第33回 山と動物(上)
野生の動物との遭遇
山歩きをしていて野生動物の姿を見かけるのは微笑(ほほえ)ましいもので、楽しさも倍増します。もっとも、場所によってはクマなどの危険な動物に出くわさないとも限らないため、警戒は怠らないようにしたいものです。
そこで思い出すのは、かつて長野県の浅間山・外輪山の黒斑(くろふ)山(標高2,404メートル)や池ノ平湿原(2,000メートル)、奈良・三重県境の大台ヶ原山(日出ヶ岳;1,695メートル)で、ニホンジカに出会ったことです。
いずれも、こちらの姿やしぐさに驚くこともなく、愛くるしい眼で視線を合わせてくれたのち、何事もなかったかのようにスーッと山中に姿を消していきました。その間、時間にしてわずか数秒でしたが、思わぬ動物との遭遇にカメラのシャッターを押すのも忘れたほどでした。
また、神奈川県の丹沢山系の塔ノ岳(1,491メートル)に登った際、やはりニホンジカが、はるか向こうの稜線で朝日を浴び、一日の始まりを迎えるかのような姿で立ち尽くしているのを望見し、感動したことを鮮明に憶えています。
もちろん、その一方で、今でも思い出すたびにゾッとすることもあります。
ある秋の日に一人で新潟県の妙高山(2,454メートル)に登ったときのことです。人っ子一人いない登山道の中腹で、指呼の間にあるクマザサの中にツキノワグマの姿がチラッと見え隠れしたのです。
幸いにも、クマはこちらに気づいていなかったので、食料の入ったザックをその場に置き、静かに後ずさりして近くのヤブに身を潜め、行動をうかがいました。クマはその後もこちらの気配に気づかず、山中に消えていったため、危うく難(?)を逃れました。その後、頃合いをみてザックを取りに行き、そのまま登山を続けて無事に下山することができました。その安堵感もまた、忘れられません。
そこで思い出すのは、かつて長野県の浅間山・外輪山の黒斑(くろふ)山(標高2,404メートル)や池ノ平湿原(2,000メートル)、奈良・三重県境の大台ヶ原山(日出ヶ岳;1,695メートル)で、ニホンジカに出会ったことです。
いずれも、こちらの姿やしぐさに驚くこともなく、愛くるしい眼で視線を合わせてくれたのち、何事もなかったかのようにスーッと山中に姿を消していきました。その間、時間にしてわずか数秒でしたが、思わぬ動物との遭遇にカメラのシャッターを押すのも忘れたほどでした。
また、神奈川県の丹沢山系の塔ノ岳(1,491メートル)に登った際、やはりニホンジカが、はるか向こうの稜線で朝日を浴び、一日の始まりを迎えるかのような姿で立ち尽くしているのを望見し、感動したことを鮮明に憶えています。
もちろん、その一方で、今でも思い出すたびにゾッとすることもあります。
ある秋の日に一人で新潟県の妙高山(2,454メートル)に登ったときのことです。人っ子一人いない登山道の中腹で、指呼の間にあるクマザサの中にツキノワグマの姿がチラッと見え隠れしたのです。
幸いにも、クマはこちらに気づいていなかったので、食料の入ったザックをその場に置き、静かに後ずさりして近くのヤブに身を潜め、行動をうかがいました。クマはその後もこちらの気配に気づかず、山中に消えていったため、危うく難(?)を逃れました。その後、頃合いをみてザックを取りに行き、そのまま登山を続けて無事に下山することができました。その安堵感もまた、忘れられません。
悲しいイノシシやツキノワグマの駆除
しかし、その一方で、心痛めるできごと、また、山の動物をめぐる悲しいニュースもひんぱんに報道されています。ここ十年ほど前の深田久弥の山岳エッセイ『日本百名山』の一大ブームもあり、自然とのふれあいや健康づくり、癒(いや)し、エコロジーにシニアなどが関心を寄せ、近郊の里山や高山の山歩きが大流行となっているからかもしれません。
たとえば、地元の人たちが大切に栽培している農作物がサルやイノシシ、ツキノワグマなどによって食い荒らされ、そのたびに地元の猟友会がこれらの動物を駆除している話もそうです。
確かに、地元の人たちにとっては死活問題ですが、だからといって、駆除するだけで問題はすべて解決されるのでしょうか。原因は、一概にはいえませんが、元はといえば、私たち人間が宅地造成や観光開発によって山林を伐採したり、道路を建設したりして彼らの安住の地を脅かしたり、山菜取りに夢中になって木の実やササ、ゼンマイ、ワラビなどの餌を奪ったりしているからではないでしょうか。
また、山歩きや農作業などで山中に入った人が持ち込んだ食料の残り物を捨てるため、彼らがそれに味を占め、においを頼りに里山へ下り、農作物を食い荒らすことを学習してしまったからではないでしょうか。それだけではありません。軽井沢をはじめ、各地の高原や山の高速道路、林道や農道では車にひかれてしまった動物たちの無残な姿がしばしば見つかり、顔をそむけられています。
この点、カナディアンロッキー(3,363〜3,954メートル)などが連なる世界遺産のバンフ、ジャスパーなどの国立公園では、数多くの公認のネイチャーガイドが配置されているほか、公園内の高速道路の周辺を柵で囲ったり、地下道や立体交差などを整備したりして動物の保護に努めています。
わが国でも、アメリカの国立公園にいる「パークレンジャー」を参考に、自然保護官(レンジャー)を各地の国立公園に配置し、動物の保護や外来生物への対策、里地里山の保全に努めていますが、海外の体制に比べればまだまだのため、一層の充実を望みたいものです。
たとえば、地元の人たちが大切に栽培している農作物がサルやイノシシ、ツキノワグマなどによって食い荒らされ、そのたびに地元の猟友会がこれらの動物を駆除している話もそうです。
確かに、地元の人たちにとっては死活問題ですが、だからといって、駆除するだけで問題はすべて解決されるのでしょうか。原因は、一概にはいえませんが、元はといえば、私たち人間が宅地造成や観光開発によって山林を伐採したり、道路を建設したりして彼らの安住の地を脅かしたり、山菜取りに夢中になって木の実やササ、ゼンマイ、ワラビなどの餌を奪ったりしているからではないでしょうか。
また、山歩きや農作業などで山中に入った人が持ち込んだ食料の残り物を捨てるため、彼らがそれに味を占め、においを頼りに里山へ下り、農作物を食い荒らすことを学習してしまったからではないでしょうか。それだけではありません。軽井沢をはじめ、各地の高原や山の高速道路、林道や農道では車にひかれてしまった動物たちの無残な姿がしばしば見つかり、顔をそむけられています。
この点、カナディアンロッキー(3,363〜3,954メートル)などが連なる世界遺産のバンフ、ジャスパーなどの国立公園では、数多くの公認のネイチャーガイドが配置されているほか、公園内の高速道路の周辺を柵で囲ったり、地下道や立体交差などを整備したりして動物の保護に努めています。
わが国でも、アメリカの国立公園にいる「パークレンジャー」を参考に、自然保護官(レンジャー)を各地の国立公園に配置し、動物の保護や外来生物への対策、里地里山の保全に努めていますが、海外の体制に比べればまだまだのため、一層の充実を望みたいものです。