ケアサービスを提供するうえで、鍵となる“記録”。その役割を再確認し、実践に活かすにはどうしたらよいか、考えてみましょう。本連載では、施設における“記録”を取り上げていきます。
第10回 他者に伝える(3)
情報共有の“Key Word”『プロの“推測”』
「○○のようだ」はダメ…でも“推測”できることも…
前回、根拠が明白でない記録の一例として、「伝聞推量」を取り上げました。
根拠が明白ではない記録というのは、言い換えれば、読み手(情報受信者)にとって「事実」か否か分からない記録であると言えます。つまり、記録を残す際に最も重要なことは、「根拠が明白な『事実』を残していくこと」なのです。
しかし、ケアサービスにおける記録(介護記録)を書くのは、その道のプロである皆さんです。そうなると、書き手(情報発信者)が「事実」を自分の“目”で見ていなくとも、後の発生現場の状況等から、専門職としての“知識”や“経験則”、また、時には“直感”を用いて「事実」を探ることは可能です。これはプロの技能があって初めてなせる手法です。それを無駄にはできません。
根拠が明白ではない記録というのは、言い換えれば、読み手(情報受信者)にとって「事実」か否か分からない記録であると言えます。つまり、記録を残す際に最も重要なことは、「根拠が明白な『事実』を残していくこと」なのです。
しかし、ケアサービスにおける記録(介護記録)を書くのは、その道のプロである皆さんです。そうなると、書き手(情報発信者)が「事実」を自分の“目”で見ていなくとも、後の発生現場の状況等から、専門職としての“知識”や“経験則”、また、時には“直感”を用いて「事実」を探ることは可能です。これはプロの技能があって初めてなせる手法です。それを無駄にはできません。
“推測”、気づきは決して無駄にしない
第2回「記録を残す」の講で、記録がプロとしての仕事(支援)の証であることをご説明しました。正にこの手法が、残すべきプロとしての仕事だと言えます。これをこの講では「プロの“推測”」と呼ぶことにしたいと思います。
この手法は、介護記録を残す上で欠かせない手法の一つなのですが、実際には、上手く使いこなせていないのが現状のようです。
典型的な例が「転倒」という表現です。皆さんの現場(施設)の記録を確認してみてください。意外と頻繁に登場しませんか、この「転倒」という二文字が…。
例えば、夜勤をしていて、巡回を行った際に、利用者がベッドの上ではなく、居室の床の上にうつ伏せ(腹臥位)になっているところを発見したとします。さて、あなたは記録に何と書きますか?
恐らく「夜間巡回中、利用者が転倒しているのを発見した」と記録するのではないでしょうか。しかしながら、これは記録の鉄則に明らかに違反しています。先にご説明したように、記録は「根拠が明白な『事実』を残す」のが大前提です。そう考えると、この記録は根拠が明白な「事実」と言えるでしょうか?
書き手でさえも、「転倒」の瞬間をその目で確認した訳ではないのです。ただ、定時の巡回の際に利用者の居室を確認したら、利用者がベッドではなく、床の上に存在していたという事実を確認したにすぎません。この状況で、即「転倒」と記録するのは少し無理があります。また、不確かな記録を残し続けることによって、信頼を失い、「事実」さえも、ありもしない「事故」と取り扱われる可能性が無いとも限りません。
この手法は、介護記録を残す上で欠かせない手法の一つなのですが、実際には、上手く使いこなせていないのが現状のようです。
典型的な例が「転倒」という表現です。皆さんの現場(施設)の記録を確認してみてください。意外と頻繁に登場しませんか、この「転倒」という二文字が…。
例えば、夜勤をしていて、巡回を行った際に、利用者がベッドの上ではなく、居室の床の上にうつ伏せ(腹臥位)になっているところを発見したとします。さて、あなたは記録に何と書きますか?
恐らく「夜間巡回中、利用者が転倒しているのを発見した」と記録するのではないでしょうか。しかしながら、これは記録の鉄則に明らかに違反しています。先にご説明したように、記録は「根拠が明白な『事実』を残す」のが大前提です。そう考えると、この記録は根拠が明白な「事実」と言えるでしょうか?
書き手でさえも、「転倒」の瞬間をその目で確認した訳ではないのです。ただ、定時の巡回の際に利用者の居室を確認したら、利用者がベッドではなく、床の上に存在していたという事実を確認したにすぎません。この状況で、即「転倒」と記録するのは少し無理があります。また、不確かな記録を残し続けることによって、信頼を失い、「事実」さえも、ありもしない「事故」と取り扱われる可能性が無いとも限りません。
“推測”できることをどう残す?
根拠がないことは記録として残せないのです。しかし、記録を書いているあなたはケアサービスのプロです。プロであれば、その瞬間は目撃していなくても、現場に残された様々な証拠を根拠として“推測”することはできます。それを、どう残すかが重要なのです。
例えば、「ベッドサイドレールが外れていた」とか「隣室の利用者が微かな悲鳴と物音を聞いていた」等という状況証拠から、自力でベッドから移乗しようとして失敗したのではないだろうかということを思い描くことができます。そういった、“推測”の根拠となる状況証拠を含めて記録するということが必要になります。
根拠があいまいな記録は危険ですが、プロの残す記録には、この“推測”が必要であり、求められていることも認識してください。
参考に、プロの“推測”の例を下記に示します。確認してみてください。
介護職員が夜間に居室を巡回中、利用者がベッドの横の床に横たわっているところを発見した。特に外傷はなく意識もあるので、ベッドへ移し、安静にして様子を見ることにし、バイタルサイン等その後の状態確認を行った。就寝時、通常、ベッドサイドに設置してある車椅子が、壁際に放置されていたことから考察すると、自力でベッドから車いすに移乗しようとして失敗し、転倒したと推測される。
例えば、「ベッドサイドレールが外れていた」とか「隣室の利用者が微かな悲鳴と物音を聞いていた」等という状況証拠から、自力でベッドから移乗しようとして失敗したのではないだろうかということを思い描くことができます。そういった、“推測”の根拠となる状況証拠を含めて記録するということが必要になります。
根拠があいまいな記録は危険ですが、プロの残す記録には、この“推測”が必要であり、求められていることも認識してください。
参考に、プロの“推測”の例を下記に示します。確認してみてください。
介護職員が夜間に居室を巡回中、利用者がベッドの横の床に横たわっているところを発見した。特に外傷はなく意識もあるので、ベッドへ移し、安静にして様子を見ることにし、バイタルサイン等その後の状態確認を行った。就寝時、通常、ベッドサイドに設置してある車椅子が、壁際に放置されていたことから考察すると、自力でベッドから車いすに移乗しようとして失敗し、転倒したと推測される。
引用文献
神奈川県老人ホーム施設協会事故防止対策検討委員編著「介護事故リスクマネジメント」(日総研出版)2002年
※なお、一部、田形が加筆・訂正を行っている。
※なお、一部、田形が加筆・訂正を行っている。