ケアサービスを提供するうえで、鍵となる“記録”。その役割を再確認し、実践に活かすにはどうしたらよいか、考えてみましょう。本連載では、施設における“記録”を取り上げていきます。
第6回 訴訟で重要視される記録 その2
前回に引き続き、今回も訴訟で「記録」がポイントとなった事案を見てみましょう!
【事案2】施設入所していた女性(95歳、要介護2)が、自室のポータブルトイレの排泄物を捨てるために汚物処理室に赴いた際に、仕切りに足を引っかけて転倒し、大腿骨頚部骨折損害を負い、歩行困難になったのは、施設が定期のサービスを行わなかったことによるもの等として、利用者が施設に賠償を求めた事案
このケースは、介護老人保健施設に入所していた当時95歳で要介護2の利用者が、契約上定められていたポータブルトイレの清掃がなされなかったため、自ら汚物処理場に行って清掃しようとし、仕切りに足を引っかけて転倒し、損害(大腿骨頸部骨折)を被った事故について、施設側の清掃義務違反との相当因果関係等について争われたものです。
この点について裁判所は、介護マニュアルにポータブルトイレの清掃を定時に1日2回行うことや、その内容についても具体的に定めてある事実、ケアプラン(施設介護計画)に「総合的援助方針」として「定期的に健康チェックを行い、転倒など事故に注意しながら在宅復帰へ向けてADLの維持、向上を図る」とされ、さらに「骨粗鬆症」によるリスクも謳ってあった事実、さらにケアチェック表には利用者について「日中はトイレ使用しているが、夜間ポータブルトイレ使用」と記載されている事実などから、ポータブルトイレの清掃を定時に行う義務を導き出し、義務を怠ったことに対する債務不履行責任を認めました。
また、施設側は「歩行不安定な利用者に対する日常的なポータブルトイレに関する排泄ケアの説明及び指導から、自らで排泄物容器を処理しようとする必要がなく、職員に連絡し、処理を依頼することができた」と、仮に義務違反があったとしても事故との因果関係はないとする主張をしました。
しかし、「記録」等の確認から、定時のポータブルトイレの清掃が必ずしも適切にされていたとは言えず(一定期間の確認において、約7割の実施事実しか確認できなかった)、こういった状況では利用者は心理的にも処理を頼みにくく、清掃されないままであれば利用者自ら処理をしたいと考えるのは自然であり、この点からも「(略)清掃を定時に行うべき義務に違反したことと本件事故との相当因果関係を否定することはできない」(判旨引用)とし、施設に対して「(略)契約上の債務不履行を負う」(判旨引用)とされました。
その結果、施設に対し、約540万円の支払い命令が下され、施設における要介護高齢者の骨折事故に関する初の判例となりました。また、介護保険制度も「契約」を前提とするサービスであるということに判断の根拠を求めた初めてのケースともなりました。
(参照:『賃金と社会保障』No.1351、2003年8月合併号 及び No.1353、2003年9月上旬号)
【事案2】施設入所していた女性(95歳、要介護2)が、自室のポータブルトイレの排泄物を捨てるために汚物処理室に赴いた際に、仕切りに足を引っかけて転倒し、大腿骨頚部骨折損害を負い、歩行困難になったのは、施設が定期のサービスを行わなかったことによるもの等として、利用者が施設に賠償を求めた事案
[平成15年6月3日 福島地裁白河支部判決]
このケースは、介護老人保健施設に入所していた当時95歳で要介護2の利用者が、契約上定められていたポータブルトイレの清掃がなされなかったため、自ら汚物処理場に行って清掃しようとし、仕切りに足を引っかけて転倒し、損害(大腿骨頸部骨折)を被った事故について、施設側の清掃義務違反との相当因果関係等について争われたものです。
この点について裁判所は、介護マニュアルにポータブルトイレの清掃を定時に1日2回行うことや、その内容についても具体的に定めてある事実、ケアプラン(施設介護計画)に「総合的援助方針」として「定期的に健康チェックを行い、転倒など事故に注意しながら在宅復帰へ向けてADLの維持、向上を図る」とされ、さらに「骨粗鬆症」によるリスクも謳ってあった事実、さらにケアチェック表には利用者について「日中はトイレ使用しているが、夜間ポータブルトイレ使用」と記載されている事実などから、ポータブルトイレの清掃を定時に行う義務を導き出し、義務を怠ったことに対する債務不履行責任を認めました。
また、施設側は「歩行不安定な利用者に対する日常的なポータブルトイレに関する排泄ケアの説明及び指導から、自らで排泄物容器を処理しようとする必要がなく、職員に連絡し、処理を依頼することができた」と、仮に義務違反があったとしても事故との因果関係はないとする主張をしました。
しかし、「記録」等の確認から、定時のポータブルトイレの清掃が必ずしも適切にされていたとは言えず(一定期間の確認において、約7割の実施事実しか確認できなかった)、こういった状況では利用者は心理的にも処理を頼みにくく、清掃されないままであれば利用者自ら処理をしたいと考えるのは自然であり、この点からも「(略)清掃を定時に行うべき義務に違反したことと本件事故との相当因果関係を否定することはできない」(判旨引用)とし、施設に対して「(略)契約上の債務不履行を負う」(判旨引用)とされました。
その結果、施設に対し、約540万円の支払い命令が下され、施設における要介護高齢者の骨折事故に関する初の判例となりました。また、介護保険制度も「契約」を前提とするサービスであるということに判断の根拠を求めた初めてのケースともなりました。
(参照:『賃金と社会保障』No.1351、2003年8月合併号 及び No.1353、2003年9月上旬号)