ケアサービスを提供するうえで、鍵となる“記録”。その役割を再確認し、実践に活かすにはどうしたらよいか、考えてみましょう。本連載では、施設における“記録”を取り上げていきます。
第4回 最大の誤解
前回から「記録の誤解」ということをテーマに話を進めてきました。専門用語の使用制限や敬体の使用などは、誤解だということをご説明したのですが、もう一つ、「最大の誤解」が存在しています。それが「マスキング(伏字)」の問題です。
例えば、あなたの勤める施設に、認知症をもつ二人の利用者がいると仮定します。仮に「山田さん」と「田中さん」としておきましょう。この二人は、いつもはそれほど特別な関わりのない利用者同士です。ある日の午前中、お昼にはまだ少し時間があり、二人はホールで何気なく談笑されていました。始めは何事もなく、天気のこと等を話されていたのですが、何か言葉の行き違いがあったのか、二人が言い争いになってしまいました。最初は「小競り合い」という感じでしたが、元来の気質の違いもあり、元々気性が激しい山田さんが、大人しい田中さんを一方的になじるという形になり、ついには山田さんが「差別用語」を用いて、田中さんを罵倒し、双方顔面蒼白という状態にエスカレートしてしまいました。この場に居合わせたあなたは「まずい!」と判断し、二人の仲に入り、二人を引き離し、事態の収拾を図りました。
例えば、あなたの勤める施設に、認知症をもつ二人の利用者がいると仮定します。仮に「山田さん」と「田中さん」としておきましょう。この二人は、いつもはそれほど特別な関わりのない利用者同士です。ある日の午前中、お昼にはまだ少し時間があり、二人はホールで何気なく談笑されていました。始めは何事もなく、天気のこと等を話されていたのですが、何か言葉の行き違いがあったのか、二人が言い争いになってしまいました。最初は「小競り合い」という感じでしたが、元来の気質の違いもあり、元々気性が激しい山田さんが、大人しい田中さんを一方的になじるという形になり、ついには山田さんが「差別用語」を用いて、田中さんを罵倒し、双方顔面蒼白という状態にエスカレートしてしまいました。この場に居合わせたあなたは「まずい!」と判断し、二人の仲に入り、二人を引き離し、事態の収拾を図りました。
いつ、誰が見てもわかる「記録」になっていますか?
さて、この場に遭遇した「介護者」のあなたとしては、この状況を「記録」に残す必要がありますが、何と残しますか? もし、あなたの頭の中に「YさんがTさんを聞くに堪えない言葉で罵倒してトラブルになった…」等という文言が浮かんでいたら、記録者としては失格です。
なぜかというと、この表現では記録の機能が全く果たせていないからです。記録は、「いつ」「誰が」みてもわかるものでなければ、その存在の意味がありません。「Yさん」とか「Tさん」等の表現では、誰のことなのか定かではありません。また、自分が書いたものでありながら、時間を経て再度自分で読み返した場合にも、これが「山田さん」と「田中さん」を指すとは簡単に思い出せないのではないでしょうか。それでは、「支援の証」としての「記録」は機能していないことになってしまいます。
なぜこんな「誤解」が生じたのでしょうか? これは「個人情報保護法」の誤解によるものだと考えられます。「個人情報保護法」が成立して、「個人情報」が守られている現状は大いに結構なのですが、一部“過剰反応”があり、様々な場面で支障を来たしているようです。介護記録の世界では“過剰反応”によって、今回の例のように機能が果たせなくなる場合があるのです。
なぜかというと、この表現では記録の機能が全く果たせていないからです。記録は、「いつ」「誰が」みてもわかるものでなければ、その存在の意味がありません。「Yさん」とか「Tさん」等の表現では、誰のことなのか定かではありません。また、自分が書いたものでありながら、時間を経て再度自分で読み返した場合にも、これが「山田さん」と「田中さん」を指すとは簡単に思い出せないのではないでしょうか。それでは、「支援の証」としての「記録」は機能していないことになってしまいます。
なぜこんな「誤解」が生じたのでしょうか? これは「個人情報保護法」の誤解によるものだと考えられます。「個人情報保護法」が成立して、「個人情報」が守られている現状は大いに結構なのですが、一部“過剰反応”があり、様々な場面で支障を来たしているようです。介護記録の世界では“過剰反応”によって、今回の例のように機能が果たせなくなる場合があるのです。
どうすればいいの?
確かに「介護記録」は利用者やその家族の大切な「情報」ですが、これは一般的な情報と異なり、専門職の高度な判断や知識が介入しています。このような情報に関しては、開示請求がなされても、開示が様々な権利侵害を引き起こす恐れがある場合には、専門職の職業的判断として、一部開示請求を拒むことができるとされています。ですから、最初から記録にマスキング(伏字)処理をしなくても、そのような場合に初めてマスキングをして開示すれば事足りるのです。詳しくは「個人情報保護法」の該当条文を参考に示しておきますので、御覧下さい。
さらに先程の記録の「聞くに堪えない言葉」という表現も、ある意味でマスキングに当たります。差別用語を山田さんが使ったということで、わざとこのような抽象的な表現にしたと思われますが、この言葉はトラブルを象徴する言葉だと思われますので、そのような大事なキーワードを「曖昧」にする必要はありません。差別用語であろうが、方言であろうが、発せられた「言葉」そのものを記録しておかないと、その場にいなかった者に「臨場感」が伝わりませんし、今後のケアに記録を活かせないことになってしまう恐れがあります。ご注意いただければと思います。
さらに先程の記録の「聞くに堪えない言葉」という表現も、ある意味でマスキングに当たります。差別用語を山田さんが使ったということで、わざとこのような抽象的な表現にしたと思われますが、この言葉はトラブルを象徴する言葉だと思われますので、そのような大事なキーワードを「曖昧」にする必要はありません。差別用語であろうが、方言であろうが、発せられた「言葉」そのものを記録しておかないと、その場にいなかった者に「臨場感」が伝わりませんし、今後のケアに記録を活かせないことになってしまう恐れがあります。ご注意いただければと思います。
個人情報の保護に関する法律(平成15年5月30日法律第57号)
第25条 個人情報取扱事業者は、本人から、当該本人が識別される保有個人データの開示(当該本人が識別される保有個人データが存在しないときにその旨を知らせることを含む。以下同じ。)を求められたときは、本人に対し、政令で定める方法により、遅滞なく、当該保有個人データを開示しなければならない。ただし、開示することにより次の各号のいずれかに該当する場合は、その全部又は一部を開示しないことができる。
一 本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
二 当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
三 他の法令に違反することとなる場合
2 個人情報取扱事業者は、前項の規定に基づき求められた保有個人データの全部又は一部について開示しない旨の決定をしたときは、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。
第2条第5項 この法律において「保有個人データ」とは、個人情報取扱事業者が、開示、内容の訂正、追加又は削除、利用の停止、消去及び第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有する個人データであって、 その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものとして政令で定めるもの又は一年以内の政令で定める期間以内に消去することとなるもの以外のものをいう。
※下線部、筆者強調
一 本人又は第三者の生命、身体、財産その他の権利利益を害するおそれがある場合
二 当該個人情報取扱事業者の業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合
三 他の法令に違反することとなる場合
2 個人情報取扱事業者は、前項の規定に基づき求められた保有個人データの全部又は一部について開示しない旨の決定をしたときは、本人に対し、遅滞なく、その旨を通知しなければならない。
第2条第5項 この法律において「保有個人データ」とは、個人情報取扱事業者が、開示、内容の訂正、追加又は削除、利用の停止、消去及び第三者への提供の停止を行うことのできる権限を有する個人データであって、 その存否が明らかになることにより公益その他の利益が害されるものとして政令で定めるもの又は一年以内の政令で定める期間以内に消去することとなるもの以外のものをいう。
※下線部、筆者強調