…
では、そもそも「情報提供義務」とは何でしょうか?
この言葉は、平成19年11月7日、大阪地裁で出された「損害賠償等請求事件」の判決において取り沙汰されたものです。この訴訟は、グループホーム(認知症対応型共同生活介護事業)で、夜間にベッドから転落して左大腿骨転子部骨折をしたことに対する損害賠償請求なのですが、その判決において、初めて司法が事業所に求めた「責任」が、「情報提供義務」です。
骨折をした利用者には、この骨折事故が発生するまでに、二度に渡ってベッドから転落し、さらに二度転落しそうになったという事実が存在します。
裁判では、その際に、事業所側が家族に対し、十分な連絡を取る努力を怠り、協議する機会を持たず、リスク(骨折事故等)に対する十分な対応をしなかったことが「情報提供義務」違反に繋がったとされました。
事業所側はそれに対し、「対応は適切に行った。その一環として、朝夕2回カンファレンスを実施している」と主張しましたが、裁判所側は「カンファレンスを何度開催しても、(リスクに対する)有効且つ抜本的な対策が施されてなければ、義務を果たしたとは言えない」と、事業所側の主張を却下しました。
この言葉は、平成19年11月7日、大阪地裁で出された「損害賠償等請求事件」の判決において取り沙汰されたものです。この訴訟は、グループホーム(認知症対応型共同生活介護事業)で、夜間にベッドから転落して左大腿骨転子部骨折をしたことに対する損害賠償請求なのですが、その判決において、初めて司法が事業所に求めた「責任」が、「情報提供義務」です。
骨折をした利用者には、この骨折事故が発生するまでに、二度に渡ってベッドから転落し、さらに二度転落しそうになったという事実が存在します。
裁判では、その際に、事業所側が家族に対し、十分な連絡を取る努力を怠り、協議する機会を持たず、リスク(骨折事故等)に対する十分な対応をしなかったことが「情報提供義務」違反に繋がったとされました。
事業所側はそれに対し、「対応は適切に行った。その一環として、朝夕2回カンファレンスを実施している」と主張しましたが、裁判所側は「カンファレンスを何度開催しても、(リスクに対する)有効且つ抜本的な対策が施されてなければ、義務を果たしたとは言えない」と、事業所側の主張を却下しました。
記録は開示されることを前提に!
ここで、先ほどの「記録」をもう一度確認してみましょう。
利用者は「トイレに行こうとした(行きたい)」と明確に意志を示していますが、それに対して介護者(記載者)は、無理な事を説明し、身体の位置を移動させるという対応でケアを終了させてしまっています。本人に対し「何がどう無理なのか」を説明した経緯がないし、利用者本人の「トイレに行きたい」という“思い”を汲み取った形跡もまったくありません。
これでは利用者に対する「情報提供義務」を果たしてないばかりか、場合によっては「ネグレクト(介護放棄)」と受け取られかねません。実際、身体状況から「一人での排泄」が無理であっても、その可能性に対する検討もされていません。
さらに、もし制止したのが、利用者本人に認知症があり、説明(情報提供)しても転倒骨折に繋がる恐れがあるからなのであれば、それこそ判例のように家族に対する「情報提供」及び「協議」が必要です。
おそらく、このような場合、そのような動き(対応)もなされているのでしょうが、この「記録」だけが開示され。“一人歩き”をすると、判断材料が限られるために様々な誤解が生まれる可能性があります。
この点は第11回で取り上げた「主観的表現」のケースにも該当します。また、第17回で取り上げた「提供サービス記録の形式」でも同じことが言えます。
判例が示されたことによって、今後、ますます「情報提供義務」「説明責任義務」が事業者側に求められるでしょう。リスクマネジメントの観点からも、「介護記録」は用意周到な体制を整備する必要にせまられています。
利用者は「トイレに行こうとした(行きたい)」と明確に意志を示していますが、それに対して介護者(記載者)は、無理な事を説明し、身体の位置を移動させるという対応でケアを終了させてしまっています。本人に対し「何がどう無理なのか」を説明した経緯がないし、利用者本人の「トイレに行きたい」という“思い”を汲み取った形跡もまったくありません。
これでは利用者に対する「情報提供義務」を果たしてないばかりか、場合によっては「ネグレクト(介護放棄)」と受け取られかねません。実際、身体状況から「一人での排泄」が無理であっても、その可能性に対する検討もされていません。
さらに、もし制止したのが、利用者本人に認知症があり、説明(情報提供)しても転倒骨折に繋がる恐れがあるからなのであれば、それこそ判例のように家族に対する「情報提供」及び「協議」が必要です。
おそらく、このような場合、そのような動き(対応)もなされているのでしょうが、この「記録」だけが開示され。“一人歩き”をすると、判断材料が限られるために様々な誤解が生まれる可能性があります。
この点は第11回で取り上げた「主観的表現」のケースにも該当します。また、第17回で取り上げた「提供サービス記録の形式」でも同じことが言えます。
判例が示されたことによって、今後、ますます「情報提供義務」「説明責任義務」が事業者側に求められるでしょう。リスクマネジメントの観点からも、「介護記録」は用意周到な体制を整備する必要にせまられています。
参考文献
『賃金と社会保障』No.1468(2008年6月下旬号 (有)賃社編集室