ケアサービスを提供するうえで、鍵となる“記録”。その役割を再確認し、実践に活かすにはどうしたらよいか、考えてみましょう。本連載では、施設における“記録”を取り上げていきます。
第5回 訴訟で重要視される記録 その1
今回から「記録」が訴訟において、どのように扱われているかを確認し、「記録の重要性」を再確認してみましょう!
さっそく、事案を取り上げます。
【事案1】施設入所していた女性(70歳・全盲・認知症あり)が3階居室から落下して死亡したのは、施設職員が適切な介護・看護の処置を怠ったことによるとして、内縁の夫が施設に慰謝料の賠償を求めた事案
さっそく、事案を取り上げます。
【事案1】施設入所していた女性(70歳・全盲・認知症あり)が3階居室から落下して死亡したのは、施設職員が適切な介護・看護の処置を怠ったことによるとして、内縁の夫が施設に慰謝料の賠償を求めた事案
[平成12年6月7日 東京地裁判決]
このケースは、入所後1か月余り、不穏行動があり、夜間に帰宅願望を訴え、他の利用者とトラブルを引き起こした利用者を、使用していない他の居室に誘導し、「巡視」という遠看視のみで対応した事と、利用者の「死」の因果関係等について争われたものです。
結果的に、この利用者は、誘導後5時間余り経過した後に、自ら窓の施錠を外し、備品家具を足掛りにして、出窓のフェンスを乗り越えて転落死したのですが、これが予測の「範疇」であったか否かが争点となりました。
この点について裁判所は、この利用者が入所後、常時「帰宅願望」が「強い」こと等を、当日担当の職員が「引継報告を受けてこれを承知していたもの」(判旨引用)とし、さらに、頻繁に「精神的不安に陥り、妄想を抱き、精神安定剤服用を受ける」ことがあった事実が「介護・看護記録」に見受けられることも指摘しています。
それにもかかわらず、当日担当の職員は、事故発生約2週間前の記録に「つきっきりでなくても大丈夫ではないかと思われる」という、専門職にあるまじき記録、判断根拠が不明確な記録を残しており、裁判所はその記録を「(略)介護福祉士等その資格に相当した専門的見地からその裁量的判断を適切に行い、選択した方途を実行」(判旨引用)していなかったと判断する一因としています。
また、この事案において、搬送先病院の事故発生時刻と施設側記録に記載のある時刻に1時間の誤差があり、さらに時刻等が数箇所訂正されている事実があることから、「極めてあわただしく混乱した状態を経ての記載」(判旨引用)であり、記載した当日担当の職員が「(事故発生の)正確な時刻を把握していたかどうか疑問を差し挟む余地を否定することができない」(判旨引用)としています。
これは、リスクマネジメントの不徹底、インシデント及びアクシデント記録(IR及びAR)の不備以外のなにものでもなく、この裁判では問題視されています。結果、この裁判では担当職員が適切な介護を怠ったことについて、不法行為と利用者の「死」との相当因果関係が認められ、施設に対し、使用者責任に基づく賠償責任として、1000万円の支払いが命じられました。
(参照:『賃金と社会保障』No.1280、旬報社、2000年8月下旬号)
結果的に、この利用者は、誘導後5時間余り経過した後に、自ら窓の施錠を外し、備品家具を足掛りにして、出窓のフェンスを乗り越えて転落死したのですが、これが予測の「範疇」であったか否かが争点となりました。
この点について裁判所は、この利用者が入所後、常時「帰宅願望」が「強い」こと等を、当日担当の職員が「引継報告を受けてこれを承知していたもの」(判旨引用)とし、さらに、頻繁に「精神的不安に陥り、妄想を抱き、精神安定剤服用を受ける」ことがあった事実が「介護・看護記録」に見受けられることも指摘しています。
それにもかかわらず、当日担当の職員は、事故発生約2週間前の記録に「つきっきりでなくても大丈夫ではないかと思われる」という、専門職にあるまじき記録、判断根拠が不明確な記録を残しており、裁判所はその記録を「(略)介護福祉士等その資格に相当した専門的見地からその裁量的判断を適切に行い、選択した方途を実行」(判旨引用)していなかったと判断する一因としています。
また、この事案において、搬送先病院の事故発生時刻と施設側記録に記載のある時刻に1時間の誤差があり、さらに時刻等が数箇所訂正されている事実があることから、「極めてあわただしく混乱した状態を経ての記載」(判旨引用)であり、記載した当日担当の職員が「(事故発生の)正確な時刻を把握していたかどうか疑問を差し挟む余地を否定することができない」(判旨引用)としています。
これは、リスクマネジメントの不徹底、インシデント及びアクシデント記録(IR及びAR)の不備以外のなにものでもなく、この裁判では問題視されています。結果、この裁判では担当職員が適切な介護を怠ったことについて、不法行為と利用者の「死」との相当因果関係が認められ、施設に対し、使用者責任に基づく賠償責任として、1000万円の支払いが命じられました。
(参照:『賃金と社会保障』No.1280、旬報社、2000年8月下旬号)