最終回 百名山あれこれ
ブームを生んだ“深田百名山”
今回はその結びとして、「百名山あれこれ」と題してお話をしましょう。
みなさんもすでにご存知かと思いますが、今日のシニアの山歩きのブームの大きな背景の一つに深田久弥(1903−1971)の「日本百名山」があります。これは、登山家で作家の深田が戦前に登った各地の山のなかから、「品格」や「歴史」、「個性」を持っている標高1500メートル以上の山を基本に100座を選んでまとめた、1964年のエッセイ集です。
「百名山」に類した書籍や絵画、彫刻などの作品は江戸時代のころからありましたが、選んだすべての山に登り、その歴史や伝説、宗教などをエッセイとしてまとめたものはこれが初めてです。内容も濃く、その文学性が評価されて読売文学賞を受賞しました。この「百名山」は、のちに他の百名山と区別して、“深田百名山”といわれるようになりました。
なかには、「中部地方の山に偏りすぎている」、「山岳信仰の山ばかりだ」、「茨城県の筑波山(877メートル)よりも高い新潟県の黒姫山(2053メートル)などが落ちている」などといった批判も聞かれました。しかし、これを機に、NHKのテレビ番組や山の専門誌などに紹介され、折からの自然保護やシニアの生きがい探しとマッチして空前のブームとなり、今日に至っています。
「花の百名山」や「ふるさと富士百名山」も
前者は、“深田百名山”をベースに、花の名所にもなっている山を100座、後者は、各地にある、ふるさとの富士約350座のなかから100座を選び、まとめたエッセイ集です。このほか、“深田百名山”にもれた山を追加した「日本二百名山」や「日本三百名山」、さらには「関東百名山」、「北海道百名山」なども出版されるなど百名山ラッシュとなり、これらの百名山のすべてに登ろうと、多くのハイカーが各地に繰り出しています。
ちなみに筆者は、“深田百名山”に紹介された静岡、山梨両県にまたがる富士山(3776メートル)、伯耆(ほうき)富士こと鳥取県の大山(1709メートル)に何度も登っていますが、山歩きブームが高じて山小屋がゴミだらけになったり、安易な登山ツアーで遭難騒ぎも起きたりしています。山歩きは自然保護と安全を第一に考え、楽しみたいものです。
(終わり)