Vol.73 年金の損得はここがポイント(4)〜繰上げ・繰下げ受給の実際〜
川村匡由(社会福祉学者)
A子さんの場合はこうだ
A子さんは高校を卒業後、いったん民間会社に就職しましたが、やはり小学校の教師になろうと、わずか2か月で退職して受験勉強をし始め、結果的に一浪したような形でありながら、見事、国立大学の教育学部に合格しました。そして、卒業後、首都圏の小学校の教師をしましたが、3年後、サラリーマンの現在の夫と結婚したのを機に専業主婦となり、このほど、60歳の誕生日を迎えました。
この間、公的年金には厚生年金に2か月、国民年金に391か月(保険料免除期間および学生納付特例月数は、ともになし。付加保険料120か月納入。共済年金の加入は36か月だが、脱退一時金を受給)でした。
そこで、60歳になったとき、社会保険庁から「60歳からの『繰上げ受給』、それとも65歳からの本来受給のいずれを選ぶか」という通知を受け取りました。このため、60歳からの『繰上げ受給』の場合と65歳からの本来受給の場合で年金額がどれくらい違うのか、社会保険庁に照会しました。その結果、前者の場合、60歳時の受給額が年額47万8500円、65歳時の受給額が年額48万3700円になるのに対し、後者の場合、65歳時の受給額が年額67万4400円になることがわかりました。
これを受け、A子さんは「60歳から『繰上げ受給』した場合の60〜65歳の年金総額が、65歳から本来受給したとき、60〜65歳の年金総額に追いつかれ、追い越されるのは何歳か」を社会保険事務所に出かけて試算してもらったところ、72〜73歳になるといわれました。
さっそく、夫や知り合いの社会保険労務士に相談した結果、「72〜73歳まで健康かどうかわからないし、『100年に1度の金融危機』ともいわれているご時勢、年金もいつ、どうなるのかもわからないので、とりあえず権利だけでも取得しておけば、今後、どのようなことがあっても、年金を受給できないということだけは避けられる」と考え、生涯、減額を承知で60歳からの「繰り上げ受給」を決断しました。そのA子さん、年金生活に入ってからというもの、この3月にハワイ、9月にはイタリアとスイスに出かける予定とかで、悠々自適のシニアライフをエンジョイしています。
「繰下げ受給」を楽しみにしていたB氏の悲劇
一方、B男さんは自営業で定年がないうえ、健康には学生時代から自信があったため、老齢基礎年金は66〜70歳に「繰下げ受給」を考えていました。ところが先日、交通事故で急逝し、結局、一銭の年金も受給できずに生涯を終えました。しかもまだ63歳という年齢で、一人息子夫婦の初孫の誕生を楽しみにしていた矢先でした。
いずれにしても、「人生、一寸先は闇」とはよくいったもので、いつ、何が起こるかわからないというご時勢のなか、早めに年金の受給権を取得して万一に備える、ということも選択肢の一つとして考えられるかも知れません。
次回も、引き続き「年金の損得はここがポイント」についてお話ししましょう。
いずれにしても、「人生、一寸先は闇」とはよくいったもので、いつ、何が起こるかわからないというご時勢のなか、早めに年金の受給権を取得して万一に備える、ということも選択肢の一つとして考えられるかも知れません。
次回も、引き続き「年金の損得はここがポイント」についてお話ししましょう。
(2009年5月8日)