Vol.58 沖縄移住(上)
川村匡由(社会福祉学者)
沖縄ブームの背景
そんな気候風土にあこがれてか、最近、本土から沖縄に移住する人たちが増えています。総務省の最近の調査によると、その数は年間約2万7000人というから、確かにブームといえるでしょう。
その原因の一つに、冬でもシャツ一枚で過ごせ、土地や建築費、物価が本土に比べて格段に安く、農業や漁業などに従事すれば自給自足も可能なことがあります。また、「ゆいまーる」といわれるように、住民同士が互いに助け合っているので、いざというときでも声をかけられるため、よほどのことでもない限り、地域で孤立するようなこともありません。
このほか、スキューバダイビングやトローリング、ホエールウォッチング、あるいは本島周辺の離島めぐりも楽しめます。琉球文化を今に伝える首里城などの「世界遺産」もあるため、いやがうえでもイメージはグーンとアップし、セミリタイアや定年退職後、田舎暮らし、リゾートライフに関心を持つ50代の中高年や団塊世代などに注目されるようになりました。
そこへ、数年前、NHKテレビの番組「ちゅらさん」が大ヒットし、番組で紹介された人情味あふれる一家や関係者のふれあい、絆(きずな)が人々を魅了してブームに火をつけ、沖縄は、単なる観光地から一大リゾート地、さらには田舎暮らし、定年退職後の癒(いや)しの場としてクローズアップされてきているわけです。
もう一つの沖縄
しかし、その沖縄に縁があって毎年のように出かけ、短期滞在している筆者にいわせれば、沖縄は太平洋戦争末期、米軍や日本軍によって20数万人もの犠牲者を出した“悲劇の島”でもあります。
しかも、犠牲者は糸満市郊外の「ひめゆりの塔」や「平和祈念公園」に祭られた女学生や住民、軍人だけでなく、だれにも看取られず、屍(しかばね)となったまま放置されている人たちも少なくありません。島民の半数が集団自決を図ったといわれている離島もあります。
また、戦後60年経った今なお、米軍基地が本島を占拠しており、米兵による少女への暴行や傷害、強盗、交通事故なども一向に減っていません。「沖縄に基地がある」のではなく、「基地の中に沖縄がある」とは、まさにこのような事情を指しているのです。
一方、肝心の地場産業は観光以外、サトウキビや花卉(かき)栽培を中心とした農業や漁業など、わずかなものしかありません。このため、好むと好まざるとにかかわらず、基地に依存した経済や雇用で、基地に不安を抱く住民と、基地で働いたり、米兵を相手にした店の関係者との間で利害が対立し、県民感情が二分されているのが実態です。
また、都市化が進んでいる県庁所在地の那覇市やそのベッドタウンの浦添市、豊見城(とみぐすく)市などは基地もなく、東京など本土の都会と同じような生活を楽しめますが、他の市町村では基地に依存した仕事のほか、観光やわずかの農・漁業以外、これといった仕事がありません。そこで、若者は中学や高校を卒業すると本土の企業に就職したり、大学に進学したりするため、過疎化が進んでいます。
気候も1年のうち、半分は夏で、日中は暑すぎて能率が上がらないうえ、塩害も激しいため、本土から進出する企業はほとんどなく、これが完全失業率8%という本土では考えられない結果を生んでいます。そのような背景もあってか、沖縄で移住し始めたものの、3年ほどして本土に帰る人たちも少なくない、との報告もあります。
しかも、犠牲者は糸満市郊外の「ひめゆりの塔」や「平和祈念公園」に祭られた女学生や住民、軍人だけでなく、だれにも看取られず、屍(しかばね)となったまま放置されている人たちも少なくありません。島民の半数が集団自決を図ったといわれている離島もあります。
また、戦後60年経った今なお、米軍基地が本島を占拠しており、米兵による少女への暴行や傷害、強盗、交通事故なども一向に減っていません。「沖縄に基地がある」のではなく、「基地の中に沖縄がある」とは、まさにこのような事情を指しているのです。
一方、肝心の地場産業は観光以外、サトウキビや花卉(かき)栽培を中心とした農業や漁業など、わずかなものしかありません。このため、好むと好まざるとにかかわらず、基地に依存した経済や雇用で、基地に不安を抱く住民と、基地で働いたり、米兵を相手にした店の関係者との間で利害が対立し、県民感情が二分されているのが実態です。
また、都市化が進んでいる県庁所在地の那覇市やそのベッドタウンの浦添市、豊見城(とみぐすく)市などは基地もなく、東京など本土の都会と同じような生活を楽しめますが、他の市町村では基地に依存した仕事のほか、観光やわずかの農・漁業以外、これといった仕事がありません。そこで、若者は中学や高校を卒業すると本土の企業に就職したり、大学に進学したりするため、過疎化が進んでいます。
気候も1年のうち、半分は夏で、日中は暑すぎて能率が上がらないうえ、塩害も激しいため、本土から進出する企業はほとんどなく、これが完全失業率8%という本土では考えられない結果を生んでいます。そのような背景もあってか、沖縄で移住し始めたものの、3年ほどして本土に帰る人たちも少なくない、との報告もあります。
(2009年1月23日)