第35回 15歳の息子が半年以上ひきこもっています。母親として何をしたらよいのでしょうか?
物静かな青年の「ひきこもり」
【Q】
私は15歳の男児を持つ、50代の母親です。30代半ばで結婚し、40代で授かった息子Yを大変可愛がりました。幼少時は主人が商社マンで不在が多く、近隣の両親がよく遊んでくれましたが、どちらかというと物静かな子でした。4歳のとき、ひどい嘔吐(おうと)を繰り返し、「自家中毒(アセトン嘔吐症)」という自立神経症状を起こしましたが、その後、とくに既往歴はありません。
その後、Yは進学校の私立中学に通い、成績は上位で高校まで両親に反抗もしませんし、いじめの経験もありません。クラブ活動では卓球部に所属し、地道に3年間やり遂げました。第一志望のA大学に進学するため、B高校を受験しましたが、失敗して第二志望のC高校に入学しました。1か月後の5月、「やりたいことが見つからない」といって部屋にこもり、パソコンばかりをいじり、昼夜逆転の生活で家族とも顔を合わせません。
こんな状態が半年も経過し、ネットやゲーム依存の報道を見て親として心配になってきました。厳格な主人は「お前のしつけが悪い。Yを甘やかすな。」と怒鳴り、母親として何をしたらよいのか、困っています。
【A】
家族は専門家に1日も早く相談をし、子育てを1人で抱え込まないようにしましょう。
[解説]
■ひきこもりの原因はさまざまです
YさんはA大学に未来像を描き、B高校への受験を失敗したことから、1人で部屋に半年間こもり続け、自分の行動や心を社会から閉ざす、「ひきこもり」といわれる状態です。思春期(10〜18歳)は大人になるために「自分」と「社会」を一致させ、「自分探し」をする時期であることはよく知られています。また、人に近づきたい、離れたい、助けて欲しい、助けて欲しくないといった葛藤する「両価性」という心性を持つのも大きな特徴です。
厚生労働者(2010年5月)は「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」で、「社会参加を回避し、原則的に6か月以上にわたり、おおむね家庭にとどまり続けて状態を指す概念である」と定義づけています。
ただ、一つ心配なのは、思春期に統合失調症など精神疾患が発病しやすい時期なので、早い段階で医療や福祉、教育の専門家への相談をして下さい。厚生労働省は、「確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべき」としていることも付け加えておきます。
ひきこもりは10代から20代の男性に多く、1〜3年未満と10年以上が多いことが判明しています。ひきこもりになりやすい性格として、真面目でおとなしい、友達づきあいが苦手、強迫的、また、いじめや人間関係、受験の失敗や身内の死など環境の要因も挙げられています。
Yさんは高校受験を契機にひきこもりが始まりましたが、このこと以外にも原因がないか、よく専門家と相談してみて下さい。ひきこもりの要因は単一ではなく、(1)いじめ、(2)家族関係、(3)病気、(4)社会環境など複合的な原因が重なっています。
Yさんにとって(1)解決意欲が高いか、(2)信頼できる人の存在(専門家も含めて)、(3)社会性や対人技能があるか、(4)福祉・医療・教育機関の連携が図れるかが回復への大きな鍵となってきます。
■家族だけでも専門機関に相談に行きましょう
今の状況からですと、Yさんが専門機関に相談に行くとは考えにくいので、まずは両親や祖父母といった家族がひきこもり、地域支援センターや保健所、発達障害支援センター、児童相談所など福祉機関、児童精神科、精神科といった医療機関へ、ご相談をすることをおすすめします。ご家族から専門機関に本人や家族の現状をよく伝えてあげて下さい。Yさんはよほどのことがない限り、精神科や児童精神科受診への恐れや不安を抱いたり、理解のない医師へ攻撃や抵抗を示すことも考えられます。
私が関わった事例では、家族が保健所に相談をし、保健師経由で医療機関につなげ、その後も支援を受けているケースが多々あります。Yさんが辛いことを家族が説得できなければ保健師のような専門家がYさんの苦悩を治療で軽くするためという、やさしいアプローチで受診を促す方法もあります。医療機関につながれば家族がYさんに勇気を持って受診したことをねぎらってあげてほしいと思います。
さらに、専門機関にすることで、(1)統合失調症や気分障害などの病気、(2)発達障害や知的障害、(3)パーソナリティー障害、(4)身体疾患、(5)社会や家族環境、(6)支援における社会資源評価など、健康でありながら失敗による不適応から生じるストレス障害なのか、精神病や障害などを抱えているのか、支援や治療方法は全く異なってきます。長期化させないためにも適切な支援や治療が受けられる専門機関を探しましょう。
■ひきこもりの回復過程
Yさんのようにひきこもりの回復過程には、主に4つの段階を経るといわれています。まず「準備段階」は身体症状や不安、緊張の高まりや抑うつ気分が一般的です。しかし、Yのようにおとなしい子であれば、元気がない程度で見過ごしてしまうこともあるかもしれません。
その次に「開始段階」が始まり、葛藤や子ども帰り、暴力など激しく退行する場合もあります。もっとも、Yさんはこのように家族のような身近他者である家族にこのような行為は働いていませんので、心の内に葛藤を抑えていたかもしれません。
また、Yさんは部屋にこもり、パソコンばかりいじっているとのことですが、このことは「ひきこもり段階」であり、不安定さがひとまず落ち着き、社会的活動を避け、ゲームやインターネットへ長時間没頭したり、夜間にコンビニへ1人で買い物にも出かけたりもします。漠然と社会情勢や具体的な社会活動へ関心を示し、模索を始める時期です。Yさんは両親や友達と関わることをせず、自力で将来に向けての情報を探しているのかもしれません。
この時期は幼児のように母親にしがみつき、過大な要求や暴力、不安、抑うつ、解離など精神症状が出たりする反面、社会情勢や具体的な社会活動に徐々に関心を持ち始める時期でもあります。
さらに「社会との再会段階」では、戻る社会生活(復学や就職も含む)とひきこもりの中間に属し、両者を橋渡しする中間的、過度的な時間と場を利用する機会を求めるようになります。家族や専門家は慎重に社会活動や新たな場へ挑戦できるよう、各段階を踏まえながら支援法を変えていく必要があります。
■社会の適応の一つとしてのひきこもり
ところで、YさんはB高校の受験に失敗し、挫折や劣等感、将来の不安や緊張から「やりたいことが見つからない」と言葉にし、ひきこもりという行動として社会への適応を保っています。両親や祖父母、専門家も含め、少子高齢化時代でゆとり教育と成果主義という矛盾のなかで、国民総不安という「失われた世代」で育った子どもの環境をかんがみてみる必要があると思います。
Yさんは幼少時代から厳格な父や優しい祖父母に、喧嘩もしない優しいいい子として育った反面、嫌なことは言語化できずに抱え込み、唯一、「やりたいことが見つからない」と気持ちを言葉にしたように思えてなりません。実はA大学を志願したのも厳格な父親を超えて勝つため、父に対する無言の反抗であるような気がします。Yさんは4歳のときに「自家中毒」という武器を持ち、父親に身体化することで闘い挑みましたが、一時的に関係は祖父母が修正したと考えられます。今回も父親の壁を越えられませんでしたね。
しかし、父親はいずれ体力や知力で子どもに追い越され、子どもは大人になっていきます。私たちシニア世代とYさんとは、育った時代背景の違いを尊重しつつ、しっかり気持ちを受容し、信頼や安全な場を確保することです。また、Yさんがインターネットネットやメールによるカウンセリングで専門機関につながるケースもあるので、有害でなければ活用する意義も大きいでしょう。Yさんと焦らず、やりたいことを一緒に探してみたり、なるべく気持ちを言葉にさせる姿勢で関わってあげて下さい。
Yさんのひきこもりは行動化という一つの家族や社会への表現であり、復学、大学検定試験、就職など今後の選択肢は多岐にわたります。専門機関は個別支援や集団支援(同世代)を交えながら、生涯発達の視点でYを支えてくれるはずです。
最後に、あなたも専門機関で開催される研修や集いなどに参加し、子育ての悩みや辛さを言葉にすることで気持ちを発散したり、地域の支援機関や当事者グループの情報を得たりすることで、子育ては1人ではないという視野を広げてみてはいかがでしょうか。
私は15歳の男児を持つ、50代の母親です。30代半ばで結婚し、40代で授かった息子Yを大変可愛がりました。幼少時は主人が商社マンで不在が多く、近隣の両親がよく遊んでくれましたが、どちらかというと物静かな子でした。4歳のとき、ひどい嘔吐(おうと)を繰り返し、「自家中毒(アセトン嘔吐症)」という自立神経症状を起こしましたが、その後、とくに既往歴はありません。
その後、Yは進学校の私立中学に通い、成績は上位で高校まで両親に反抗もしませんし、いじめの経験もありません。クラブ活動では卓球部に所属し、地道に3年間やり遂げました。第一志望のA大学に進学するため、B高校を受験しましたが、失敗して第二志望のC高校に入学しました。1か月後の5月、「やりたいことが見つからない」といって部屋にこもり、パソコンばかりをいじり、昼夜逆転の生活で家族とも顔を合わせません。
こんな状態が半年も経過し、ネットやゲーム依存の報道を見て親として心配になってきました。厳格な主人は「お前のしつけが悪い。Yを甘やかすな。」と怒鳴り、母親として何をしたらよいのか、困っています。
15歳・男児の母
【A】
家族は専門家に1日も早く相談をし、子育てを1人で抱え込まないようにしましょう。
[解説]
■ひきこもりの原因はさまざまです
YさんはA大学に未来像を描き、B高校への受験を失敗したことから、1人で部屋に半年間こもり続け、自分の行動や心を社会から閉ざす、「ひきこもり」といわれる状態です。思春期(10〜18歳)は大人になるために「自分」と「社会」を一致させ、「自分探し」をする時期であることはよく知られています。また、人に近づきたい、離れたい、助けて欲しい、助けて欲しくないといった葛藤する「両価性」という心性を持つのも大きな特徴です。
厚生労働者(2010年5月)は「ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン」で、「社会参加を回避し、原則的に6か月以上にわたり、おおむね家庭にとどまり続けて状態を指す概念である」と定義づけています。
ただ、一つ心配なのは、思春期に統合失調症など精神疾患が発病しやすい時期なので、早い段階で医療や福祉、教育の専門家への相談をして下さい。厚生労働省は、「確定診断がなされる前の統合失調症が含まれている可能性は低くないことに留意すべき」としていることも付け加えておきます。
ひきこもりは10代から20代の男性に多く、1〜3年未満と10年以上が多いことが判明しています。ひきこもりになりやすい性格として、真面目でおとなしい、友達づきあいが苦手、強迫的、また、いじめや人間関係、受験の失敗や身内の死など環境の要因も挙げられています。
Yさんは高校受験を契機にひきこもりが始まりましたが、このこと以外にも原因がないか、よく専門家と相談してみて下さい。ひきこもりの要因は単一ではなく、(1)いじめ、(2)家族関係、(3)病気、(4)社会環境など複合的な原因が重なっています。
Yさんにとって(1)解決意欲が高いか、(2)信頼できる人の存在(専門家も含めて)、(3)社会性や対人技能があるか、(4)福祉・医療・教育機関の連携が図れるかが回復への大きな鍵となってきます。
■家族だけでも専門機関に相談に行きましょう
今の状況からですと、Yさんが専門機関に相談に行くとは考えにくいので、まずは両親や祖父母といった家族がひきこもり、地域支援センターや保健所、発達障害支援センター、児童相談所など福祉機関、児童精神科、精神科といった医療機関へ、ご相談をすることをおすすめします。ご家族から専門機関に本人や家族の現状をよく伝えてあげて下さい。Yさんはよほどのことがない限り、精神科や児童精神科受診への恐れや不安を抱いたり、理解のない医師へ攻撃や抵抗を示すことも考えられます。
私が関わった事例では、家族が保健所に相談をし、保健師経由で医療機関につなげ、その後も支援を受けているケースが多々あります。Yさんが辛いことを家族が説得できなければ保健師のような専門家がYさんの苦悩を治療で軽くするためという、やさしいアプローチで受診を促す方法もあります。医療機関につながれば家族がYさんに勇気を持って受診したことをねぎらってあげてほしいと思います。
さらに、専門機関にすることで、(1)統合失調症や気分障害などの病気、(2)発達障害や知的障害、(3)パーソナリティー障害、(4)身体疾患、(5)社会や家族環境、(6)支援における社会資源評価など、健康でありながら失敗による不適応から生じるストレス障害なのか、精神病や障害などを抱えているのか、支援や治療方法は全く異なってきます。長期化させないためにも適切な支援や治療が受けられる専門機関を探しましょう。
■ひきこもりの回復過程
Yさんのようにひきこもりの回復過程には、主に4つの段階を経るといわれています。まず「準備段階」は身体症状や不安、緊張の高まりや抑うつ気分が一般的です。しかし、Yのようにおとなしい子であれば、元気がない程度で見過ごしてしまうこともあるかもしれません。
その次に「開始段階」が始まり、葛藤や子ども帰り、暴力など激しく退行する場合もあります。もっとも、Yさんはこのように家族のような身近他者である家族にこのような行為は働いていませんので、心の内に葛藤を抑えていたかもしれません。
また、Yさんは部屋にこもり、パソコンばかりいじっているとのことですが、このことは「ひきこもり段階」であり、不安定さがひとまず落ち着き、社会的活動を避け、ゲームやインターネットへ長時間没頭したり、夜間にコンビニへ1人で買い物にも出かけたりもします。漠然と社会情勢や具体的な社会活動へ関心を示し、模索を始める時期です。Yさんは両親や友達と関わることをせず、自力で将来に向けての情報を探しているのかもしれません。
この時期は幼児のように母親にしがみつき、過大な要求や暴力、不安、抑うつ、解離など精神症状が出たりする反面、社会情勢や具体的な社会活動に徐々に関心を持ち始める時期でもあります。
さらに「社会との再会段階」では、戻る社会生活(復学や就職も含む)とひきこもりの中間に属し、両者を橋渡しする中間的、過度的な時間と場を利用する機会を求めるようになります。家族や専門家は慎重に社会活動や新たな場へ挑戦できるよう、各段階を踏まえながら支援法を変えていく必要があります。
■社会の適応の一つとしてのひきこもり
ところで、YさんはB高校の受験に失敗し、挫折や劣等感、将来の不安や緊張から「やりたいことが見つからない」と言葉にし、ひきこもりという行動として社会への適応を保っています。両親や祖父母、専門家も含め、少子高齢化時代でゆとり教育と成果主義という矛盾のなかで、国民総不安という「失われた世代」で育った子どもの環境をかんがみてみる必要があると思います。
Yさんは幼少時代から厳格な父や優しい祖父母に、喧嘩もしない優しいいい子として育った反面、嫌なことは言語化できずに抱え込み、唯一、「やりたいことが見つからない」と気持ちを言葉にしたように思えてなりません。実はA大学を志願したのも厳格な父親を超えて勝つため、父に対する無言の反抗であるような気がします。Yさんは4歳のときに「自家中毒」という武器を持ち、父親に身体化することで闘い挑みましたが、一時的に関係は祖父母が修正したと考えられます。今回も父親の壁を越えられませんでしたね。
しかし、父親はいずれ体力や知力で子どもに追い越され、子どもは大人になっていきます。私たちシニア世代とYさんとは、育った時代背景の違いを尊重しつつ、しっかり気持ちを受容し、信頼や安全な場を確保することです。また、Yさんがインターネットネットやメールによるカウンセリングで専門機関につながるケースもあるので、有害でなければ活用する意義も大きいでしょう。Yさんと焦らず、やりたいことを一緒に探してみたり、なるべく気持ちを言葉にさせる姿勢で関わってあげて下さい。
Yさんのひきこもりは行動化という一つの家族や社会への表現であり、復学、大学検定試験、就職など今後の選択肢は多岐にわたります。専門機関は個別支援や集団支援(同世代)を交えながら、生涯発達の視点でYを支えてくれるはずです。
最後に、あなたも専門機関で開催される研修や集いなどに参加し、子育ての悩みや辛さを言葉にすることで気持ちを発散したり、地域の支援機関や当事者グループの情報を得たりすることで、子育ては1人ではないという視野を広げてみてはいかがでしょうか。
精神保健福祉士・臨床発達心理士 田島洋介
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(アクティブシニア編集部)