第27回 山とまちおこし
今、なぜ、山とまちおこしなのか
「山」と「まちおこし」――。一見、結びつかないように思えるこの2つを山岳愛好家の視点から考えてみたいと思います。
「地方の時代」といわれて、もう30年以上が経ちます。地域の活性化や再生が国や自治体、マスメディアによって叫ばれていますが、最近、その一つの策として、山を利用した「まちおこし」という声も聞かれるようになりました。
まちおこしに山を利用する理由は何でしょうか。
一つは、山は古くから麓の人々の信仰の対象になっていたり、自然の恵みをもたらしたりしているため、このような山の存在をもっと生かしたいということでしょう。もう一つは、麓の人々の高齢化や少子化、あるいは若者の都市への進学や就職、山林や農業の衰退やダム、高速道路の建設によって離村が進み、崩壊しつつある集落を守るため、地域経済の建て直しを図りたいということでしょう。
また、このような山を利用したまちづくりは、地元の人たちだけのためではありません。都市に住む人たちも、憧れの山の自然や地元の人たちとのふれあい、癒し、あるいはその歴史の学びや自然保護への願いを通じ、人間性の回復を求めたいということでしょう。
しかし、相手が“物言わぬ自然”だからといって、思い上がった行動に出ようものなら、とんだ報復を受けることもあります。森林の伐採やロープウエイ、ゴルフ場、観光道路などの整備に伴う生態系の破壊は、飲料水や農・工業用水の断水、土砂崩れなど、私たちの暮らしにだけでなく、生命に影響が及ぶこともありますので謙虚に臨みたいものです。
「地方の時代」といわれて、もう30年以上が経ちます。地域の活性化や再生が国や自治体、マスメディアによって叫ばれていますが、最近、その一つの策として、山を利用した「まちおこし」という声も聞かれるようになりました。
まちおこしに山を利用する理由は何でしょうか。
一つは、山は古くから麓の人々の信仰の対象になっていたり、自然の恵みをもたらしたりしているため、このような山の存在をもっと生かしたいということでしょう。もう一つは、麓の人々の高齢化や少子化、あるいは若者の都市への進学や就職、山林や農業の衰退やダム、高速道路の建設によって離村が進み、崩壊しつつある集落を守るため、地域経済の建て直しを図りたいということでしょう。
また、このような山を利用したまちづくりは、地元の人たちだけのためではありません。都市に住む人たちも、憧れの山の自然や地元の人たちとのふれあい、癒し、あるいはその歴史の学びや自然保護への願いを通じ、人間性の回復を求めたいということでしょう。
しかし、相手が“物言わぬ自然”だからといって、思い上がった行動に出ようものなら、とんだ報復を受けることもあります。森林の伐採やロープウエイ、ゴルフ場、観光道路などの整備に伴う生態系の破壊は、飲料水や農・工業用水の断水、土砂崩れなど、私たちの暮らしにだけでなく、生命に影響が及ぶこともありますので謙虚に臨みたいものです。
山のまちおこしもそれぞれ
一口に山を利用した、まちおこしといってもそのタイプはさまざまです。最も国際的なものは「世界遺産」への登録でしょう。
たとえば、盟主・羅臼岳(標高1661m)がそびえる北海道・知床をはじめ、世界最大級のブナの原生林で覆われた青森、秋田両県にまたがる白神山地、主峰・宮之浦岳(標高1935m)を中心に、島全体が連山となった“洋上アルプス”の鹿児島県・屋久島は、いずれも世界遺産となったことが地元の大きなまちおこしとなっています。
あまりのゴミのひどさに、一時、「世界遺産」への登録が見送られた富士山(標高3776m)も、「夢よ再び」と地元の静岡、山梨両県が大キャンペーンを張りました。その結果、政府は今年1月、富士山を含む4件の資産を追加記載した「暫定リスト」を作成し、ユネスコの世界遺産センターに提出しました。
そして、この6月、ニュージーランドで開催される予定の世界遺産委員会で、富士山などの追加登録が正式に認められる見込みといわれています。ちなみに富士山の場合、知床や白神山地、屋久島のような「自然遺産」としてではなく、「文化遺産」としての登録をめざしています
確かに、富士山はわが国の最高峰というだけでなく、世界でも稀なコニーデ型の端正な単独峰であること、また、「万葉集」などにも登場するほど文化的にも歴史的にも世界に知られた山であることからも、その価値は十分あると思います。しかし、日ごろの自然保護が不十分なまま、富士山の知名度に頼った、まちおこしという名の観光開発だけなら考えものです。
そういえば、来年3月にオープン予定の“静岡空港(島田市郊外)”の名前はこのほど、「富士山静岡空港」と正式に決まりましたが、静岡県は旧東海道の要所であっただけでなく、新幹線や東名高速道路も開通しており、羽田空港(東京国際空港)や成田空港(新東京国際空港)へのアクセスにも恵まれています。にもかかわらず、地元の政財界などの要請で工事が強行されているだけに、合点のいかない県民や国民も少なくないのではないでしょうか。
たとえば、盟主・羅臼岳(標高1661m)がそびえる北海道・知床をはじめ、世界最大級のブナの原生林で覆われた青森、秋田両県にまたがる白神山地、主峰・宮之浦岳(標高1935m)を中心に、島全体が連山となった“洋上アルプス”の鹿児島県・屋久島は、いずれも世界遺産となったことが地元の大きなまちおこしとなっています。
あまりのゴミのひどさに、一時、「世界遺産」への登録が見送られた富士山(標高3776m)も、「夢よ再び」と地元の静岡、山梨両県が大キャンペーンを張りました。その結果、政府は今年1月、富士山を含む4件の資産を追加記載した「暫定リスト」を作成し、ユネスコの世界遺産センターに提出しました。
そして、この6月、ニュージーランドで開催される予定の世界遺産委員会で、富士山などの追加登録が正式に認められる見込みといわれています。ちなみに富士山の場合、知床や白神山地、屋久島のような「自然遺産」としてではなく、「文化遺産」としての登録をめざしています
確かに、富士山はわが国の最高峰というだけでなく、世界でも稀なコニーデ型の端正な単独峰であること、また、「万葉集」などにも登場するほど文化的にも歴史的にも世界に知られた山であることからも、その価値は十分あると思います。しかし、日ごろの自然保護が不十分なまま、富士山の知名度に頼った、まちおこしという名の観光開発だけなら考えものです。
そういえば、来年3月にオープン予定の“静岡空港(島田市郊外)”の名前はこのほど、「富士山静岡空港」と正式に決まりましたが、静岡県は旧東海道の要所であっただけでなく、新幹線や東名高速道路も開通しており、羽田空港(東京国際空港)や成田空港(新東京国際空港)へのアクセスにも恵まれています。にもかかわらず、地元の政財界などの要請で工事が強行されているだけに、合点のいかない県民や国民も少なくないのではないでしょうか。
夕張市の新たなまちおこしとは
このようななか、北海道夕張市は2006(平成17)年、地方財政再建促進特別措置法(再建法)にもとづき、財政再建団体に指定されました。理由は、昭和40年代の石炭から石油へのエネルギー政策の転換に伴う地域経済の停滞と、その後のリゾート開発の失敗です。町のシンボル・冷水山(標高702m)の斜面にスキー場を造成し、麓にスキーヤーを当て込んだ2軒の豪華なホテルを整備したり、テーマパーク「石炭の歴史村」などの観光施設を相次いでオープンさせたりして観光で地域再生をめざしましたが、平成に入り、バブル崩壊に見舞われたあとは観光客の足が遠のき、いつしか総額約370億円もの借金を抱えて財政破綻しました。
そこで、市は先ごろ、国の指導・監督のもとで策定した財政再建計画にもとづき、市長をはじめ、職員や議員の給与の大幅カットや定数の削減、公共料金の引き上げなど歳出の削減にとりかかりました。その後、職員の退職や住民の札幌市などへの引っ越しが相次ぎ、最盛期には12万人もあった人口も約1万2000人と激減し、一気に過疎化と高齢化が進むことになりました。残された住民たちは、これまでの石炭会社や行政に依存していた責任を痛感する一方、スキー場やテーマパーク「石炭の歴史村」などの観光施設、温泉、「夕張メロン」などを活かし、地域の活性化、ひいては地域再生をと、まちおこしに立ち上がりつつあり、その成り行きが注目されています。
いずれにしても、このように山の自然や恵みを活かし、まちづくりに取り組んでいくためには、自然保護を第一に考えたまちづくりが必要であることを教えているのではないでしょうか。一度失った自然は戻らないからです。
次回は「山の歌」についてお伝えします。
そこで、市は先ごろ、国の指導・監督のもとで策定した財政再建計画にもとづき、市長をはじめ、職員や議員の給与の大幅カットや定数の削減、公共料金の引き上げなど歳出の削減にとりかかりました。その後、職員の退職や住民の札幌市などへの引っ越しが相次ぎ、最盛期には12万人もあった人口も約1万2000人と激減し、一気に過疎化と高齢化が進むことになりました。残された住民たちは、これまでの石炭会社や行政に依存していた責任を痛感する一方、スキー場やテーマパーク「石炭の歴史村」などの観光施設、温泉、「夕張メロン」などを活かし、地域の活性化、ひいては地域再生をと、まちおこしに立ち上がりつつあり、その成り行きが注目されています。
いずれにしても、このように山の自然や恵みを活かし、まちづくりに取り組んでいくためには、自然保護を第一に考えたまちづくりが必要であることを教えているのではないでしょうか。一度失った自然は戻らないからです。
次回は「山の歌」についてお伝えします。