第16回 安心・安全の確保 その1〜脱衣室にいすを置く〜
認知症の方が暮らしておられるお宅に訪問すると、どのお宅でも何らかのかたちで、認知症の方や家族が安心・安全に普通の日常生活を送ることができる住まいの工夫に取り組まれています。大規模な住宅改造からなにげない身の回りの工夫まで実にバリエーションに富む様々な工夫があります。そこで、今回から数回に渡り、「安心・安全」という点に着目して住まいの工夫をご紹介します。今回は、広い脱衣室にいすを置くことで安心し、落ち着いて入浴することを助ける工夫をご紹介します。
住まいの工夫の内容
住まいの工夫を行った理由・ねらい
このお宅では、認知症の方の入浴介助が必要となるよりも前に、亡夫の療養生活を快適にするために、浴室の改修工事に伴って脱衣室も拡張していました。広くなった脱衣室には、入浴時に衣服を着脱する姿勢を保つためにもたれる壁や捉まる手すりがありませんでした。そのため、着脱動作を安定させ、転倒を防ぎ落ち着いて入浴できるようにする必要がありました。
(家族から見て)住まいの工夫が役立つと感じる理由
広い脱衣室は、確かにもたれる壁や捉まる手すりはないものの、いすが置けるスペースがあるということでした。認知症の方の身体機能・認知機能が落ち、介助が必要になった今でも、いすがあるだけで本人が安心でき、介助する人の負担も軽減できて、家で入浴できているということでした。また、真冬には暖房も置いて浴室と脱衣室の温度差によるヒートショックも防いでいました。
専門家からみたひとこと
認知症の方に限らず、一般的に移動能力が低くなると、移動補助具を用いるために、より多くのスペースが必要になります。しかし、不安定ながらも自立歩行が可能な方や伝い歩きの方にとって広すぎるスペースは、捉まるところがないとかえって負担の大きい動きを強いることにつながります。特に、トイレや浴室などは広ければよいというものではなく、その方の移動能力や動作の状況、用いる補助具などに合わせたスペースを整えることが必要です。
今回の事例では、認知症の方の現在の状況に対して、広い脱衣室にいすを置くことによって、安定した衣服の着脱動作を助けていました。入浴動作の起点(入浴前は服を脱ぎ、入浴後は服を着る)となる場所にいすがあることで、着脱だけでなく一連の入浴動作を落ち着いて行うことにつながっていました。
動作を安定させる目的の住まいの工夫には、手すりを設置する、空間を区切るなどの方法も考えられます。認知症高齢者の住まいの工夫、という観点から考えた場合、この事例のように、認知症の方の普段の生活の中で馴染みのある家具を使った住まいの工夫を行っていたことも大切なポイントであったと思います。今回は脱衣室のいすを取り上げましたが、手すりなどについても、いままで使用していなかった手すりが突然付けられていることに戸惑いを感じられる認知症の方もおられると思います。例えば、まずは安定のよい家具を手すり代わりに配置してみることからはじめてみるなど認知症の方の受け入れられる環境の変化の幅を考慮しつつ、かつ機能性に富む住まいの工夫の方法論を蓄積することが重要であると思います。
今回の事例では、認知症の方の現在の状況に対して、広い脱衣室にいすを置くことによって、安定した衣服の着脱動作を助けていました。入浴動作の起点(入浴前は服を脱ぎ、入浴後は服を着る)となる場所にいすがあることで、着脱だけでなく一連の入浴動作を落ち着いて行うことにつながっていました。
動作を安定させる目的の住まいの工夫には、手すりを設置する、空間を区切るなどの方法も考えられます。認知症高齢者の住まいの工夫、という観点から考えた場合、この事例のように、認知症の方の普段の生活の中で馴染みのある家具を使った住まいの工夫を行っていたことも大切なポイントであったと思います。今回は脱衣室のいすを取り上げましたが、手すりなどについても、いままで使用していなかった手すりが突然付けられていることに戸惑いを感じられる認知症の方もおられると思います。例えば、まずは安定のよい家具を手すり代わりに配置してみることからはじめてみるなど認知症の方の受け入れられる環境の変化の幅を考慮しつつ、かつ機能性に富む住まいの工夫の方法論を蓄積することが重要であると思います。