第8回 住宅改造・福祉用具の工夫 その1〜早期の住宅改修〜
介護保険制度がスタートして10年、高齢者の生活する住宅に設置された手すりはめずらしいものではなくなりました。認知症の方が生活する住宅でも、手すりなどの住宅改修・住宅改造が行われた例は少なくないと思います。
そこで、今回から数回にわたり、住宅改修・住宅改造や福祉用具を活用した住まいの工夫をご紹介したいと思います。
そこで、今回から数回にわたり、住宅改修・住宅改造や福祉用具を活用した住まいの工夫をご紹介したいと思います。
住まいの工夫の内容
私たちの訪問時には既にトイレの改修工事を行っていました。1.和式便器から洋式便器への変更、2.座位を安定させ、立ち座り動作を支援するL字型の手すりの取り付けが行われていました。施工費は、自治体の助成金と介護保険の住宅改修費の支給を組み合わせて使用していました。
住まいの工夫を行った理由・ねらい
認知症によって起こる症状に対応したというより、加齢により足腰が弱ってきて立ち座りが大変になってきているので、自力で安全に排泄できるようにするために行ったということでした。
(家族から見て)住まいの工夫が役立つと感じる理由
排泄動作の自立が可能になった、というお話でした。また、このトイレの住宅改修は、認知症が軽度の段階で行ったので、和式便器から洋式便器に変えたことで動作が楽になり安心して使うことができた、ということでした。住宅改修後、認知症が進行していきましたが、トイレを使い続けられていました。ただし、便器の蓋と便座を下げた状態にしておくと、蓋の上に排尿してしまうので、同居家族は使い終わったら必ずトイレの蓋と便座を上げておくという「暮らし方の住まいの工夫」で補うことが前提、ということでした。
専門家からみたひとこと
訪問調査などでお話を聞くと、住宅改修によって暮らしやすくなったという声が聞かれる一方で、時間もお金もかけて行ったにも関わらず、ご本人を戸惑わせただけで役に立たなかったという声も聞かれます。
例えば廊下に手すりを付けても、認知症の方には手すりを捕まるもの、身体を支えるものと認識されず使われることもない、というような例です。また、住宅改修工事を行ったことで家の様子や雰囲気が変わってしまい、認知症の方が自分の家だと受け入れられず、不安を感じさせるきっかけになってしまった、という例もありました。
そのため、「混乱の原因になるから、認知症の方の場合には住宅改修工事をしてはいけない。」という意見を耳にすることも少なくありません。
確かに混乱を防ぐために「こうすればよい」という答えをお示しすることは非常に難しいことではありますが、中にはうまく使いこなせて安心して暮らせた事例もあります。うまくいった事例から見えてきた住まいの工夫のポイントをご紹介したいと思います。
ひとつめのポイントは、住まいの工夫を行うタイミングを考えるという点です。
今回ご紹介した事例は、認知症による生活上の困難が現れる前に、住宅改修を行ったことが功を奏した例です。新しいトイレのしつらえや、これまでとは違う排泄動作を覚えることのできる段階での住宅改修だったので、身体機能を支援する効果を引き出せ、認知症が進行してもトイレでの排泄が可能でした。他の事例でも、認知症が軽度の段階、症状の落ち着いている段階で住宅改修という住まいの工夫に取り組み、環境変化による戸惑いをできる限り抑えて新しい環境に移行した例がありました。
認知症高齢者は、認知症でもあり、高齢者でもあります。認知症による生活上の困難もありますが、加齢による生活上の困難もあります。特に移動や排泄・入浴動作などを助ける住宅改修や住宅改造は、その方の状態に合ったもの、ご本人の受け入れやすい変化であれば、できることを増やし、状態を保つために有効です。また、家族の介護負担の軽減にもつながります。
認知症だから住宅改修工事はしない・できない、という先入観にとらわれず、タイミングを図りながら、改修工事も含めて住まいの工夫を行っていく必要があると思います。
もうひとつのポイントは、認知症のある本人の受け入れやすい「使いやすさ」を意識していく視点です。
今回の事例では、トイレの改修後、便器の蓋と便座を下げた状態にしておくと、蓋の上に排尿してしまうという課題がありました。この課題に対して、「この住まいの工夫は失敗だった」と捉えることもできますし、蓋を取り外すなど別の住まいの工夫による対応策も考えられます。
この事例では、「同居家族が用を足した後は蓋を開けておく」ことを心がけて、住宅改修工事後の住環境を、暮らし方の工夫で補いながらうまく使いこなしていました。このように、ひとつの住まいの工夫で作り上げた住まいの環境を継続的に無理なく使いこなす視点その時のご本人が受け入れやすく、使いやすいようにする具体的な住まいの工夫のアイディアを持つことが重要であるのではないでしょうか。この点は、この事例に限らず住まいの工夫全般にいえることであると思います。
例えば廊下に手すりを付けても、認知症の方には手すりを捕まるもの、身体を支えるものと認識されず使われることもない、というような例です。また、住宅改修工事を行ったことで家の様子や雰囲気が変わってしまい、認知症の方が自分の家だと受け入れられず、不安を感じさせるきっかけになってしまった、という例もありました。
そのため、「混乱の原因になるから、認知症の方の場合には住宅改修工事をしてはいけない。」という意見を耳にすることも少なくありません。
確かに混乱を防ぐために「こうすればよい」という答えをお示しすることは非常に難しいことではありますが、中にはうまく使いこなせて安心して暮らせた事例もあります。うまくいった事例から見えてきた住まいの工夫のポイントをご紹介したいと思います。
ひとつめのポイントは、住まいの工夫を行うタイミングを考えるという点です。
今回ご紹介した事例は、認知症による生活上の困難が現れる前に、住宅改修を行ったことが功を奏した例です。新しいトイレのしつらえや、これまでとは違う排泄動作を覚えることのできる段階での住宅改修だったので、身体機能を支援する効果を引き出せ、認知症が進行してもトイレでの排泄が可能でした。他の事例でも、認知症が軽度の段階、症状の落ち着いている段階で住宅改修という住まいの工夫に取り組み、環境変化による戸惑いをできる限り抑えて新しい環境に移行した例がありました。
認知症高齢者は、認知症でもあり、高齢者でもあります。認知症による生活上の困難もありますが、加齢による生活上の困難もあります。特に移動や排泄・入浴動作などを助ける住宅改修や住宅改造は、その方の状態に合ったもの、ご本人の受け入れやすい変化であれば、できることを増やし、状態を保つために有効です。また、家族の介護負担の軽減にもつながります。
認知症だから住宅改修工事はしない・できない、という先入観にとらわれず、タイミングを図りながら、改修工事も含めて住まいの工夫を行っていく必要があると思います。
もうひとつのポイントは、認知症のある本人の受け入れやすい「使いやすさ」を意識していく視点です。
今回の事例では、トイレの改修後、便器の蓋と便座を下げた状態にしておくと、蓋の上に排尿してしまうという課題がありました。この課題に対して、「この住まいの工夫は失敗だった」と捉えることもできますし、蓋を取り外すなど別の住まいの工夫による対応策も考えられます。
この事例では、「同居家族が用を足した後は蓋を開けておく」ことを心がけて、住宅改修工事後の住環境を、暮らし方の工夫で補いながらうまく使いこなしていました。このように、ひとつの住まいの工夫で作り上げた住まいの環境を継続的に無理なく使いこなす視点その時のご本人が受け入れやすく、使いやすいようにする具体的な住まいの工夫のアイディアを持つことが重要であるのではないでしょうか。この点は、この事例に限らず住まいの工夫全般にいえることであると思います。