第19回 安心・安全の確保 その4〜ガスコンロからポットへの移行〜
認知症の方の安心・安全に関連する住まいの工夫に欠くことのできない点のひとつに、火事や火傷などの事故からの危険をいかに防ぐか、ということがあります。
そこで、今回は、認知症の方がお茶を淹れる際に、これまでガスコンロを使用してお湯を沸かしていたものをポット使用に切り替えた住まいの工夫をご紹介します。
そこで、今回は、認知症の方がお茶を淹れる際に、これまでガスコンロを使用してお湯を沸かしていたものをポット使用に切り替えた住まいの工夫をご紹介します。
住まいの工夫の内容
ポットは、台所の床に直置きされていました。その理由は、認知症の方がポット側面の正面にある目盛が湯量残量を表わすことを覚えることが難しかったためでした。そのため、湯量残量を確認するときは、目盛を見るのではなく、ポット上部の蓋を開けて確認していました。高さのある台にポットを載せると、蓋を開けても湯の残量が良く見えなかったり、立ち上がる湯気が顔にかかったりして、事故につながる危険があるため床に置いているということでした。(写真)
住まいの工夫を行った理由・ねらい
認知症の方が家族の中で果たしてきた役割のひとつに、朝や仕事帰りの家族にお茶を淹れる、というものがありました。しかし、湯を沸かす際に、ガスコンロを使っていたので火の不始末や火傷などの事故に遭うのでは、と家族は心配していました。同時に、家族を愛し、家族のために役に立ちたいという思いから、お茶出しだけでなく、戸締りや庭掃除などの役割を担ってきた認知症の方の気持ちを尊重したいという思いもありました。ですから、お湯を沸かし、お茶を淹れる役割から認知症の方を遠ざけることは避けたいと思っていました。
(家族から見て)住まいの工夫が役立つと感じる理由
ガスコンロの直火を使わずポットの湯でお茶を淹れる役割が維持できていました。
しかし、一日に何度もポットの蓋の開け閉めをするため、ポットの寿命が短いのではないか、という新たな課題も生じていました。また、仮に買い替える時に、いま使っているものと同じようなポットが見つかるかどうか、という心配も抱えていました
しかし、一日に何度もポットの蓋の開け閉めをするため、ポットの寿命が短いのではないか、という新たな課題も生じていました。また、仮に買い替える時に、いま使っているものと同じようなポットが見つかるかどうか、という心配も抱えていました
専門家からみたひとこと
この事例の住まいの工夫そのものは、安全確保のためガスコンロからポットに移行する、という一般的によくみられるものですが、その裏には家庭の中における認知症の方の役割の継続という大きなテーマがありました。
この連載では、繰り返し触れていることでもありますが、身体能力面からみてできること・していることだけでなく、社会的役割としてできること・していることを支える住まいの工夫も考えていくことが必要です。本意であるかは別問題として、認知症の方のできる・していることを制限するタイプの住まいの工夫によって、安心・安全を確保することも可能です。しかし、ご本人のできる・していることやしたいことを継続しながら安心・安全を確保する住まいの工夫を行う場合は、「どのような住まいの工夫を行うか」、ということに加えて「どのように使いこなすか」という、暮らし方の面での工夫や配慮が求められます。
今回の事例では、ポットの選定とポットを置く場所に工夫や配慮がなされていました。
ポットの選定に関しては、できるかぎり操作ボタンが少ないシンプルなものを選んでいたことによって、使いこなすことには至らないまでも、使うことができていました。
ただし、この件に関しては、認知症の方の使い方だけでなく、ポット側の課題(製品そのものの仕様だけでなく、入手のしやすさ、価格も含め)もあったことも見逃せません。私たちにとっては、認知症の方が使いやすいモノとは何かを考えていく必要性を強く感じました。
また、ポットを床に置いていたことに関しては、ポットを床に置くと躓いてかえって危険である、という見方もあるかもしれません。認知症の方の症状の変化に合わせて再検討が必要な点でもあります。しかし、やはりこの住まいの工夫が取り組まれた時点では、認知症の方のその時の能力、役割を果たし続けてもらいたいという気持ち、予算などの側面と、安心・安全の両面が保たれる絶妙なバランスの住まいの工夫を講じておられたと思います。
この連載では、繰り返し触れていることでもありますが、身体能力面からみてできること・していることだけでなく、社会的役割としてできること・していることを支える住まいの工夫も考えていくことが必要です。本意であるかは別問題として、認知症の方のできる・していることを制限するタイプの住まいの工夫によって、安心・安全を確保することも可能です。しかし、ご本人のできる・していることやしたいことを継続しながら安心・安全を確保する住まいの工夫を行う場合は、「どのような住まいの工夫を行うか」、ということに加えて「どのように使いこなすか」という、暮らし方の面での工夫や配慮が求められます。
今回の事例では、ポットの選定とポットを置く場所に工夫や配慮がなされていました。
ポットの選定に関しては、できるかぎり操作ボタンが少ないシンプルなものを選んでいたことによって、使いこなすことには至らないまでも、使うことができていました。
ただし、この件に関しては、認知症の方の使い方だけでなく、ポット側の課題(製品そのものの仕様だけでなく、入手のしやすさ、価格も含め)もあったことも見逃せません。私たちにとっては、認知症の方が使いやすいモノとは何かを考えていく必要性を強く感じました。
また、ポットを床に置いていたことに関しては、ポットを床に置くと躓いてかえって危険である、という見方もあるかもしれません。認知症の方の症状の変化に合わせて再検討が必要な点でもあります。しかし、やはりこの住まいの工夫が取り組まれた時点では、認知症の方のその時の能力、役割を果たし続けてもらいたいという気持ち、予算などの側面と、安心・安全の両面が保たれる絶妙なバランスの住まいの工夫を講じておられたと思います。