Vol.28 相続税の対策はこうする〈下〉
元橋好雄(税理士・ITコーディネータ)
具体的な相続税の計算方法
今回は前回を受け、父が80歳の死亡により、配偶者である母と同居の長男、および別居の長女が相続する場合、具体的にどのように計算するのか、説明しましょう。
なお、死亡2年前に、長女に対して100万円の現金を贈与しています。また、遺産分割協議の結果、法定相続分に応じて相続することとなりました。財産、債務等は次のとおりです。
(1)現金・預貯金:8,000万円(預金の未収利息は4万円)
(2)住居用建物の所在する土地:6,500万円(130m2、路線価評価額は50万円/m2)
(3)住居として使用していた建物:2,500万円(固定資産税評価額600万円)
(4)趣味の絵画:購入価額400万円(時価評価250万円)
(5)絵画購入のローン残高:100万円
(6)葬式費用:150万円(通夜及び告別式費用)
(7)墓地、墓石の購入費用:200万円
なお、死亡2年前に、長女に対して100万円の現金を贈与しています。また、遺産分割協議の結果、法定相続分に応じて相続することとなりました。財産、債務等は次のとおりです。
(1)現金・預貯金:8,000万円(預金の未収利息は4万円)
(2)住居用建物の所在する土地:6,500万円(130m2、路線価評価額は50万円/m2)
(3)住居として使用していた建物:2,500万円(固定資産税評価額600万円)
(4)趣味の絵画:購入価額400万円(時価評価250万円)
(5)絵画購入のローン残高:100万円
(6)葬式費用:150万円(通夜及び告別式費用)
(7)墓地、墓石の購入費用:200万円
手続き1 すべての財産について相続税法等の定めに従って評価をします。
(1)現金・預貯金
8,000万円+4万円=8,004万円
(2)土地
住居用に使用していた土地は小規模宅地等の計算特例が適用できます。⇒80%の評価減⇒20%評価
130m2×50万円×20%=1,300万円
(3)建物
建物は実際の建築価額や購入価額ではなく、固定資産税の評価とするので「600万円」となります。
(4)絵画
時価のあるものについては鑑定の評価をしますので、評価額は「250万円」となります。
(5)ローン残高
死亡時点での返済残高「100万円」を残高証明書等で確認します。
(6)葬式費用
通夜、告別式、お経料・戒名料等が対象ですが、香典返しの費用等は除外されます。…「150万円」
(7)墓地、墓石の購入費用
これらの費用は控除の対象外となります。
8,000万円+4万円=8,004万円
(2)土地
住居用に使用していた土地は小規模宅地等の計算特例が適用できます。⇒80%の評価減⇒20%評価
130m2×50万円×20%=1,300万円
(3)建物
建物は実際の建築価額や購入価額ではなく、固定資産税の評価とするので「600万円」となります。
(4)絵画
時価のあるものについては鑑定の評価をしますので、評価額は「250万円」となります。
(5)ローン残高
死亡時点での返済残高「100万円」を残高証明書等で確認します。
(6)葬式費用
通夜、告別式、お経料・戒名料等が対象ですが、香典返しの費用等は除外されます。…「150万円」
(7)墓地、墓石の購入費用
これらの費用は控除の対象外となります。
手続き2 相続税の課税の基となる課税価格と課税遺産総額を計算します。
財産総額:80,040,000円(現金・預貯金)+13,000,000円(土地)+6,000,000円(建物)+2,500,000円(絵画)=101,540,000円
贈与財産:1,000,000円
債務金額:1,000,000円
葬式費用:1,500,000円
課税価格:101,540,000円+1,000,000円−1,000,000円−1,500,000円=100,040,000円
基礎控除額:50,000,000円+10,000,00円×3名=80,000,000円
課税遺産総額:100,040,000円−80,000,000円=20,040,000円
贈与財産:1,000,000円
債務金額:1,000,000円
葬式費用:1,500,000円
課税価格:101,540,000円+1,000,000円−1,000,000円−1,500,000円=100,040,000円
基礎控除額:50,000,000円+10,000,00円×3名=80,000,000円
課税遺産総額:100,040,000円−80,000,000円=20,040,000円
手続き3 相続税額の総額を計算します。
配偶者:20,040,000円×1/2=10,020,000円
10,020,000円×15%−500,000円=1,003,000円
長男:20,040,000円×1/4=5,010,000円
5,010,000円×10%=501,000円
長女:20,040,000円×1/4=5,010,000円
5,010,000円×10%=501,000円
相続税の総額:1,003,000円+501,000円+501,000円=2,005,000円
10,020,000円×15%−500,000円=1,003,000円
長男:20,040,000円×1/4=5,010,000円
5,010,000円×10%=501,000円
長女:20,040,000円×1/4=5,010,000円
5,010,000円×10%=501,000円
相続税の総額:1,003,000円+501,000円+501,000円=2,005,000円
手続き4 各人の納付すべき相続税額を計算します。
配偶者:2,005,000円×49,520,000円/100,040,000円=992,479円
納付すべき相続税額 配偶者控除額992,479円=0円
長男:2,005,000円×24,760,000円/100,040,000円=496,239円
納付すべき相続税額:100円未満切り捨て=496,200円
長女:2,005,000円×25,760,000円/100,040,000円=516,281円 納付すべき相続税額 100円未満切り捨て=516,200円
*長女は生前贈与があったため、長男と比較して税負担が増加している。
25,760,000円=24,760,000円+1,000,000円(生前贈与分)
*納付税額が多額となって一度に納付困難な場合、延納(分割納付)や物納の制度適用のための申請ができます。
納付すべき相続税額 配偶者控除額992,479円=0円
長男:2,005,000円×24,760,000円/100,040,000円=496,239円
納付すべき相続税額:100円未満切り捨て=496,200円
長女:2,005,000円×25,760,000円/100,040,000円=516,281円 納付すべき相続税額 100円未満切り捨て=516,200円
*長女は生前贈与があったため、長男と比較して税負担が増加している。
25,760,000円=24,760,000円+1,000,000円(生前贈与分)
*納付税額が多額となって一度に納付困難な場合、延納(分割納付)や物納の制度適用のための申請ができます。
相続の対策と相続税の節税
これまでの説明からも理解できるかと思いますが、いわゆる資産家の方々は別として、一般のご家庭の場合には相続税の課税はほとんどないと思われますので、節税対策は必要がないのではないでしょうか。
ただし、ご家庭における環境、状況等から相続そのものの対策が必要になることはあるでしょう。そこで、次に具体的な方策をいくつか簡単にご紹介しましょう。
ただし、ご家庭における環境、状況等から相続そのものの対策が必要になることはあるでしょう。そこで、次に具体的な方策をいくつか簡単にご紹介しましょう。
1.毎年110万円を限度に暦年贈与をする。
(1)贈与税の基礎控除は110万円です。ですから、毎年110万円の贈与を連続することで、10年間に1,100万円もの財産の移転ができます。
(2)ちなみに110万円の贈与には贈与税はかかりませんが、あえて贈与の証拠をつくるため、111万円を贈与し、贈与税の申告と1,000円の贈与税を納税する人もいます。
111万円−110万円=1万円 1万円×10%=1,000円
(2)ちなみに110万円の贈与には贈与税はかかりませんが、あえて贈与の証拠をつくるため、111万円を贈与し、贈与税の申告と1,000円の贈与税を納税する人もいます。
111万円−110万円=1万円 1万円×10%=1,000円
2.必要となる墓地、墓石等を生前に取得する。
(1)まだ菩提寺やお墓の準備がされていないときは、生前にこれらの準備をされることにより、一つの節税になります。
(2)相続が開始してから支出しても節税のメリットはありません。
(2)相続が開始してから支出しても節税のメリットはありません。
3.現金・預金等の財産から、不動産、生命保険契約等への転換をする。
(1)現金・預貯金は相続開始の時点での評価は額面そのものとなりますが、たとえば土地や建物の不動産を購入すると、不動産の評価は相続開始時点での利用状況にもよりますが、80%・50%という評価の減額のメリットを受けることも可能となります。
また、生命保険契約も評価の減額のメリットがあります。
(2)ただし、不動産にしろ、生命保険契約にしろ、時価の増減というリスクを常に伴うということには注意をしなければなりません。
また、生命保険契約も評価の減額のメリットがあります。
(2)ただし、不動産にしろ、生命保険契約にしろ、時価の増減というリスクを常に伴うということには注意をしなければなりません。
4.相続時精算課税制度の利用
(1)相続時精算課税という制度を利用することで、原則として65歳以上の父母からの20歳以上の子に対する贈与は2,500万円までは無税、2,500万円を超えるときはその超える部分の金額に対し、の20%の贈与税の負担だけで済みます。
この場合、子が自分の居住用の財産を取得するのであれば、2,500万円に1,000万円を加算した3,500万円までの贈与に対する贈与税は0、ということになります。
(2)もちろん、相続時精算課税ですので、贈与者である父、または母が死亡したとき、その時点のすべての相続財産に、この制度を利用して贈与した、すべての財産を加算した総額に対し、相続税の計算をすること等複雑な制度ですので、専門家に相談することをおすすめします。
この場合、子が自分の居住用の財産を取得するのであれば、2,500万円に1,000万円を加算した3,500万円までの贈与に対する贈与税は0、ということになります。
(2)もちろん、相続時精算課税ですので、贈与者である父、または母が死亡したとき、その時点のすべての相続財産に、この制度を利用して贈与した、すべての財産を加算した総額に対し、相続税の計算をすること等複雑な制度ですので、専門家に相談することをおすすめします。
5.遺言書の活用
(1)相続争いの未然防止の一つとして遺言書を作成し、積極的に意志を表示することも大事なことではないかと思います。
(2)遺言書は、公証人に作成を依頼する公正証書遺言とすることをおすすめします。
また、遺言は気が変わったときはいつでも書き換えができることも便利な点です。
(2)遺言書は、公証人に作成を依頼する公正証書遺言とすることをおすすめします。
また、遺言は気が変わったときはいつでも書き換えができることも便利な点です。
6.養子縁組の利用
(1)養子縁組によって法定相続人を増加させ、遺産に係る基礎控除額を増やすことで行う節税策です。
ただし、養子縁組を複数人としても、基礎控除額の計算上は被相続人に実子がいるときは1人、実子がいないときは2人に制限されます。
(2)養子縁組を節税のためだけに利用することの評価は、それぞれ人により相違するものですが、節度のある慎重な行動が求められるのではないでしょうか。
ただし、養子縁組を複数人としても、基礎控除額の計算上は被相続人に実子がいるときは1人、実子がいないときは2人に制限されます。
(2)養子縁組を節税のためだけに利用することの評価は、それぞれ人により相違するものですが、節度のある慎重な行動が求められるのではないでしょうか。
これからの相続税の改正
以上、現在の税法、その他の法令にもとづいて説明しましたが、今後の法令等の改正についても注意をしていく必要があります。
まず、これまでの相続税の計算は、被相続人の遺産の大小で全体の相続税額を確定し、各相続人の取得財産に応じた納税額を計算しましたが、これからは各相続人がそれぞれ相続した遺産に対する相続税の計算をする、という遺産取得課税という考え方の導入が検討されているようです。
また、事業承継の観点から非上場株式に関する納税猶予制度の導入が検討され、さらなる中小企業の保護育成に資することとなりそうです。
まず、これまでの相続税の計算は、被相続人の遺産の大小で全体の相続税額を確定し、各相続人の取得財産に応じた納税額を計算しましたが、これからは各相続人がそれぞれ相続した遺産に対する相続税の計算をする、という遺産取得課税という考え方の導入が検討されているようです。
また、事業承継の観点から非上場株式に関する納税猶予制度の導入が検討され、さらなる中小企業の保護育成に資することとなりそうです。
(2008年5月26日)