Vol.43 老親の介護(上)
川村匡由(社会福祉学者)
戦後60年と親の介護
しかし、その一方で、国民のライフスタイルは欧米化するとともに、産業・就業構造も第一次産業から第二次産業、さらには第三次産業へと移行することに伴い、人口が大都市へ集中し、専業農家の兼業化や女性の社会進出が進み、地方は離村や過疎化、都市部は団地やマンションが林立して過密化し、昔ながらの家族や地域の住民による助け合いが薄れがちになってしまいました。
ちなみに、国土の8割は山で、残りのわずか2割の海岸線や平野部に市街地が密集しているわが国の総人口の1割は東京都民、残りの大半も首都圏や名古屋圏、関西圏に在住しており、北海道や東北、北陸、山陰、四国、九州、沖縄の中山間地域や離島(島嶼)では廃屋が目立っており、高齢化率が30〜40%以上に達しているところも少なくありません。
ただし、わが国の政治や経済は明治維新以来、首都・東京に集中しています。そこで、最近、遅まきながら、このような硬直化した集権型の政治・経済システムを是正すべく、各方面から地方分権化の必要性が論議されるようになりました。国や自治体の財政危機を打開するとともに、地域の活性化を図るために実施されている「平成の大合併」も、その方策の一つです。
このようななかで、近年、大きな問題となっているのが老親(ろうしん)の介護です。
家族形態と介護の関係
さて、現代の家族形態と介護の関係はどのようになっているのでしょうか。
ご存知のように、高齢者の介護は社会全体で支えるため、介護保険制度が2000(平成12)年4月に導入されました。もっとも、これまでの関係機関によるさまざまな調査・研究や新聞、テレビなどの報道によると、地方、都市部とも高齢者の一人暮らしや高齢者だけの世帯が増えており、高齢者の「孤独死」や老夫婦の無理心中などが急増しています。
また、施設や在宅(居宅)サービスの整備がまだまだ不十分なため、60〜70歳代の子どもが、80〜100歳代の老親を介護する「老々介護」が地方でも、都市部でも日常茶飯事となっています。
さらに、都市部に住む子どもが定期的に帰省し、ふるさとに残している老親の介護に当たる「遠距離介護」も珍しくなくなってきています。現に、筆者の周りでもそのような現役のサラリーマン、また、リタイアした年金生活者がいます。
ふるさとで生活している老親が、年老いて介護が必要になっても、なぜ、保健・医療・福祉などのサービスの基盤が比較的整備されている都市部の子どもと生活をともにするため、移住しないのか。それは、長年、住み慣れた土地を離れて生活する老後に対し、不安を覚えるからです。
もちろん、そうはいっても、配偶者に先立たれたら一人暮らしも困難となります。このため、やむなく都市部の子どもに引き取られ、介護を受ける高齢者もいないわけではありません。このような介護のありようを「呼び寄せ老人」といっているわけですが、本人にしてみれば決して本意ではないでしょう。
そこに、介護保険制度が導入されて数年も経つにもかかわらず、手厚い在宅介護ができていない、わが国の福祉の貧困さを垣間見ることができます。
ご存知のように、高齢者の介護は社会全体で支えるため、介護保険制度が2000(平成12)年4月に導入されました。もっとも、これまでの関係機関によるさまざまな調査・研究や新聞、テレビなどの報道によると、地方、都市部とも高齢者の一人暮らしや高齢者だけの世帯が増えており、高齢者の「孤独死」や老夫婦の無理心中などが急増しています。
また、施設や在宅(居宅)サービスの整備がまだまだ不十分なため、60〜70歳代の子どもが、80〜100歳代の老親を介護する「老々介護」が地方でも、都市部でも日常茶飯事となっています。
さらに、都市部に住む子どもが定期的に帰省し、ふるさとに残している老親の介護に当たる「遠距離介護」も珍しくなくなってきています。現に、筆者の周りでもそのような現役のサラリーマン、また、リタイアした年金生活者がいます。
ふるさとで生活している老親が、年老いて介護が必要になっても、なぜ、保健・医療・福祉などのサービスの基盤が比較的整備されている都市部の子どもと生活をともにするため、移住しないのか。それは、長年、住み慣れた土地を離れて生活する老後に対し、不安を覚えるからです。
もちろん、そうはいっても、配偶者に先立たれたら一人暮らしも困難となります。このため、やむなく都市部の子どもに引き取られ、介護を受ける高齢者もいないわけではありません。このような介護のありようを「呼び寄せ老人」といっているわけですが、本人にしてみれば決して本意ではないでしょう。
そこに、介護保険制度が導入されて数年も経つにもかかわらず、手厚い在宅介護ができていない、わが国の福祉の貧困さを垣間見ることができます。
(2008年9月29日)